一夜限りの。
お酒の席での出会いは、何故か普通に出会うよりドキドキする。
今日の居酒屋のバイトはこの世の人口が減ったんじゃないかと思うほどに暇だった。
代わりにカウンターに1人で呑みにきていた女性と仲良くなった。
旅好きらしく、今回も一人旅で来ている彼女とは話が盛り上がった。
僕はいつも、気が合うかもと思った人には好きな音楽を聞くことにしている。
「好きなアーティストとかいるんですか??」
「羊文学好きなんです」
好きなアーティストを聞いて最初に羊文学を答えた彼女は一気に魅力的に見えてしまった。
音楽の力はやはり凄い。
「え!僕も羊文学めっちゃ好きなんです!!」
話が盛り上がるタイミングでお客さんが新しく入ってくる。
やはりうまくできているなぁ、と悔しながらにバイトに励んでいると、彼女がお会計に行ってしまった。
彼女がお会計を済ませ、最後の出口の方。
僕はついつい声をかけてしまった。
「あの、僕のバイトもし早く終わったら呑みに行きませんか」
「いいですよ。でも寝てたらごめんなさい」
「何時まで呑む予定ですか?」
「んー、12時には帰るかな」
LINEを交換する。
「じゃあ。」
自分から声をかけるなんて初めてだった。
バイトに戻り、皿洗いを再開する。
ソワソワする。久しぶりに話したいと思う人がいた。1時間でも呑みにいけたらいいな〜と思いながらバイトに励む。
「よし、今日はあがろうか。」
バイトが終わって時計を見る。12時15分を指していた。
先程交換したLINEを急いで開く
「バイト終わりました。まだ呑んでますか?」
返事は来なかった。
もう、寝たのだろう。明日帰ると言っていた彼女と、明日仕事の僕が仲良くなる術などない。
帰り道にとぼとぼ歩きながらある話を思い出す。
「たまたま道端に100万落ちてたのを見つけたやつがいるとする。そいつは100万を見つけて喜ぶが、すぐに落とした人が見つかり、100万を失う。そいつはプラマイ0なのに、何故か100万失った気持ちになる。」
まさにそんな気分だ。
こういう出会いはなぜ度々起こる。
「あぁ、話せて楽しかった」で終われない自分は欲張りなのかもしれない。
一夜限りの、一日だけの出会いと別れ。不思議とこういう出会いをした人ほど、忘れられなかったりする。
結局、酔っ払いたちをくぐり抜け、家に帰る。
ポケットの振動は無いまま、家が近づく。
玄関につき携帯を開く。iPhoneのロック画面は、現在時刻だけを示していた。
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