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2つの顔を併せ持つ戦闘機 トヨタ GRヤリス(RS)試乗レビュー

今回は、GRヤリスのRSグレードに乗ることができたので、色々とレビューしていこうと思う。
結論から言ってしまうと、正直このクルマは今まで乗ってきた中でも5本の指に入るほどに感動するクルマであった。「いいな!」と思うクルマではなく、「所有」ということまで考えるクルマは、今まで乗ってきた中でもかなり少なく、このGRヤリス、MAZDA3、オーラの3つにまで絞られてしまう。
もちろん本命となるのはこのRSではなく1.6リッターのターボを積んだRZグレードになることは予想できるが、今回は、このGRヤリスというクルマの素性について掘り下げていこうと思う。

内装から見られる「WRCへの気合い」

正直内装は、ぱっと見ただのヤリスの上級グレード感が否めない。いつも乗り慣れているヤリスはハイブリッドのXグレードで、メーターの基本造形は似ているし、そもそも内装の基本の造形はヤリスまんまといった感じ。この無骨感というか、質素な感じが逆にGRヤリスでは魅力となっているのが面白い。

ただデュアルエアコンだったり電動パーキングなど、ノーマルのヤリスではえられないものもある。この電動パーキングは、ひとつGRヤリスのRSグレードのコンセプトを形作るポイントとなっている。

HUDって撮るのが難しい。

また、このグレードに関してはHUDがついており、これが大変見やすい。MAZDA3などについているHUDよりも表示が大きく、タコメーターやシフトの状況、運転支援の状況までわかるようになっている。

また、アルミペダルに関しては、見た目の質感がスポーティーでかっこいい。今回恩恵を受けることはなかったが、せっかくGRヤリスに乗るならオプションでもつけたほうがいいだろう。

各所にGRのロゴやWRCのロゴがついており特別感がある。内装の中でも一番見える特等席にあることから、トヨタがGRヤリスに対して持っている自信や期待は相当なものであったことが伺える。

ステアリングの手触りもよく、スポーツグレードにありがちなボツボツのグリップ重視ではなく、スベスベだがちゃんと手に馴染んでくるタイプのステアリングの素材となっている。

走りに現れるこのクルマの二面性

走りはノーマルのヤリスとはだいぶ違ったが、特別感丸出しというよりは「能ある鷹はつめを隠す」というような乗り味に感じた。
ということで、このクルマの本領である走りについて色々と解説していきたいと思う。

シートポジションは良くない

まず否定から入ってしまうのがなんとも言えないが、RSグレードに関しては、あまりにもシートポジションが高すぎる。一応スポーツモデルで、シートのデザインもそれっぽいのだが、ドライビングポジションはノーマルのヤリスとほぼ変わらない。価格が価格なのでシートのレールから変えるようなことはさすがにできなかったのかなと予想できるが、個人的にはもう少しシートを低くできると嬉しい。それだけでもかなり印象は変わるのではないだろうか?

鬼剛性シャシー

走り出してまずわかること。このクルマ、ノーマルのヤリスとは比べ物にならないくらいにボディの剛性感が高い。ノーマルのヤリスでも十分以上のものだったが、それ以上となるとかなりのものであることは容易に想像できる。

例えばドアはノーマルと違いサッシレスだが、ドアを閉めた感触はサッシレスにありがちなバタバタするような感じはほぼない。この時点で、このクルマがかなり細部まで煮詰めて作り込まれていることがわかる。

走り出してすぐ、少し凹凸のあるような路面を走ることになるのだが、振動収束がとてつもなく早い。そもそも振動の伝わってくる量が、ノーマルよりも少ない。硬質で洗練された振動が伝わってくるのみ。まさにボディで乗り心地を出している。カーブを曲がらずとも、ただ低速で走っているだけ、なんならクリープ現象プラスαくらいの速度で走っているだけでも、このクルマのボディ剛性の高さはわかる。

スポ車の部類に入るクルマではあるが、街乗り領域でも乗り心地は悪くない。車両重量は1130kgとかなり軽めで、重さで乗り心地を出しているような感じではないだろう。むしろコンパクトなホットハッチが重さで以て乗り心地を出すなんて聞いたことないし、軽さこそ武器だろう。
アシ自体は結構硬めで、突き上げ自体はなかなかに鋭い。しかし、剛性の高いボディで全てを受け止め、乗員にはそれほど伝えてこない。もちろん必要な情報は伝わってくるのだが、それ以上に無駄なものの一切をボディが排除してくれているような感触。

一般車GRヤリスさんを発見!

