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マレーシア・クアラルンプール旅行記 3日目 マラッカ編

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出立は祈りの朝に

早朝、まだ暗いホテルの部屋にアラームが鳴る。
それを覚醒し切らないまま止め、二度寝しないよう身体をほぐしはじめる。

アラームが消えた空間で、ふと耳慣れない音に気づいた。
抑揚のついた声が、窓の外から聞こえている。
追って起きてきた妻が、イスラムのお祈りだよ、と教えてくれる。
朝だけでなく礼拝時間に流されるものらしい。ここまで早く起きることがなかったので初めて気づいた。

この何気ないときが、この旅の中でも印象に残っているシーンの一つだ。
窓から見下ろす街には、車も人もいない。
まだ動き出す前の大都市に、有機的な異国の声が響いている。
内容も言語もわからないが、自然と気持ちが落ち着いていた。

急いで身支度を進め、Grabを手配して向かうのは、TBSと略されるバスターミナルだ。
そこからさらに高速バスに乗って世界遺産の街マラッカへを目指す。

乗り込んだGrabの運転手からマラッカに行くのかと聞かれた。
マラッカへの交通手段は基本的に高速バスとなるので、こんな朝早くにTBSに向かう観光客はほぼそうなのだろう。

それから妻を含む3人でしばし話が弾んだ。
このときまでに複数回Grabを使っていたものの、相手から積極的に話してくるのは初めてだった。これは完全に人に寄ると思う。
北海道に旅行したことがあり、今度は石川に行きたいとのことだった。日本、しかも都心だけでなく地方へも魅力を感じていてくれて嬉しくなる。
逆にマレーシアならペナン島に行ったらよいと強く勧められた。
別日にGrabに乗った際にも話好きな運転手がペナン島を推していた。
今回は予定に組み込めなかったが、既にお気に入りになったクアラルンプールを再び訪れたなら、必ずペナン島にも行こう。

会話を楽しみつつも、予定時刻通りにバスターミナルに送り届けてもらえ、チケットカウンターへと向かう。
流動的なスケジュールで進行している旅なので、今回は当日にチケットを購入することにした。事前にネットで予約もできるらしい。
運良く15分後に出発するバスが空いており、残り3席の枠に滑り込んだ。

バスへの乗り口

バスの乗り口へは発券されたチケットのコードをかざさないと入れない。出発時刻が近づくと呼び出しもあり、システムは飛行機の搭乗に近しい。
バスはシートベルトが壊れているなどあったものの、冷房が効いていることだけで十分にありがたい。
2時間ほど揺られて、マラッカのバスターミナルへと到着した。

バスターミナルからマラッカ市街地へは少し距離があり、市内バスに乗るかGrabを呼ぶかしないといけない。
ここでもGrabを選択し、マラッカ海峡モスクを目的地に設定した。モスクも市街地から距離がある場所にあるので、先に寄っておく計画だ。

マラッカ海峡モスクは名の通りに海岸に建っている。正面からぐるりと回り込むと見渡す限りの大海原が広がっていた。
夕日に照らされる姿が美しいそうだ。訪れたのが午前中だからか観光客が少なく、のんびりと見て回れた。

白い外観が清らか

この旅で初めての現地猫にも出会えた。
そこここに何匹もいて、モスクの中にも気兼ねなく入っていく。気ままに暮らしているようだ。

モスクの入口で出迎えてくれた黒猫
このまわりにも何匹もいた


マラッカ街歩き

モスクからは再びGrabに乗って、マラッカ中心部のジョンカーストリートに降り立った。
中華系の移民によるババニョニャ文化が有名という情報は事前に仕入れていたものの、予想していた以上に中華文化を感じた。
マラッカはポルトガル領であった過去もあり、さまざまな文化が流入しているので、別のエリアでは異なる景観が広がっていると思われる。

