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【エッセイ】誕生日プレゼントと苦い思い出


 誕生日プレゼントや贈りものは、事前に「コレ!」と決めて買いに行くより、色やモチーフなどある程度だけ考えて買い物しながらその時の出合いを求める派だ。
しかし、ここ数か月そうもいかない期間が続いている。
この春にプレゼントを贈りたい人が何人かいた。いつものようにじっくり買い物はできない。「なにがいいかなー。」ネットの情報を見つめながら、かつて自分がもらった誕生日プレゼントを思い出していた。
たくさんの温かい思い出のなか、後悔とセットで根深く心に残っている思い出がある。

 小学校6年生、私の12歳の誕生日。当時いちばん仲良くしてくれていた友達からプレゼントをもらった。
一本のリップクリーム。
私はそのリップクリームを知っていた。友達がとても大切に使っていたものだ。
半透明の筒状の容器に入ったそれは乳酸菌飲料のような甘さと、けれど鼻をすーっと通る爽やかな香りがして、女子生徒の間で話題になった。しかし近所の薬局やスーパーでは見かけることのないもので、その友達しか持っておらず、大勢の女子生徒から「ほしい!」「ちょうだい!」と言われるたびに「だめ!」と友達が断っていたのを何度も見ている。
そのリップクリームを友達は私にくれたのである。

嬉しかった。とても嬉しかった。
優越感もあった。

それ以上に、逃げたくなってしまった。

それから卒業までの期間、私はその友達を避けてしまった。
あれから時間が経ってしまって、今の私は当時の気持ちを推し量ることしかできないが、友達の気持ちが重くて嫌だったのではない。
あんなに大切にしていたものをもらって、私は同じだけ大切に思うものをあげられるだろうか。…私にはできないと思った。
友達がこんなに思ってくれるような人間じゃない。
いずれそんな汚いところに気づかれて離れていかれるかもしれない。
こんなに思ってくれる友達の存在がとても嬉しくも怖かった。

「私なにか嫌なことしちゃったかな?」
「なんにもないよ。」
そう返したあとの友達の表情を見て傷つけてしまったことに気づいたのに、どうしたらいいのか分からないまま小学校を卒業し、別々の中学校に進学してから一度も会えていない。

苦い。苦い思い出。でもきっとまだ終わったことではない。
いつか再会が叶った時、謝りたい。でも謝ることは許してもらうことを、「もういいよ」という言葉を、強要させているような気もする。もし許せないという思いを抱いた時に友達が再び苦しい思いをするだろう。
未だにどうしたらいいのか分からないが、できることはごちゃごちゃ考えずその時の気持ちを正直に話すことしかない。

 プレゼントをもらうと、その中にお金だけじゃない、かけてくれた時間や思いを感じることができる。それらに見合った自分でいたいと思う。
引き続きプレゼント選びも楽しんでいくぞー。

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