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【再レビュー】良いモノを目指したがゆえの欠点 トヨタ アクア(MXPK10型) 試乗レビュー

今回は、再レビューをやってみようと思う。noteをはじめて一年たち、いろいろなクルマに乗ったり、いろいろな人に出会ったりしていくうちに、初期にレビューしたクルマたちに関しても色々と印象が変わったり、詳しく分析することができるようになった。自分が面白そうだなと思ったクルマのみでやっていこうと思っているが、息抜き的に読んでいただけると幸いです。

今回のキーワード

今回のレビューにあたってどのようなことを書きたいか、キーワードで並べてみようと思う。
今回のキーワード:音、振動、上質、高級、バッテリー

内装

内装は形状で質感を持たせているような感触。上位グレードだと肘置きがソフトパッドだったり、エアコンパネルの形状が少し変わったりするが、このグレードでも質感は十分で、ヤリスより収納の数も豊富である。助手席のグローブボックスの上に収納があり、しかもデザインで目立たないようになっている。
センターコンソールには縦に2個、その後ろにももう2個ドリンクホルダーが付いており、この形状はあまり好きにはなれないが、財布の置き場所には困らない。USBポートも付いており、なおかつ使わない時は隠せるように蓋つきになっている。そこにケーブルを収納したり、CarPlayにスマホで接続してそのままスマホを置いておくこともできる。
ひとつ面白いと思ったのが、黒内装なのに夜でも暗くないということだ。ヤリスは真っ暗で、別にそれでも困ったことはないのだが、アクアの内装はほんのり明るく、少し高級感すら感じられる。よく見ると、ルームランプの間に常夜灯のようなイルミがついており、それが妨害にならない程度のちょうどいい光量で、センターコンソールやシフトレバーのあたりを照らしてくれている。お金をかけずに高級感を出す素晴らしいアイデアだと感じた。ぜひともこれは他社のコンパクトカーにもつけて欲しい。

ナビだけ少し寂しいが、CarPlayも使えるし、音質も最低限担保されている。案内もそれなりにわかりやすい。

メーターは老眼でもわかるほどにデカいスピードメーターとシフトポジション表示がある。

メーターの表示といいセンターコンソールといい、すべては電子式のシフトレバーに起因しているのだろう。電子式のシフトレバーは事故のもとなどと言われがちな昨今だが、決してそんなことはなく、入れるときに力を入れる必要はないし、それによってLまでいきすぎてしまったり、Nで止まってしまったり、DからRにするときに間違ってPに入ってしまうようなリスクもない。新車時にはワイパーレバーの部分に紙がかけてあり、詳しくは見てないが操作方法の説明のようだ。ここまでされて間違えるなら、それはシフトレバーではなく人間に原因があるだろう。もっとも、入れたときにどこにギアが入っているのかシフトレバーを見るだけではわからないという意見もあるが、シフトレバーのところにイルミがあり、デカデカとした表示もあるのにどうやって見逃すというのだろう?

もうひとつ関心したのは、電動パーキングブレーキ搭載車にありがちな「止まっているクルマはドライバーが運転できる状況でない限り動かさない」という考え方が電動パーキングではないが電子式シフトである程度組み込まれているということ。

電動パーキングブレーキ搭載車では、シートベルトをしないとアクセルを踏んでもクルマは動かないし、ブレーキホールド中にシートベルトを外すとブレーキホールド機能は解除されるが、その代わりにパーキングブレーキがかかる(=シートベルトをしないとアクセルを踏んでも解除されない)というような制御になっているものが多い、というかほとんどそうなっている。ドライバーが法律上運転できる状態でない限りクルマが勝手に動く状態を、クルマ自身は作らない、ということである。

それがこのアクアでは、電子式シフトによって組み込まれている。例えばブレーキを踏まないとシフトを変えることはできない。NからDでさえもブレーキを踏まないと切り替えることはできない。つまり、ブレーキを踏むことでクルマが予期せず突然動き出すことはない。また、Dの状態でも停止していれば、スタートボタンを押せば自動でPに入り、システムオフしてくれる。
この辺りの思想は少しでも安全にクルマを乗ってほしいというトヨタの思想を感じる。

