「アクア」というクルマの役割について考えてみる トヨタ 初代アクア(NHP10型) 試乗レビュー
今回は、初代のアクアについてレビューしていこうと思う。タイムズカーでも新型に置き換えられる車両が増え、今や貴重となってきたが、コンパクトカーとしての良さをうまく生かされている。特にめちゃくちゃコストをかけられて作られたとか、めちゃくちゃ作りこまれたとか、そのような感じはしない。しかし、コンパクトカーとして使いやすくそこそこ広い室内空間と、ハイブリッド専用カーであること、お財布にも優しいことなど、アクアというクルマが作った功績は大きい。
(サムネ提供: @124_grsさん)
内装は曲線だらけ
内装は曲線だらけ。というより、現行のアクアと見比べると共通部品なんて一つもないのではないだろうか、というほどにかなり変更されている。ステアリングは30系のプリウスと同じようなものだし、センターメーターや運転席に集まってくるような造形など、このクルマのベースはプリウスで、このクルマはあくまでプリウスの派生なのだということを思い出させられる。
質感が高いわけでも素材がいいわけでもないが、どこか親しみやすく、視界もそこそこいい。
ゲート式シフトは扱いやすい。しかし、通常はDから横に倒すとSレンジがあるのだが、アクアにSレンジは存在しないので、最初は若干違和感である。
手引きのサイドブレーキも特に引いた感触がいいわけではないが教習車とおなじで、コレが一番使いやすいという人も多そう。
ハイブリッド車ではあるが、必要最低限のものだけをつけ、無駄なモノは省く。そうすることで、使いやすいクルマができる。もちろん現代の水準として必要なものは最低限つけるが、豪華な装備が欲しいなら上位車種のプリウスをどうぞ。その代わり、こちらの方がサイズも扱いやすく、燃費もよくて経済的。しかも値段も安い。とことん財布に優しいクルマを作りました。そういう思想が見え隠れする。
メーターも30プリウスに近い。どちらかというとプリウスαに近いのかもしれない。必要最低限。マルチインフォメーションディスプレイ、スピードメーター、シフトポジション。決して華やかさはないし、何か高級感があるわけでもないが、それがみやすく、扱いやすく、親しみやすい。これがアクアという車の根本をになっている。
走りも最低限
走りも親しみやすく、最低限となっている。ただ、普通車を買う価値、4気筒エンジンであることなどもその分しっかり出ているような気がした。今回は、その走りの扱いやすさについて色々と分析していこうと思う。
ハイブリッドシステムは熟成されている
ハイブリッドシステムは熟成され尽くしていると感じる。1.5Lエンジンプラスモーターだが、エンジンは4気筒の1NZエンジン。よくよく考えれば、改良されてはいるにしろハイブリッドシステムに使われていたのは初代のプリウスからで、ガソリンエンジンとして使われていたのはもっと前の話となる。プロボックスのような商用車にも採用されているようなエンジンで、つまりは信頼性がとんでもなく高いエンジンということになる。新型に搭載されている3気筒のM15Aエンジンがどうなのかというのは大変興味があるが、先日トヨタが1.5Lの4気筒エンジンを新規開発してるとの記事を見た。M15Aの運命はどうなる事やら…
話が逸れたが、耐久性という意味ではかなり熟成されているように感じるが、実際の走行面でも熟成されていると感じる。
例えば現行のアクアではバイポーラ型ニッケル水素電池の採用で、バッテリーからドンっと一気に出力させることができる。それによって、バッテリーの容量がそこまで大きくなくてもモーターらしい鋭い加速感を生み出していたが、それによってモーター→エンジンの間に力の出方に谷ができてしまっており、エンジンの振動も相まって滑らかとはいいがたいものになってしまっていた。
初代では、4気筒のエンジンで振動もそこそこ少なく、エンジンがかかってもそのかかり方は新型に比べるとかなり自然で、ショックが少ない。走り出しは必ずモーターが動き、20km/hくらいでエンジンがかかるので、現行型よりも圧倒的にモーターで駆動できる領域はすくない。滑らかさという意味では現行型を超えるパワトレとなっており、やはり効率面では劣るとはいえ、4気筒は腐っても4気筒なんだなと感じる。
