ベンチャー投資③:株主間契約

ひろです。

前々回の記事でベンチャー投資においては、主には「投資契約」と「株主間契約」に内容的にわかれる場合がある、ということを確認した上で、前回の記事では「投資契約」についてまとめました。

今回は、満を持して(?)「株主間契約」に入っていきましょう。

前回では「買収」との違いも若干述べましたが、「買収」の場合はマジョリティを自ら保有し、取締役会についても同様に過半数を占めるようにすることがほとんどだと思ういます。そのため、あまり「情報取得」や「ガバナンス」について問題になることはありません(自らがガバナンス体制を整えることができるので)。
しかしベンチャー投資の場合はマイノリティに留まることが多いため、情報取得やガバナンスに一定の課題があります。その点が、「買収」との大きな違いとして以下に紹介する内容の背景にあります。

契約主体

株主間契約を締結する主体は、主に言えば、①新規(今回の)投資家、②発行会社、③既存投資家、になりますね(③は深堀りはしないものの具体的な内容にはパターンあり)。

取締役・オブザーバーの選任

発行会社の取締役会に関して、取締役そのものや、あるいはオブザーバーを選任する権利を設定するものです。
これによって、投資家としては重要な意思決定がなされる取締役会での報告内容や議論を知ることができ、経営情報についてより正確に理解することが可能になります。
ただ発行会社としても、特に株主数が多くなったのであれば、さすがに「各投資家につき1名取締役 = よって計15名です」とか「誰彼構わずオブザーバーとして参加可能です = 計30名です」とは言っていられなくなるので、そもそも選任権を認める投資家を制限したり、一度認めても「持分が●%を下回るのであれば選任権が消失する」等の措置をとることになります。
取締役については、関連して責任限定契約や、D&O保険について規定することがあります。

事前承認事項

「発行会社のこれこれこういう事項については投資家の事前承認が必要」=「投資家は拒否権を有する」というものになります。
当然ですが内容としては相応に大掛かりな事項に限定されることになります(極端な話、「100円の支出」のために都度都度株主の事前承認を得ることは考え難いため)。

内容としては、定款変更や事業の変更、新株の発行、配当、各種組織再編、(一定金額以上の)借入や投資また資産購入、資本提携、第三者の債務保証、、、等、非常に多岐にわたることになります(列挙し切れません)。

なお、取締役を派遣している場合は更に「取締役会レベルの拒否権」と、「株主総会レベルの拒否権」にわかれることもあります。

報告事項

対象会社に一定の事由が生じた場合に事前・事後に投資家に報告(したり、事前であれば一定の協議をすることも)する事項についての規定です。
報告なので「お知らせしました」というだけですが、相応に重要な情報について報告を求めるものになります。
事前は事業所や支店開設・廃止や、新事業の開始、事後は災害発生や訴訟開始、等々です(同様に、列挙しきれません)。

情報開示

さて、ベンチャー投資の場合はマイノリティに過ぎないので、必ずしも情報を円滑に取得できるとは限りません。
会社法上で最低限の情報アクセス権があるとはいえ(参考)、会社法に逐一立ち返って情報を取得するというのも面倒です。
…ということで、発行会社による一定の情報開示についても、契約上に規定されることになります。
年度・四半期・半期決算、連結決算版(あれば)、監査済み版(あれば)、予算・予実分析、中長期事業計画、月次試算表、各種議事録、株主名簿、等々、ということになります。

株式上場努力義務

これは読んで字のごとくで、ベンチャー投資は基本的にマイノリティであり非上場株式となることから、投資家は発行会社が買収されるか上場しない限りはなかなかexitできないので、上場に向かうよう義務付けるものになります。

株式の発行・譲渡

他、株式の発行や譲渡に際しては、優先引受権、先買権、共同売却権、売却請求権、等が規定されます。
軽く、順番に見ていきたいと思います。

優先引受権(Subscription Right)

発行会社が新規に株式などを発行する場合に、投資家が現在の持分比率を維持することができる最低限の引受権を設定するものです。
もちろん任意なので、行使する(※資金を追加投入する)かしないか投資家の判断に委ねられます。

先買権(Right of First Refusal)

これは経営株主のみが対象か、株主間契約締結者全員が対象かは分かれる可能性がありますが、売却を希望する株主がいる場合に、その売却株式について、同条件で優先的に購入することができる権利です。

共同売却権(Tag Along)

これも経営株主のみが対象か、株主間契約締結者全員が対象かは分かれる可能性がありますが(前者の場合は一部売却であっても対象、後者の場合は「合計して●%持分が売却される場合」等)、該当する売却が予定される場合に、売却株主以外の株主も同条件で一緒に売却する権利です(売却株主以外の株主が権利行使)。

売却請求権(Drag Along)

合計で一定の水準を超える持分が売却される場合に、売却株主以外の株主に対して、同条件での売却を請求する権利です(売却株主が権利行使)。

補償・株式買取請求

投資契約にもありましたが、株主間契約においても、義務違反等があれば投資家は、補償や、自ら保有する株式を買い取るよう請求が可能です(発行会社や経営株主に対して)。

…ふう、こんなところでしょうか。

みなし清算(優先株式を発行している会社に関して、M&Aが生じた場合に、清算したかのような対価配分を実施する)もありますが、若干面倒なので割愛します。

途中で面倒になったので(笑)だいぶ端折ったところもありますが、概要としては十分だと思います。あとは現実の契約書等を、概略の知識がある状態で見れば、だいぶわかりやすくなると思います。

これでベンチャー投資の契約書関連トピックは終了です。
ではでは、また。

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