走りのベクトルは大きく変化

先代モデルがなかなかの長寿モデルで、新型が出るのか出ないのかというような噂も当時あったように感じる。TNGAのプラットフォームが使われることは当時から予測されていたことだが、それ以外が全く予想がつかない。すでに売れているヤリスに統合されてしまうのではないだろうか?というようなことまで噂されていたような気がする。
もちろん先代もベーシックな出来で、ハイブリッド専用車種で、海外ではプリウスCとしても売られているという確固たる地位を獲得していた。
ただ、現代では車種の合理化というか車種を減らすような流れからいってしまうと、いくらコンパクトカーの市場が美味しいとはいえ、同じプラットフォームとパワートレインをコストが限られている中で使い回すとなると、どうしてもキャラが似通ってしまう。となると装備面で何かしらの違いがあるのかと言われると、フィットやノートにはついているような電動パーキングブレーキがなかったりと、商品力の面では魅力がイマイチ見えてこない、言ってしまえば「パッと見でわかる魅力が少ない」というのが正直で、このクルマが公開され話題になった時は、「トヨタどうしちゃったんだろう」と思ってしまった。
今回は、ヤリスとの棲み分けや、ヤリスと比べてアクアを買うメリットなどから、アクアについて色々と考えていこうと思う。

パワトレは鋭い

まず、パワトレがかなり鋭いことがわかる。バイポーラ型ニッケル水素のバッテリーになったことで、瞬時にドンっと出せる電力量が従来のバッテリーよりかなり増えた印象。ただ、それが継続されるかと言われればそうでもないようで、確かに街乗り領域でスッとクルマが出てくれる感覚は気持ちいいと感じる。しかし、総合的な出力に関しては従来のバッテリーと大差ないどころか、体感だけで言えば初期のレスポンスからの落差で、むしろ従来の方がいいと感じるかもしれない。
言われてみれば、エンジンはヤリスから変更はないので、当然と言われれば当然だが、バッテリーの充電に回せるエネルギー量はヤリスと変わらない。だから、いくらドンっと出せる電力量が増えたところで、継続してその力を出すにはエンジンの能力が追いつかないということだろう。

日常加速ではこれで十分なのだが、全開加速した時に2段加速する感じがかなりある。エンジンが鋭くなった証拠なのだろうが、加速感だけで言えば初代のアクアの方が滑らかで帳尻がしっかり取れていたと感じる。
具体的には、ドンっとバッテリーから電気が出力されるが、その電力は続かない→そこにエンジンが加わり、高回転で力を発揮する、というような感じ。なので、街乗り加速で感じた気持ちよさからすると、全開加速はさほど気持ち良くない。なんならエンジンの味気ないベーーーという吸気音やエンジンの回る音が雑音に感じるほどで、アクアのコンセプトからするとあってない。日常加速でも、エンジンがかかった時のボーーーーという音がエンジンがかかると常にしているような感覚。日常速度域ではロードノイズも少なく、EV走行さえしていればかなり静かなので余計にエンジンの音が気になってしまう。
振動も多く、効率のいいエンジンの証拠なのだろうが、アイドリング回転でもないだろうに振動するというのはいただけない。また、エンジン以外にもたまにエンジンがかかった時にドンっという衝撃が来ることがあり、これは個体によるものなのかもしれないが、70km/hで巡行しているようなときでもわかるような衝撃は心地いいとは言えない。

ただPWR+モードにしてアクセルをだばっと踏んだ時の加速の気持ちよさはヤリスにはないたしかな魅力となっている。

クルマは長い

もう一つ走り出して気づくこと。クルマが長い。ヤリスに対して室内空間を確保するためにホイールベースが伸ばされているためか、あからさまに後ろのタイヤが遠く、一体感は薄い。確かに室内は広く、ヤリスでも後ろの席は十分だが解放感はない。アクアではセンターコンソール回りのスッキリ感も相まってヤリスより相対的に内装は広く感じる。