鬼のようなボディ剛性よりも最も印象的なのは、ノーマルグレードからアップグレードされたクルマとは違って、しっかりとバランスが取れているということである。
例えばノートとオーラ。ノートではしっかりとバランスの取れた乗り味だが、オーラでは上質感を出すために静粛性を上げ、環境音を減らしているが、インチアップもあってかロードノイズのサーーーというような音や、路面状況が無駄に伝わってくるといったつめの甘さが見受けられた。もちろん乗り比べないとわからない話ではあるが。

18インチであることと、SPスポーツマックスがそもそも静粛性に特化したタイヤではないので、ゴロゴロとした音はかなりうるさいし、当たり前だがノーマルヤリスに比べてもタイヤの扁平が薄いため、振動はかなりダイレクトなものとなっている。ただそれらは決して不快なものではなく、これまたボディ剛性の高さによってビリビリとした振動はこない。つまり、1.1tしかないのに18インチの大径タイヤをボディ剛性でもっていとも簡単に使いこなしているということである。実はこれってすごいことで、軽いがゆえに跳ねてしまったり、ビリビリした振動が伝わってくることが大半である。

実はGRヤリスの作り込みの素晴らしさはそこにある。一からプラットフォームを再構築したことで、そのようなアンバランスな感じや、作り込みのつめの甘さが全くといっていいほどない。前後どちらかで剛性が不足していてブルブルしたり、逆に一方だけ剛性が強すぎるといったこともなく、合わせ込みが高次元で両立されている。

エンジンは「しょぼい」

これはいろんなところで言われているが、エンジンは率直にいってしょぼい。遅い。官能性もない。完全にシャシーに埋もれてしまっている。マフラーは2本出しで「おっ」と思わせてくれるが、ハイブリッドよりはマシとはいえ相変わらず吸気の音が大きいため、排気音を楽しむことはなかなか難しい。
しょぼいといっても低速からの駆け出しでは力があり、先代ノートのガソリンとよくにている。トルクで加速していくようなイメージがあり、街乗りは大変「楽」なエンジンだと感じる。一般道だと迂闊に踏むと危ないレベルの加速力はあり、普通に速いか遅いかでいったら、クルマとしては速い、スポ車としてはそこまで速くない、というような位置付けである。
超剛性シャシーの中だと完全に埋もれてしまっている。
中回転もそれなりに力があり、4000回転あたりでマニュアルモードで操るくらいが楽しい。

ただ、バランサーシャフトが入っている割に発進時はかなり振動を感じ、最初は何か壊れてるんじゃないかと思ったほどだし、Dで停車していると振動を感じるのは、現代の普通車としてはいただけない。振動関係だけで言えば、ホンダのNboxの方が振動は感じない。もちろん振動が悪というわけではないが、しょぼいエンジンがただ振動していても不快感でしかない。効率がとんでもなくいいエンジンであることの証なのだろうがGRヤリスに誰がそんなもの求めるのだろうか。

こんな感じなので、パワー的にシャシーに埋もれているわりに振動だけが目立ってしまっている、というのが正直な感想である。

CVTは好印象

CVTに関しては、かなり賢いと感じる。20km/h以下で動いている時のギクシャク感も少なく、街乗りでも高速でも速度調整はしやすい。このクラスのCVTはどちらか一方という場合が多く、例えばソリオのCVTは低速が調整しやすい一方で、高速域は若干速度調整にダイレクト感がない。ルーミーのCVTは低速でギュンっと出てしまう感があり、ダイレクト感はあまりない。高速域では逆に速度調整しやすく、エンジン能力の問題さえ解決できれば、意外と運転手も速度調整の面で疲れることはなさそうであった。
GRヤリスのRSのCVTはしっかりそれを両立している。低速では踏んだ分だけ出るし、高速での速度調整もしやすい。Mモードは10速もあるのでかなり細かく段が刻めるし、パドルシフトで操作した時のレスポンスがめちゃくちゃよく、おもちゃ感ではあるが、手元で簡単に、意のままに操れるので、CVTではあるがこれはこれで楽しいかも?と思わせてくれる。


一般車GRヤリスさんと勝手にオフ会


ただレスポンスだけはイマイチで、ダバっと踏んだ時の反応はスバルより悪く、正直トヨタのライズの方がいい。もちろんあちらはターボなのでトルク特性の関係からレスポンスの違いが出ているのかもしれないが、オートマのスポ車としてこのクルマを捉えた時にこのレスポンスはいただけない。キックダウンした感が明確にあるのは面白いだけに、キックダウンしてからの加速が少し遅れるのが惜しいところ。
また、巡航から2割ほど踏み増した際も少し遅れる。スバルのレヴォーグなどのCVTとはここで差が出てしまっている。逆にスバル車にあるような発進時に踏んだ以上にクルマが加速するようなことがないだけに残念である。

ここまで街乗りや、高速域での普段乗りについてまとめてきた。正直期待外れというか、もっと「ただ者じゃない感」を求めてきたので拍子抜けしてしまった。2時間ほど借りていたのだが、1時間で返そうかと思ったほどに「普通のクルマ」で、3ドアではあるが、ヤリスの上級グレード感がしてしまう。そう思うのはシートポジションであったりエンジンのパワーや音の没個性感、ATであることなど、さまざまな要因がある。

GRヤリスはRZにしか価値がないのか?

