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「嫌われる勇気」を読んで考えた職業上場株投資家と幸せ

きっかけ

以前から上場株式投資家という職業をしていると、構造上幸せを感じにくくなる部分があるのではないかと感じていました(あくまでも難しくさせる要因があるだけですし、幸せは主観的な感覚で決して他人がジャッジするものではないと考えています)。
先日自分の仕事上の課題について考える際に、「嫌われる勇気」を読んだのですが、そのフレームワークを職業上場株式投資家に当てると、幸せを感じにくくさせる要因が少し細かく理解できるように感じました。やや否定的な内容ですが、まずは目を背けずに認識することに意義があると考え、まとめてみたいと思います。
ただ最後にも書きますが、私は「構造を理由にせず、職業上場株式投資家こそ自分の幸せを明確な目的にして欲しい」と思っています。それが社会の持続的な発展に資するインベストメントチェーンには欠かせないと考えるからです。

「嫌われる勇気」の要旨

まずさらっと「嫌われる勇気」についてです。
(以下、要旨)
〇前提
・本書(が基づくアドラー心理学)は、「幸せとは何か、どうやったら得られるか」について扱っている。
・人は主観的な(=自分で意味付けした)世界を生きている。この意味付けのあり方を決めるのがライフスタイル(性格、気質、世界観、人生観を含み、嗜好や行動の傾向を決める)。
ライフスタイルは変えることが可能で、それによって幸福が得られる。

〇結論
幸福の源泉は、誰かの役に立っているという主観的な感覚を得て、自分の居場所を感じること(共同体感覚)。

・共同体感覚を得るためには、
1. できない自分も含め自分を受け入れ自分の理想に向かうこと(自己受容
2. 信じる根拠がなくても他者を信じ仲間と捉えること(他者信頼
3. 他者に貢献しているという主観的な感覚(他者貢献
という3つの要素が必要。これらはライフスタイルに影響される。

・3つの要素は相互につながっている(自分を受け入れるから裏切りを恐れず他者信頼ができる=>他者を信頼し仲間だと思えるから見返りを期待しない他者貢献ができる=>他者貢献していると感じるから自分を受け入れられる=>・・・)。

・他者からの評価や承認でも貢献している感覚は得られるが、それは人を不自由にする(承認をもらえるかどうかは自分ではコントロールできない)。自由と貢献感の両方が必要。
(以上、要旨)

続いて、共同体感覚を得るために重要な3つの要因それぞれについて、職業投資家が外的要因等にどう影響されやすいか考えてみたいと思います。

自己受容について

職業上場株投資家は金銭価値に基づく成果の比較が容易であり、常に相対評価に晒されています。そのため無意識のうちに他者比較の価値観で自分を捉えてしまいやすいように感じます。
また、成果に基づいて報酬が大きく変わる場合、高い報酬が高い自己認知につながることもあります。
こうした他者と比べた成果や持っているもので自分を満たす部分が大きくなると、誰しもが持つ弱さや未熟さを含めた自分自身を受け入れることはより難しくなります。
また、職業上場株式投資家は企業や経営者を評価・判断することが仕事の一部になります。そのレンズが世の中を見る中心のレンズになると、自分自身についても評価判断するようになり、自己受容を難しくする部分もあるように感じます。

他者信頼について

投資家の社会的な役割や、自分の投資リターンの源泉の捉え方が他者信頼には大きく影響するように思います。超過リターンを生むことが役割で、マーケットと向き合い他の投資家に先回りすることがαの源泉という認識だと、αは自分の成果だと捉えやすく、そこに他者の存在や重要性が捨象されがちです。
捨象された他者を信頼したり仲間と感じることは期待できません。投資先企業やその経営者や社員の方が、自分がリターンを上げる手段のように捉える事も起こり得ると思います。
特に投資の時間軸が短期であるほど、より直接的に投資収益につながる要因を取り込むことで視野が狭くなりがちで、自分のリターンが様々な要素に支えられたものであることを認知しにくくなるように思います(ただし、短期であっても複雑な要素を取り込む視野の広い投資もあり得ます)。また、短期の投資はゼロサムゲームの性格が強く、他の投資家を敵だと捉えることに繋がる可能性があります。
上記と重なりますが、他者比較で世界を捉えていると他者を信頼するのは難しいという要素もあります(本書で言う縦の関係)。

他者貢献について

職業投資家が貢献する先として、投資先企業、お客さん、社会を考えてみます。
まず投資先企業から。以前に書いたnoteと関連しますが、セカンダリーでの株式の売買は直接的には企業に何のメリットももたらさないため、普通に株式の売買を行っていても投資先企業に対して貢献している感覚を得ることは困難です。
次にお客さんについてです。職業投資家とお客さんとの関係はお金が媒介するリスクテイクと投資成果の等価交換なので、お客さんからの感謝を感じにくい部分があります(これは他者からの承認で、本書でいう主観的な貢献感とは別の話です。また、感じやすさはお客さんとの関係性のあり方によって異なると思います)。
最後に社会についてです。社会の資源配分の効率性への寄与、株式市場への流動性の供給という要素が思い浮かびますが、これを一投資家の実感として感じることは難しいように思います。拡大しているESG投資やエンゲージメントは株式投資を通じた社会への寄与を感じやすくする要素はあるかもしれません。

この構造は変わっていくはず

ここまで、ドライな視点で職業投資家が幸せを感じにくくする要因について書いてきました。私はこうした要因は、トップダウンで変わっていくべきだし、長期的には変わっていく方向にあると思っています。
サステイナビリティを志向するアセットオーナーや運用会社経営陣が、働くファンドマネジャーやアナリストの幸せを重視するのは必然だと考えるからです(投資先企業に理念と実態の整合性を期待するのであれば、自分達がまず実践する方が望ましいですよね)。そして、人々が経済的なものよりも意味や意義を求めるようになっている社会の変化を考えると、先に適応できたアセットオーナー、運用会社が長期で繁栄できると信じています。

職業上場株投資家こそ自分の幸せを目的にしよう

一方で、職業上場株式投資家の一人一人も、こうした構造があるから仕方がないと考える必要はないと思っています。これはライフスタイルは変えられるという話そのものなのですが、こうした要因を自覚した上で、自分の幸せを目的にすることは可能だと思います。そのためには改めて、自分が何のために投資をしているのか、それを通じてどんな投資家・人間になりたいのかを明らかにすることが第一歩になるように思います。
私は、自分の幸せを明確な目的にするファンドマネジャー、アナリストが増えることは、企業や社会の持続的発展に必要だと信じています。上場株式投資家は一定孤独になりやすい職業だと思うので、一緒に幸せなを目指してもいいかなと思う投資家の方と繋がり、共に前進していけたらと思っています。もし興味を持ってもらえたら、ぜひ気軽にご連絡ください。
(連絡先: contact@rfipte.com)

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