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敬遠されがちだが1部のマニアに刺さるAGSの実態 スズキ アルトバン(HA36V) 試乗レビュー

今回は、少しだけではあるがスズキのアルトをお借りすることができた。しかもAGS。個人的に気になっている車ではあったが、クルマの特性上借りれるところが見当たらず、高嶺の花になっていたところ、急遽代車として借りることができた。
しっかし車が汚い。洗車してから返却したが、ロゴのところの跡は消えなかった。多分磨いたら消えるだろうが、暑いのでそこまでやる気にならない。

AGSとは?

まず最初に、AGSの仕組みについて簡単に。

スズキ公式のサイトにはこのような画像が掲載されているが、何のことだかさっぱりなので、簡単に文章で説明すると、マニュアルトランスミッションに自動で変速する機械を付けたものである。要はAMTと呼ばれているもので、機構がかなり単純なのがメリットとなっている。マニュアルベースで耐久性もあり、トルコン式のオートマやCVTより安く作れるのも魅力的ないポイントという触れ込みだ。

内装はシンプルかつ使いやすい

内装はシンプルだ。しかもシートとシフトブーツ以外は全てプラスチックで、ここまで質素になれるのかというくらい質素だ。マニュアルベースといえどエンジン回転数を表すタコメーターすらなく、感覚で操作するしかない。

ただ、スマホやペンを置けそうなスペースはあるし、マニュアルエアコンは使いやすい。強いていえばハザードスイッチはセンターにあってくれればありがたいが、些細な問題だろう。

その中にあって、シフトレバーはガッツリした見た目でひときわ目立っている。正直言って、シフトブーツのないヤリスやヤリスクロスのシフトレバーよりゴツくてカッコいい。操作した際の感覚もわかりやすく、マニュアルモードのレンジは左に倒さないと使えないので間違えてマニュアルモードに入ることもない。

マニュアルモードは下が+で上が−となっている。つまり、マツダと同じタイプだ。なぜかはわからないが運転手の感覚に沿ったものとなっている。(加速すると身体は後ろに持っていかれる、減速すると身体は前に持っていかれる。これに合わせて奥が−、手前が+となっているらしい。)

サイドブレーキは手引きのものになっている。街乗り軽なら足踏みでもいいのではと感じてしまうが、この世代のアルトはマニュアルもあるので、その名残りだろう。個人的にも手引きのサイドブレーキは好き。引いた感触はWRVよりしっかり感がある。

走りの要はAGS

この車、走りの要はAGSというトランスミッションだ。試乗時間が短かったので乗り味というよりはAGSがどのようなものかというのを見ていこうと思う。現行のソリオのフルハイブリッドにもちょっとだけ乗ったことがあるので、そちらの印象も交えながら解説していこうかと思う。

なれるまではガクガク

そもそもマニュアルベースなので、機械が変速してくれるとはいえマニュアル同様かなり気を使って走るようになる。
まずはDレンジに入れてサイドブレーキを下す。ここまでは普通の車となんら変わらない。ただ、ブレーキを離すと、クリープ自体は出るのだが、かなり弱い。店舗から出る上り坂ですら下がってしまったり止まってしまうほどクリープは弱く、運転席のドアには「上り坂ではサイドブレーキを使ってください」というシールが貼ってあるほど。
マニュアルトランスミッションなので、1速でアクセルを離すとグワングワンとした揺れが出る。これはマニュアルあるあるではないだろうか。1速から2速に切り替えるタイミングでアクセルを抜くと、スッと入ってくれる。3000回転くらいでシフトチェンジするようなイメージで、アクセルを緩めることで綺麗にシフトチェンジさせることができる。
これができるようになると、車と自分が一体となったような満足感を得ることができる。

マニュアルトランスミッションとしてのAGS

AGSにはマニュアルモードがついている。これは駐車場の上り坂や強い加速を必要とする際に自分でギアを選択したり、下り坂でエンジンブレーキを使用する際に使うものであるが、日常走行でもこれを使うことで、自分の意志に沿った加速ができる。自動変速ではなく自分で変速するので、変速の操作(クラッチやギアに入れる操作)自体はクルマがやるが、ある程度そのタイミングを自分で調節することができる。これが意外とたのしく、車体サイズもあってか、スムーズな変速ができると、まるで車と一体になったかのような楽しさがある。

「入門編AGS」と「玄人向けAGS」

今回乗ったアルトは玄人向けのAGSだと感じる。非力なエンジンにAGSのみというシンプルな構造で、何も補助がなく、自分がした操作がそのまま帰ってくる。
ソリオのAGSでは、フルハイブリッドであることが功を奏し、そこまでガックガクにはならなかったような記憶がある。1速から2速のような、人間でもガクガクするような操作でも、モーターのおかげもあってかなかなか綺麗に繋がる。
アルトのAGSは、運転好きが好むような、まさに玄人向けのシステムだなと感じる。マニュアルトランスミッションなら当たり前の話だが、オートマと考えたときにシフトチェンジのたびに加速は止まるし、ガックンガックンというような感じはどれだけ頑張っても残ってしまう。
ただ、マニュアルとしてこのトランスミッションをとらえたとき、自分の変速したいタイミングでアクセルを緩める、クラッチをまるで自分で操作しているかのようにつながっている感触を確かめる。そういう意味では、個人的にはトルコンのオートマに慣れた感覚を「クルマって本来こうやって動くものだよね」と思い出させてくれるようなクルマとなった。

まとめ

このAGSというトランスミッション、オートマに慣れた現代人が忘れた、「クルマの性能を使い切る」ということを教えてくれるトランスミッションだと感じる。マニュアルであればその感覚はもっと強くなるのだろうが、オートマで気軽に楽しむという意味では、アルトのAGSはかなり推せる車である。
クルマ自体もかなり軽く、車重は600㎏台で、背も低いため重心も低く、ボディの剛性感も高いので、乗り心地にもしっかり感や安心感がある。
小さく扱いやすい車両に、力の出方も素直なエンジンに、自分の操作が素直に出るトランスミッション。令和になってからは珍しい、クルマの性能を気軽に使い切ることができる。もちろんスズキはそのようなことではなく耐久性を意識して安く作れるオートマとして作ったのだろうが、意図してかせずか、何も気を遣うことなく最大限クルマを楽しめるようになっている。
これこそ現代ではなかなか見られなくなった、「クルマに自分が合わせる」車で、たまにはそういうのもいいのではないだろうか。

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