全開加速では現行型の3気筒のモノよりパワー感も薄ければパンチもないが、モーターとエンジンの協調が良くできており、自然に加速する。ガソリン車ライクともいえるのかもしれない。
それでいて、EV走行しているときはモーターの存在感が非常に強いので、2つの顔を持っているパワトレといえるかもしれない。インバータの音もよく入ってくるし、エンジンに関しても品も味気もないようなべーーという音で、質より量を重視したのだろうというのは各部に感じるが、それだけにエンジンやシステム自体の耐久性能や安定性はかなりのモノがありそう。
シャシーの剛性はイマイチ
シャシーの剛性感は、予想通りそこまでよくはない。
路面のザラザラ感はそこそこ伝わってくる。
乗り心地も硬くもなく柔らかくもなく、高いボディ剛性のおかげで足回りがしなやかに動くとか、そういう感じでもない。特段印象はなく、乗りやすい。これでいて燃費がいいなら不満は出ないだろうという感じだが、飛ばしたときや高負荷領域では若干アシがバタバタする感じもあり、上質とはいいがたい。そのあたりはやはり新型には劣る部分となる。
重心は低く安定しているように感じるし、地面との距離感もそう遠くないのだが、カーブを曲がるときのロールはそこそこ大きく、シエンタより体感で言うとロールしている。GRスポーツにするとまた印象は変わりそうだが、操っていて楽しいという感じや、所謂「今日のプリウス」みたいな変態機動は正直命の危険を感じる。本当にこれで煽り運転したり蛇行運転するような人は尊敬するレベル。
ブレーキタッチは進化を感じる
ブレーキタッチはいかに現行のトヨタ車たちが頑張っているかがわかる。現行のヤリスとかのほうが良い。一回止まって踏力を変えていないのにもう一回進みだして、それを強制的にブレーキを踏み増して止める感じ。正直止まるのが憂鬱になるほどにブレーキタッチはひどい。現行のヤリスでもこの感じはあるのだが、初代のアクアはもっとひどく、これから比べると現行のシエンタやノア、プリウスはかなり進化していると感じる。
アクアというクルマの役割とは??
アクアというクルマはどういう役割があるのだろうか。トヨタのコンパクトカーには、ヴィッツ(現ヤリス)、パッソ、そしてアクアがいる。そのなかで、どういうコンセプトにしようとしたかというと、東日本大震災の復興応援者という意味合いもあるのだろうが、何よりハイブリッドカーのメリットをコスパよくいろいろな人に届けることだろう。
そういう意味では初代のアクアは非常に理にかなっていると感じる。例えば内装。本家のプリウスでは電子シフトが採用されているが、アクアではゲート式シフトとなっている。確かに電子シフトは未来感はあるが、親しみやすさやコストの面から理想的とはいいがたい。そのほかメーター。最低限必要な情報をわかりやすく出してくれる。エネルギーモニターやパワーの表示など、後期型でカラー液晶になったのも相まってかなり見やすくなった。スピードも一目見てわかりやすく、シフトのポジションもわかりやすい。これはハイブリッドをコスパよく、というよりは親しみやすいハイブリッドカーを作るのが目的になりそうだが、簡素でわかりやすいというのは、現代のように装備重視とはまた違う考えで、アクアが出た当時だからこそ成り立つものだったのかもしれない。
走りにおいてもその思考は存在しているようで、カローラフィールダーのように、速くもなく遅くもなく、乗り心地がいいわけでも悪いわけでもなく、必要なものは一通りそろっているが、無駄にいいわけでもない。そこに、ハイブリッドカーらしい燃費の良さと、滑らかさが加わるなら、アクアは親しみやすいハイブリッドカーとして十分成立する。そのような80点主義な作り方と、カローラで得た「当たり障りないクルマのつくり方」のノウハウをフルで生かし、静かで滑らかだが、親しみやすく、コスパのいいハイブリッドカーとして確固たる地位を確保している。
現行型では確かに走りはTNGAの採用で格段に良くなったし、未来感あるデザインや鋭い加速力など、魅力は増えたように感じるが、実はアクアとして優秀なのは初代のほうなのではないかと、考えさせられる車種になった。
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