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P.A.WORKS 「駒田蒸留所へようこそ」を観て

待ちに待っていた映画が公開されたので観てきた。

https://gaga.ne.jp/welcome-komada/

ウイスキーの蒸留所を描いたアニメーション映画、というプレスを見たときは心躍った。そして作品を手掛けるP.A. WORKSといえば「お仕事シリーズ」でこれまでも人気アニメを制作してきていたので、これは間違いないだろうと。

本当は試写会などにも行きたいところではあったのだけど、仕事等もろもろの都合で行けなかったので、公開から1週間ほどしてようやく映画館に足を運ぶことができた。

結論から言って、期待に違わず良く出来ていた。いい作品だった。

期待を大きく上まわってくる、というようなこともないけれど、作品柄そういう類のものではないし、しみじみと良い作品だなあと思えるような映画、という意味でしっかりといい作品。

なんだか回りくどい褒め方をしているように聞こえてしまうけれど、ちょっとでもお酒に興味があるような人であれば、ぜひ見に行ってほしいと思う。

知っている蒸留所の風景が描かれている! とか
知っているBarのあの人が描かれている! とか
そういう「知っている勢」だから楽しめる要素というのはもちろんあるのだけれど、そういうのは知らなくても楽しめるし、物語の核となっている部分というのはウイスキーの製造そのものではない(と自分は思った)ので、そのあたりは全く問題ない。

その上で、物語の舞台になっている駒田蒸留所は設定上は架空ではあるものの、その多くは富山にある「三郎丸蒸留所」が中心となって描かれている。これはP.A. WORKSも富山が本拠地ということで、富山つながりだったりしたそうな。

三郎丸蒸留所は、ここ数年は毎年のように訪れていて、日本のウイスキー蒸留所の中でも最も好きな(いわゆる推しの)蒸留所のひとつ。蒸留所の改修も何度も行い、ビジターセンターや見学コースもしっかり準備されているため、これも興味を持たれた方はぜひ訪れてみてほしい。

もちろん三郎丸蒸留所だけではなく、劇中で描かれているその他の蒸留所も。描かれていないけれど協賛している蒸留所はたくさんあって、近いところにないか探してみるのが良いと思う。

蒸留所を訪れることの楽しさは、もちろん実物の設備などを「見る」ことだったり、ウイスキー製造の工程を「聞く」ことだったり、はたまた最後に試飲があれば「味わう」ことだったりするのだけれど、意外と重要なのが「におい」を感じること、だと思っている。

敏感な方は、蒸留所に近づいただけで独特のにおいを感じることができると思う。そして、糖化・発酵・蒸留・熟成の各工程で、それぞれ全然別のにおいが満ちていることを感じ取れると思う。もちろん、試飲の際のウイスキーの香りもまた格別だけれど、そこに至るまでのにおいの変遷というのも感じて、ウイスキーの製造をまさに五感をフルで使って体験してみてほしい。

知っている蒸留所の風景が描かれている! とか
知っているBarのあの人が描かれている! とか
そういう「知っている勢」だから楽しめる要素というのはもちろんあるのだけれど、そういうのは知らなくても楽しめる内容になっていると思う。


以下、感想が続くけれど、物語の本筋に触れるため未鑑賞の方は閲覧の際にはご注意を。



さて、映画で描かれているのはウイスキーの製造という、一般的にはほとんどの人が馴染みのない仕事を扱っているものの、本質的にはこのシリーズ名が表している通り「仕事」に対してどのように向き合うのか、ということが軸となっている。

主人公のライターは、25歳にして5社目だと劇中で漏らす。基本的に1年未満での転職を繰り返しているようで、そして開幕時点では特にやりたいことも目標もなく、ただなんとなく(おそらくは生活の糧を得るためだけに)仕事をしている、という状態。当然にように、仕事が楽しいわけでもなくやりがいも感じられない。

一方のヒロインである蒸留所の女社長は、若くして自社のウイスキーをヒットたせた天才肌、という風に彼には映り羨ましく思う。けれど実態はそんなに華々しいものではなく……という設定。

他の何人かの主要キャラも、基本的には「若いときに描いていた自分のやりたいこと」とは違ったことを生業として、でもそれが自分のやるべきことだと認識して、そして今の仕事に各々の範囲でやりがいを感じている。

これは、仕事というものとどういう風に向き合うのか、ということを切り出した映画だ。

基本的に。、自分の境遇というものは選べない。今それぞれの職場で働いしてる人たちだって、なんでそこで働くことになったのかといえば、ほとんどが偶然の結果じゃないだろうか。◯◯をやっていたら声がかかって、とか、本当は✕✕をやりたかったけどこっちについてそのまま、とか。

自分が好きなPodcast番組のコテンラジオでは、歴史上の偉人のエピソードを取り上げていることが多いが、そこで紹介されている人たちも、の名を知られる偉大な功績にたどり着くまでに酷くまわりみちをしていることがよくある。カーネルサンダースとか。

巡り巡って最後に広く知られるようになったり、すごい成功を収めたり、はたまた成功からどん底に落ちてそのまま死を迎えたり、でもそのご数百年経って評価されたり。

人生なんてどうなるかわからないし、自分で決められることなんてほとんどなかったりする。

ではどうするのか、何にもやりがいを感じないで流されていけばいいのか。

伝教大師・最澄がおっしゃるには、「一隅を照らす」ということばがある。

あなたが身を置くその場所で、誠意を尽くして輝きなさい。それぞれがその場所で一隅を照らせば、隣の人も輝きだしきっと世界にその明るさが広がっていくでしょう、というような意味。

まさにこの通りで、置かれた境遇で頑張るしかない、と思う。大変なことはあっても、その中でも楽しいと思うことを見つけて、そこを中心にできる限り頑張ってみる。

大変かどうか、というのも自分の心の持ちよう次第で決まってくる。大変で辛い、大変だけど楽しい。どうせなら楽しいと思ってやる方が良い。そういうことほど時間の流れも速く感じるので、なにか楽しいと思えるように自分で仕組みを考えていくしかないし、そのほうが建設的というもの。

ただ、搾取的な構造の中にいたり、ブラックな状況に置かれていたりするのであれば、そこからは逃げて良いはず。逃げ道は用意しつつも、辛いことが自分の心の問題なのか、周りの環境の問題なのか。そこはしっかりと冷静に見極めつつ、最悪は逃げるのもあり。

話がだいぶそれてきてしまったけれど、そういう仕事との向き合い方を、考えさせられる、そしてひとつの好例として参考になるのでは? と思わせられるような、そんなことを考えながらスタッフロールを眺めていた。


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