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ニンジャの話 その8 水

トム・ハンクス主演、スティーブン・スティルバーグ製作のマネーピットという映画があります。破格の値段で大きな家を買った夫婦がさまざまな修繕のトラブルに巻き込まれるというストーリーです。私が22歳くらいの時に公開されたコメディ映画なのですが、私は笑えませんでした。私たちの古民家修復プロジェクトはまさにそんな感じだったのです。

特に水回りには苦労しました。水道がないので山の沢を水源として使います。その沢がなんとふた山超えたところにありそこまで数百メートル管を通す必要があります。重い管を抱えて山中に入り敷設する必要がありました。水を使いたい時に使うためには貯水する必要があります。つまり山の中に生活水用の貯水タンクを設置しなければなりません。これも1トンくらいの水を溜めておこうと思うと巨大な設備が必要になります。これを担いで山中に分入り設置しなければなりません。沢水を使っているので水はそこそこ綺麗ではありますが砂が混じります。この砂がタンクの底に徐々に溜まっていくので定期的にタンクの中に入って清掃が必要です。最悪なのは台風などで増水した時です。このタンクごと何度か流されたりしています。その度に元に戻したり、ひどい場合には新しく設置する必要があります。マジでこれはマネーピット(金食い虫)なプロジェクトでした。

 山水は決して良い水ではないので井戸を掘ったこともありました。敷地内には古井戸があったのでこれをより深く掘れば水が出てくると思い掘削しましたがこの緯度は枯れ井戸。掘れど掘れど水は出ません。井戸を掘るのには専門の業者を呼ぶ必要がありコストもかかります。結局井戸は断念せざるをえませんでした。水にはほとほと苦労した私たち。なんでこんなに水がないんや、人が住んでたはずなのに!と思っておりました。

笑い話ですが、昔の家の屋根には「水」と書かれた鬼瓦が備え付けれたる場合があります。そしてこの家の鬼瓦にも立派な「水」のマークが!! 私はこの家は水がなかったから祈りを込めて「水」の鬼瓦をつけたのに違いないと思い込んでいました。(本来は火事が起きないように防火対策のおまじないとして設置されたものだそうです)。平成になって有難いことにこの村に水道が敷設されることになり水の問題はようやく解消することになりましたが、それまでは水には大変大変困らせられたものでした。現代の日本において水へのアクセスが難しいことは経験しないでしょうが、私たちは水のありがたさをあまり経験したくない方法で経験していたのでした。

続く

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