ただ塊感は少なく、コンパクトカーではあるがあたかも全長の長いクルマのように感じる。外見も実際はそんなことはないだろうが、下に向かって全長が長くなっていくようなフォルムをしており、未来感こそあるが少しぶつけないようにと抵抗はある。
ただいくら長いといってもコンパクトカーなのでデカくて困るようなことはもちろんない。

ホイールベースの長さが変わるだけで、クルマはかなり変わるのだと実感させられる。
乗り心地はヤリスよりかなりゆったりしている。圧倒的に乗っていて楽だと感じるのはアクアのほうだが、運転していて楽しいのは一体感のあるヤリスのほうだろう。ステアリングにはトヨタらしく若干のゆるみがあり、1~2度ほどの遊びがある。なので直進安定性というか直進の安楽さは高く、トヨタ車らしく乗っていて結構ラク。疲れているときに乗るならヤリスよりアクアだと感じる。
逆に言えば、ハンドリングはそこまでかなと感じる。どちらかというと安定感や乗り心地に振ったような感じ。フロントの足回りを動かし、積極的に仕事させ、リアがそれに追従していくという考え方はヤリスと一緒だが、いかんせん後ろが引き延ばされ、リアタイヤが遠くなったためか、リアタイヤに「クルマを曲げる」という力が伝わるのが遅い。コレが一体感が減ってしまった原因となっているのだろう。

前部分の剛性感は高く、フロントのサスペンションはしなやかにストロークする。前部分だけで言えばコンパクトカーとしては理想的な構造をしているように感じる。ただフェンダー周りが共振しているようで、車両接近音はかなり入ってくるし、タイや周りなのでもちろんロードノイズもかなり入ってくる。~50km/hではそこまで気にならないが、70km/hから上の速度ではゴーーーという音が常に入ってくる。ミラー周りからの風切り音も多く、乗り心地のわりに快適とはいいがたい。また、ホイールベースを引き延ばしたことで若干リア周りの剛性が不足している感があり、フィットほどではないが後ろ周りのビリビリ感やロードノイズもうるさい。

ブレーキタッチは悪い

ブレーキタッチは正直に言って悪い。というか、このパワトレを積んでいるクルマはシエンタを除いて「伝達」というものが苦手である。
例えばトヨタのハイブリッド車のブレーキはブレーキペダルを踏むと回生ブレーキを使って車速を削り、7km/hあたりからはガソリン車と同じように物理ブレーキを使って止まる。つまり回生ブレーキ→物理的なブレーキに切り替わるタイミングがあるのだが、そこの伝達がかなり雑になってしまっている。物理ブレーキに切り替わるタイミングはかなりわかりやすく、ドライバーでも首が動くことがあるほどだ。ほかのハイブリッドシステムでは違和感に感じたことはない。こういうあたりが雑だとフラストレーションがたまる。

また、伝達という意味ではエンジンがかかるときのつながりも気になる。EV走行からエンジンがかかるとき、ブルンという振動が来るほか、ガツンという雑にクラッチをつないだかのような振動が来てしまう。この辺りの伝達の雑さが、コンセプトに対してあっていないのが正直なところ。

まとめ

細かいところではあるが、このような伝達の雑さやエンジンの振動、ロードノイズや不自然にクルマがデカく感じること、装備面でも電動パーキングが備わっていなかったり、クルーズコントロールの制御も頼りなかったりと、「いい」とウェブサイトやCMで連呼されていたり、ヤリスの高級版的な位置づけを想像していたが、そこには届かないようだ。もちろんヤリスより室内空間は広いが、ただ広いだけで、上質だとも言い難ければなにか付加価値があるのかといわれれば、ベース車のヤリスのほうがまとまっているとさえ感じる。バイポーラ型のニッケル水素電池を採用したり、内装の質感向上、電子シフトの採用など、トヨタが頑張ったあとは確かに感じる。しかし、「スポーティー方向なシャシーをベースとして、限られたなかでラクシュリ―なクルマを作る」というのは、たとえトヨタの技術力をもってしても、どっちつかずな結果に終わってしまうということになるだろう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。スキやフォローお待ちしております。

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