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僕の見た景色 14 (連続短編小説)

アキラのおふくろさんの
強いキャラは以前に
聞いていたが
基本、親父さんは
穏やかだったようだ。

そんなアキラが、
インドネシアから
引き上げて10年、
子供たちも成長したころ、
ぷりぷりしながら、
僕に語っていたことを
思い出す。

アキラの息子が物心ついて以来、
親父さんは、
台湾国籍を取るよう
主張してきたらしい。

「ほんま、アホかと思うわ」

ビール樽のような腹に
ビールを流し込みながら、
居酒屋で、アキラは愚痴っていた。

「なんで、ジンくんの自由違うん?」

アキラの息子は、
通称、ジン、で、
漢字では、「仁」と
書いていた。

「あんな、俊兄、台湾って兵役あんの
知ってる?」

「へ? 韓国だけかと思ってた」

アキラは外人特有の
大きなジェスチャーであきれて、
ついでに唐揚げをパクリと食べた。

「オレもゴウも、ずーっと
兵役に悩まされてきたんや。
オレなんか、やっと解放されたのが
35才のときやで」

そういうアキラは、
いくつだったのだろう。
37,8だったとしたら、
つい最近のことだったのだろう。

「どうやって解放されたん?」

「粘り勝ちや。
それに日本にずっといるし、
デブで100%健康体ってわけでもないし」

アキラが肥満特有の病気を
持っているのは知っていた。

が、それらば、4才年下の、
スレンダーな弟ゴウは、
どうなったのか。

「オレは一応長男やから、
台湾国籍のままやけど、
ゴウは日本人の嫁と結婚して
入り婿になって日本国籍取得した」

「へー」

初めて聞く台湾事情に驚いた。

「日本国籍になったら、
兵役免れるんや?」

「そりゃ、そやろ。
もう台湾人ちゃうねんから」

「で、なんで親父さんは、
ジンくんを台湾国籍にしたいわけ?」

「親戚とかに顔立てたいんやろ。
こっちはそんなメンツより、
息子の命のほうが大事や」

息子に対しては真摯な
親心を持つアキラが
頼もしく見えた。

              続

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