記憶のあいまに棲みつくもの~2023年9月に読んだ本から
読んだ本を忘れないため、毎月、読んだ本の中から 印象に残った本 を 記事にしている。9月は、2冊。
1 スキマワラシ 恩田陸
不思議な力をもつ散多。兄・太郎とともに 古いタイルを探していた。それは亡き両親につながるものだった。
解体現場に現れる白いワンピース姿の少女は誰? 兄弟は しだいに謎に巻き込まれていく。
タイムトラベル、テレパス、瞬間移動・・いわゆる「超能力」を扱ったお話が、小さい時から、大好きだった私。その力を使って、いろいろな事件を解決していく・・・「かっこいいなあ」と単純に思っていたところもある。
この本の主人公、散多も、不思議な力を持っている。「物にふれると過去が見える」のだ。
ただ散多は、簡単に、軽く、その力を使えるのではない。
喫茶店のコーヒーカップ、居酒屋のハンガー、そば屋の縄のれんなど、全く不用意に かつ思いもよらぬ時に、思いもよらぬモノによって 出し抜けにその力が発動する。
修学旅行で、あるベンチに座ったとたん、
「わーっと熱いうねりのようなものが、凄まじい勢いで全身を走り抜け、友達の前で号泣してしまった」ということもあった。
不意にやってくる、その力のために 外に出るのが恐ろしかったこともあるほど、散多にとってその力は 予測不可能で、制御できない恐ろしいものでもあった。
そうか、不思議な力は本人にとって恐ろしさや苦しみも伴うものなのねえ・・と、そのつらさに遅まきながら気づく私。
話は、亡き両親の遺した仕事を追い求めていく散多と太郎兄弟を中心に進む。そこに、解体現場で目撃される白いワンピースの少女や、不思議な縁でつながる「醍醐 覇南子」など、いろいろなことが複雑にからまっていく。
複雑で、長編(けっこう厚い本です)なのだが、するすると読めてしまうのが恩田陸さんの上手さだとも感じた。
最後に散多という名前の謎も、明らかになるが、これはちょっと笑えた。
タイトルになっている「スキマワラシ」って何?
「座敷童」というのは、良く聞く。古い家に棲んでいて、子どもの姿をしているもの。
「スキマワラシ」とは、兄によると「人と人との 記憶のあいまに棲みつく」ものだと言う。
ううう、こういうことってよくありそう・・・・。
2 君が夏を走らせる 瀬尾まいこ
1歳10ヶ月の子を 毎日、朝9時から夕方まで面倒をみるなんて、どう考えたって大変なこと。
そんな大変なことを、夏休み1ヶ月の間のバイトとして、先輩に頼まれたのは、元不良の高校生・大田。
その子・鈴香は、2時間以上も泣き叫ぶ、食べ物もいっさい受け付けない、当然言葉は通じない。ふりまわされ、くたくたになる大田の毎日。
それでも、昼ご飯を作り、公園に連れて行き、喜びそうな絵本を購入し、と 苦労しながらも なんとか鈴香との日々を過ごしていく。
鈴香と格闘しながら、今までの自分の生き方に思いをはせる大田。
小学生のころからたばこをすい、中学生にはいっぱしの不良だった自分。
中学3年生の時、突然頼まれて駅伝に参加した。「何かを真剣にやるって、誰かと一緒にやるっておもしろい」ということを思い知った。
その後、高校に進学したが、何一つ楽しいことはない。
だんだん、上手に鈴香の相手ができるようになり、愛情もわいてきて、鈴香との別れがつらくなっていく描写が心にせまる。
そして何よりも、後ろ髪を引かれながらも、鈴香とすっぱり別れ、新しい何かに向かって、勢いをつけて一歩踏みだすラストシーンがとてもいい。
大田が、鈴香に絵本を読む場面が出てくる。
「声を出して本を読むのなんて小学校1年生のとき以来」という大田。
小さい子が 同じ本を何度も読んでくれ とせがむのは、よくあることだと思うが、結局22回も同じ本を読んだというのが微笑ましい。
「男の子が、ねずみとうさぎとくまと一緒にスープを飲むのだけど、動物たちが 順番に 腹や手や足にスープをこぼしてしまう。それを『きゅっきゅっきゅっ』と言いながら拭いてやるという話」
これは何の絵本だろう? この本かな?
読み終えてから、この太田は、「あと少し、もう少し」に出てきた人物だったと知る。まだ未読。今度借りてこよう。
それにしても、預かっている間、鈴香ちゃんに怪我がなくてほんとうによかった。
いつもの年より暖かい10月とはいえ、すでにストーブをたいている我が家。
気温もかなり下がり、雨も多い日々。街路樹の紅葉がすすんでいる。
去年は10月8日に目撃した「雪虫」を、10月24日になってもまだ見かけていない。でも道内では、平地でも 初雪のたよりが聞こえてきている。もしかしたら、雪虫を見ないまま、初雪になるのかなあ・・・なんて思っていたら、10月25日、朝、どばっと飛んでいた。
やっぱりきたか。
今年こそ、雪の少ない冬でありますように。(切実)
読んでいただき ありがとうございました。