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雑誌のデジタル版を買ったうしろめたさ

 どうしても手に入れたい漫画雑誌のデジタル版を買った。この雑誌を求めて、おととい、近所のコンビニをまわり、痛みはじめた左の膝をさらに痛めた。あすは、またコンビニめぐりをするつもりでいたが、待ちきれずにデジタル版を買ったわけである。

 現役時代、さんざん漫画のデジタル化を進めてきたというのに、わるいことをしたかのような後味がある。ぼくが社内でデジタル化を推進できたのは、経営者たちの理解があり、また、ぼくが相応に齢を食っていたからだった。社内で白眼視されていたころの居心地のわるさが、いまになってよみがえってきた。

 新卒の23歳になる年の4月から75歳の8月までの63年間、ずっと雑誌社で生きてきた。30代のなかばで半年ほど、ラジオ番組を手がける広告代理店にいたが、また、雑誌業界へもどっている。二度目の雑誌社は漫画雑誌を発行している会社で、ぼくは30代なかばにして、漫画雑誌の編集者として出直した。

 一流の編集者は何を扱っても一流であらねばならないそうだが、もともと三流編集者のぼくは出直しに苦労している。言い訳になるが、漫画雑誌の編集者は、とりわけ特殊な技能が求められる。それだけになおさら苦労があった。

 入社から11年たったとき、長兄のような親しみを持っていた9歳年長の2代目の社長に呼ばれ、次の人事異動で編集から離れると告げられた。社長室を出るとき、「どうせ、おまえ、漫画の編集なんか続けたくないだろ」といわれ、にっこり笑って頭を下げた。

 編集部を離れたおかげでさまざまな仕事を経験した。最終的にいきついたのは漫画作品のデジタル配信である。最初、社内からは総スカンだった。さいわい、社長とその子息の専務が理解してくれた。

 そんな男でも紙の雑誌には愛着があるらしい。自分で予知したとおり、時代は大きく変わっているというのに、やはり新しい時代についていかれないのだろうか。

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