中国のお祭り感に溢れていた
ウォールアートの数々で街歩きも華やかに

目当てのコーヒーショップ兼雑貨屋Calanthe Artisan Loftにまず向かう。
スーパーでよく売られているコーヒーはお湯でとかすスティックタイプで、ドリップや豆が意外と見つからない。
一方ここではマレーシア各州の豆を使ったドリップコーヒーを売っている。全13州の詰め合わせセットを無事にゲットできた。

続いてオランウータンハウスへと足を伸ばす。

オランウータンでしかない

アーティストCharles Cham氏のデザインした様々な柄のTシャツを購入できる。
夏はTシャツを愛用しているので、旅の記念という付加価値込みで買いに伺った。
壁にいくつもアート作品が並び、それらをプリントしたTシャツが30種ほどはあったと思う。店員の方も気さくに話しかけてくれ、気にいったデザインを2枚買った。

その後、通りの店を適当に入っていたりしているうちに、昼どきがやってきた。
今日はマラッカのニョニャ料理を食べに行く。

The Kam Cheng 感情

暑さに耐えられず、店の所在がジョンカーストリートから少し離れた場所でもあったので、またもやGrabを使う。
クアラルンプールから南下したからか、海が近くて湿度があるから、マラッカはより暑く感じた。

ニョニャ料理も旅行前までは、存在すら知らなかった。
大雑把に言うと、中華料理とマレーシア料理が混ざり合って生まれたのがニョニャ料理だそうだ。
調理工程や見た目は中華料理に近いが、素材や香辛料などマレーシアのものを使うことで、他にはない味わいが生まれるとのことだ。
ほぼ毎食で新しい驚きが得られていて楽しい。

Ayam Buah Keruak

調べている中で、ニョニャ料理の中でもAyam Buah Keruakという煮込み料理が特に気になっていた。
マングローブの木の実であるブアクルア(Buah Keruak)と鶏肉を、多種のスパイスで煮込んでいる。ブアクルアは有毒のため土の中に40日ほど埋めて毒ぬきをしないと食べられないらしい。よくぞ食べようとしたなと思う。
肝心の味は、えもいわれぬ美味しさ。
酸味と辛味があって、深いコクはシチューに通じるものがある。他に似たものを挙げられない、まさに未知の味でありながら、食べる手が止まらなかった。

贅沢なライチティー

ライチやナツメがゴロゴロと沈むライチティーも美味しかった。スプーンですくって齧ると優しい甘味が広がる。
妻チョイスの野菜炒めも見た目は普通なのに、味付けにニョニャ料理の秘訣があるのかうまい。バタフライピーで青く色付けられたご飯と一緒にもりもり食べた。
メニューには他にも未知の料理が並び、好奇心が止まらなかった。頼んだものがどれも絶品だっただけに、一層名残惜しかった。



クルーズとカフェと通り雨

昼食後はセントポール教会史跡を観光する。
ポルトガル占領下のマラッカにてキリスト教を布教するために建てられ、おなじみのフランシスコ・ザビエルが活動していたそうだ。
時の流れを感じさせる石壁に惹かれる。墓石が並ぶ様子も趣があった。
史跡なので見るべき場所は多くなく、ざっと見てまわるだけで終える。

墓石は一つ一つデザインが違って面白い

続けてリバークルーズを楽しむ。
ボート乗り場で待っていると、泊まっているホテルのエレベーターで昨晩一緒になった、ダンディーなおじさまを目撃した。高身長である上に、服装がおしゃれなので遠くからでも目に留まる。
サルバドール・ダリに似ている(妻評)ため、我々の間では「ダリおじ」と呼ばせていただいた。奥様含む家族での観光旅行のようだった。
観光地とはいえクアラルンプールから離れたマラッカで出会うとは縁があったのだろう。

