『生まれたときからアルデンテ/平野紗季子』読了
紡がれた言葉に、とても深いアイデンティティが見えた気がした。
最近 Podcast で「味な副音声」という番組を聞いている。J-Waveで流れているらしいので、もしかしたら地上波(?)専門の人でも聞いていたりするかもしれない。
この番組のパーソナリティで、この本の著者でもある平野紗季子という人のことは、実は全く知らなかった。フォローしている料理家のイナダシュンスケさんが、告知でゲストに呼ばれた会があったというので聞きに行ってみた次第。そこから通常会のPodcast配信も聞いてみたりしはじめた。
正直に言うと、当初この人の声や喋り方は好きじゃなかった。甘ったるい感じで、ふわふわガールズトーク的な進み方。自分の好みからはかなり遠いところにいる存在という感じ。男性ゲスト回はあまりそういう感じではないので良かったのだが、女性ゲスト回だとその色合いが濃くなったりもして。正直、普通に聞くのはしんどいな、と思ってフォローはしなかった。
でも幾つかのゲスト回を聞く限り、かなりすごいところまで考えているし理解していることは分かったし、自分なんかよりもものすごいグルメかつフードサイコパス的なニュアンスを持っていることが感じ取れた。食事のことを表現する言葉がとても多彩だし、ゲストの幅も広くて交友関係の広さが伺える。なにより単に美味しいものを食べるだけで満足しているわけではなくて、その背景にある料理人のことだったり、作物のことだったり、地球環境のことだったり、いろいろなものを考えている人なんだと分かってきた。
ちょっと気になってきたところで読んでみたこの本は、ご本人が23歳のときの著書らしい。普段の音声というコンテンツではなく、活字というコンテンツでこの人の考えを見てみたとき、
「こんなにも言葉を操れるひとがいるんだな」
という、驚嘆とも言えるくらいの衝撃があった。
短編で収録されているそれぞれのエピソードは、エッセイだったり詳細なルポだったり、ときには詩だったり一言コントだったり。本当にいろいろな表現で、好きな食べ物、好きじゃない食べ物、それ以外にも食のことについて表現している。どうやったらこんな表現が浮かんでくるのか、本当に不思議。こんな世界を持っている人がいるんだ。
他人の思考を見せられたとき、面白いと思わなかったり、逆に気持ち悪いと思うようなこともあるのだけど、なんというか、この人の考えはそういう感じはしなかった。面白いと思った。賛同しない内容もあるけれど、でもそれも含めて面白いと思う。
それにしても、こんなに若くしてこんなにグルメのことを知っているなんて、どんな食育を受けてきたのだろう。どうやら子供の頃からご両親と外食をすることが多かったようだけれど(しかも結構良いところで)、やはり家庭環境は大きな影響を与えるみたい。
ここで自分のことを振り返ってみると。
子供の頃、外食をしたことってほとんど無い気がする。家は駅からも離れていて周りにレストランというものはほとんどなかったし、中学高校は弁当持参で夜も家に帰ってから母親の手料理を食べていたので、外食をするような機会ってほとんど無かった。
土日もどこかへ外食に出かけるというのは、習慣としてはゼロ。ときどきイベントごとなどがあればもちろん外食はした。会席料理のような店に連れて行ってもらったことは、数回記憶がある。あとは焼肉屋とかそういうのもあったけれど、年に2,3回あっただろうか。どこか特定の店に「美味しいからそこに行こう」ということはなかった。
母は料理上手だったこともあって、下手な外食よりも美味しい食事だったから、自分としても外食の必要性も感じなかったのだと思う。
ああでも、大人になってからときどき、「あそこの平日ランチは美味しかった」という話が結構出た気がする。おそらくそれは、子が親から離れてだいぶ余裕ができた後だったからだと思うけれど、もしかしたら自分が子供の時にも平日は友人たちとちょっと高級なランチにでも行っていたのだろうか。今となってはもうわからないけど。
家庭環境というか子供の時の食生活が与える影響って、やっぱり大きそうだ、というようなことを考えてみた。
閑話休題。
フードエッセイストで雑誌にも写真で登場するような人なので全然別世界の住人のように思えたのだけど、「パンケーキよりもはんぺんだ!」には本当に親近感が湧いた。
洋食だけなくて和食もかなりシブいところを突いているし、高級なものだけでなく安価なものもよくよくご存知のようで。紹介されているところなどでいろいろと気になる店がちらほらと。
ラジオの方も、もっといろいろなエピソードを聞いてみようか、という気分になってきた。