いきなり答えを言うと、そんなことはないだろう。もちろんRZを乗っていないのでなんともいえないが、RSにはRSなりのよさがあるのではないだろうか。
RSとRZではだいぶ差がある。エンジンは1.5Lから1.6Lのターボとなり、CVTは6MTに、FFは4駆になる。いつかどこかでRZにも乗れたらと思っているが、このRSにしかない魅力は確かにあると感じる。

普段乗りだけではわからない「戦闘機感」

これはGRヤリス全体に言えるのかもしれないが、いざ攻め込んでみたときの印象は「戦闘機」。この一言に尽きる。
カーブに向けてMモードでパドルシフトを使いながらエンジンブレーキをかける。ブレーキにも遊びがなく、ダイレクトな感触。前荷重をかけてカーブでステアリングを徐々に切る。カーブ出口出アクセルを踏む。クルマと自分がまるで一体になったかのように、自分の意志の通りにクルマが動いてくれる。正直この感覚はこのサイズだからこそなせる業で、このボディ剛性だからなせる業なのである。同じサイズのMazda2やフィット、ノーマルのヤリスにもこの感覚はない。Mazda3もハンドリングは気持ちいいが、ここまでの意のまま感のある、手足のように動かせるのはGRヤリスだけ。ひとつカーブを曲がっただけでもうこのクルマとは仲良くなれる。相棒になれる。
ボディ、アシ、ステアリング。全てにおいてとんでもなく高次元に合わせ込まれており、全ての部分において高剛性すぎるボディにものを言わせ、アシを踏ん張らせ、ステアリングを曲げただけしっかりとクルマが曲がっていく。手に取るようにクルマを操ることができる。まるで自分とクルマが一体になったかのような素晴らしい曲がりを見せてくれる。

GRヤリスの特にRSグレードの凄さはここにある。ステアリングから手を離すことなくハンドリングに集中できる。音にはもっと刺激が欲しいが、1.6Lのターボの加速なんてなくても充分楽しめる。サーキットに行けばかなりパワー不足だろうが、公道で楽しむのにそんなパワーなんていらない。必要なのは使い切れるパワー感とどんな道でもびくともしないボディ剛性、扱いやすいサイズ感。全てこのGRヤリス一台で叶ってしまう。だからこそ着座位置が高いのはいただけないが、この全てが自分の手の内にある。まるでひとつの塊になったかのように、自分のコントロール下に置けているということの感動の前ではそんなの小さな問題だろう。
タイヤとの相性もいい。SPスポーツマックスだったが、このタイヤ性能を公道で使い切るにはよっぽどラフにハンドル切るか、もう人生が嫌になった人でないと無理だろう。一般道ではゴロゴロとうるさいが、そんなの些細な問題で、このタイヤでこそ意のままに操れる。

正直久しぶりにかなり感動した。初めてMazda3に乗った時かそれ以上に感動している。「良い」と思ったクルマは今までもたくさんあるが、総合的に「所有したい」と思うクルマはかなり少ない。自分が知らないだけでこれからも続々出てくる可能性はあるが、今のところMazda3とノートオーラ、そしてこのGRヤリスの3台のみ。GRヤリスに関してはどのグレードを選ぶのかが非常に悩ましいところだが、サーキットではなく一般道で楽しみたい、峠道を楽しく走りたい人にとって、これ以上にコスパのいいクルマというのは果たしてあるのだろうか。

まとめ

このGRヤリスというクルマ、個人的にかなり感動したクルマとなった。RZも気になるが、RSでも充分満足できる。一般道ではボディ剛性の上がった上級グレードのヤリスといった感じで、確かにいつも乗っているハイブリッドのXグレードよりは装備的にもかなりいいのだが、3ドアだし、これだけの価格差を埋めるほどの魅力は…といった感じではあった。むしろ一般道からして得る特別感はRZだけの特権なのだろうか。
しかしスポーティーに走ると無限に意のままに答えてくれ、まるで自分の手足かのように動いてくれる。
この二面性とギャップ萌えは、おそらくオートマであったりブレーキホールドだったりで、一般道なら楽に運転できるRSグレードでしか敵わないだろう。

細かい不満こそあれど、クルマがひとつの塊として自分の意思にそって動いてくれる感動を前にした時、あなたもきっとGRヤリスのRSを「ただのRZの下位互換」、「狼の皮を被った羊」ではなく、「戦闘機」として惚れ込むことになるはずである。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。スキやフォローよろしくお願いします。

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