川から見えるカラフルな街並み

クルーズ船はマラッカの川を遡上し、数十分で折り返して戻ってくる。
日差しは相変わらず強いものの、風を切って進む船の上では幾分心地よい。カラフルな街並みを眺めたり、橋の下をくぐったりと景色の変化が楽しかった。
帰りの降り場は数ヶ所選べたので、ジョンカーストリート近くの船着場で下ろしてもらった。
ここからは午後のカフェタイムである。

The Daily Fix Cafe

目的のカフェへの途中で、雰囲気が良い店を見つけたので寄り道した。
奥に長い間取りで、入り口からの手前半分は雑貨やジェラートを、その先はテーブル席が並ぶカフェとなっていた。

陳列された雑貨がどれも魅力的で、特にピンバッチに心奪われてしまった。
雑多に放り込まれたピンバッチの山を掘り出すほどに、違うデザインのものが出てきて、完全に探索モードに入る。隅から隅まで吟味して3種類まで絞り込んだ。

夢中で探しているうちに、気づけば店の前の道は傘をさす人で溢れていた。通り雨だ。
レジ前にあったジェラートも気になったので、雨が止むまで小休憩とする。

ジェラートを持ってカフェスペースにお邪魔したところ、カフェメニューも気になってしまい、追加でいただくことにした。
少し立ち寄ったはずだったのが、気づけばしっかり腰を落ち着けてしまっている。

ウッディで緑の多い空間が落ち着く

気になったのがSignature Salted Gula Melakaという一杯である。
コーヒーなのにSaltedとは一体と思いながらも、Signatureという言葉に後押しされた。

Signature Salted Gula Melaka

見た目はカフェラテで、味わいは塩キャラメルが一番近い。
頼んだ時には気づかなかったが、Gula Melakaというのがマラッカ名産の椰子の樹液から作られる砂糖のことだった。
椰子砂糖の深い甘味とコーヒーの豊かな香りと苦味、それらを引き締めて一つにまとめる塩味と、見事に調和が取れている。さすがはSignatureだ。
飲んでいるうちに雨も止み、元々の目的地であるカフェへとハシゴする。


Calanthe Art Cafe

午前中にマレーシア各州のドリップコーヒーを買ったCalanthe Artisan Loftの本店である。
訪れてみればこちらでもドリップコーヒーを売っており、カフェ利用ついでに購入できるようだった。

コーヒー香る店内

お土産で購入したドリップコーヒー同様、カフェでもマレーシア各州のコーヒーをいただける。せっかくなのでマラッカ州のコーヒーを選ぶ。
16時すぎと少し夕食には早いものの、ニョニャラクサも注文する。麺類はいつ食べても良い。

マラッカ州の豆を使用したコーヒー
ニョニャラクサ

ココナッツのまろやかさに程よい辛味があって美味しい。フィッシュボールや揚げなどの具材がたっぷり入っていた。
ラクサといえばシンガポールのイメージだったが、ニョニャラクサも絶品だった。


クアラルンプールまでの移動の2時間を想定して、ここでマラッカ観光を切り上げる。
帰りのバスもターミナルで購入、発券してもらった。マレーシアの各地やシンガポールへと向かう路線がありローカル感が漂っている。
偶然にも帰りのバスは行きよりも良いグレードのものに当たり、観光で疲れた身体を休めることができた。

夕方にラクサを食べたので、今晩はスーパーで軽く買ってホテルでつまむことしにした。
買った中でも一番の目玉が、ニョニャ菓子のオンデオンデである。

餅菓子オンデオンデ

もはや親しみを感じるパンダンによって緑に着色された餅、その周りにココナッツがまぶされている。
口に放り込んで驚かされる。優しい甘味が内側から広がった。餅の中に蜜が閉じ込められていたのだ。この蜜もGula Melakaを用いるらしい。
今後、旅の後半でも他のニョニャ菓子を食べるのだが、このオンデオンデを超えるものはなかった。

ここで旅もおおよそ折り返しである。
明日からはホテルを変えるので、一旦荷造りをして就寝した。スーツケースに少しずつお土産が溜まっているのが嬉しい。

4日目に続く


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