「空」（仮想現実）

人生に意味はないらしい。

冬弓は、ずっと人生に
意味があると信じていた。

人生の意味を探して生きてきた。

　
ところが、現世のすべては
「空」なのだという。

・・・空即是色。

受験生の頃からよく目にした
四字熟語に、今更ガツンときた。

　
ここしばらくアルコールと
睡眠薬でおかしくなり、

昨夜は、睡眠薬だけで
10時間ほど眠った。

　
そして一晩中、
自分の思念や妄想がらみの思い出に、
「空」の判を押しあて続けた。

幼いころからの家族との確執に「空」。

　
いっぱい夢見た妄想だらけの学生時代に「空」。

旅先での淡い恋愛に「空」。

父が病魔にたおれたことに「空」。

最愛の人に裏切られた瞬間に「空」。

今の彼との思い出や現在に「空」。

ここしばらくのアル中生活に「空」。

そして今、こうしている自分自身に「空」。

夢を追いかけてきたかなりの歳月に「空」。

将来に憂いる自分に「空」。

将来を夢見る自分に「空」。

後ろ向きかもしれないけど、
気分が楽になった。

なんだ、すべて、
意味なんてなかったし、
きっと意味を探す必要もないのだ、と。

夢を見るのは素晴らしいことだと
思っていたけど、
妄想に苦しめられるくらいなら

やめておいたほうがいい。

　
期待が大きければ、
楽しみも多いけど、
失望も大きい。

　
愛情が深ければ深いほど、
自分が苦しくなるなら、
それは愛情ではない。

　
そんな浮き沈みを
繰り返すなら、
いったんすべてに
「空」の判を押してしまおう。

なにもかも「空」。

なんだか空が高くなったような
気がする。