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僕の見た風景 13 (連続短編小説)

つらつらと昔のことを
思い出すのは、
アキラを偲んで、
というのもあるけど
僕自身が
年を取ったからかもしれない。

アキラがインドネシアでの
話をよくしてくれた。

「俊兄、オレ、すげー経験したわ」

アキラが一時帰国したある日、
飲みに行った店で聞いた話を
思い出す。

アキラたちは
日本人のお客さんたちを
接待するために、
下見にいろんな、
いわゆる風俗店を回ったらしい。

アキラたち、というのは、
国籍や年齢は違うが、
同じ会社の同僚たちだ。

「で、男3人で、
ある部屋に通されたら
まだ、12~3才の女の子が3人、
片隅で震えててさ。
どうも中国人の
人身売買なんだよな。
話を聞いてて悲しくなった」

彼女たちは、親やきょうだいの
ために中国で売り渡され、
はるばるインドネシアにきたそうだ。

中国語のできるアキラは、
彼女たちの身の上話を、
同僚たちに通訳したらしい。

結果、男3人は、あまりの不条理に
本来の目的も忘れて、
人生相談の席になってしまったしい。

「ま、人生相談っていっても
彼女たちを解放できるわけでも
ないんやけど、せめて中国語で
いろんな話を聞いてやった」

すっかり肩を落として
帰ってきたアキラたち。

「色っぽい水商売の熟女じゃなきゃ
日本人のお客さんも
連れていけないってわけや」

「なんで、日本人の出張オヤジたちは
東南アジアで遊ぶと決まってんねん?」

僕の質問に、アキラはちょっと
考えた。

「まぁ、ちょっと昭和っぽいわな。
今はもすこしスマートかも」

アキラが相手にしている接待客の
年齢層が自分の親たち世代なのらしい。

そして、ワルイ奴だが、
本当に弱いものには
決して悪さをしないアキラの武勇伝を
聞かされた気がした。

            続


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