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思考はあなたを治すために有効!


はじめに

 人が脳で言葉や映像を用いて考えたことを発声したり書いたり、描いたりすれば、それらの多くは人に伝わります。日常生活では会話やメールやチャットで、専門家であれば書物にしたり、人に教えたり、映像で伝えたりします。そしてそれらが物であったり、仕組みであったり、ルールであったりしても、現実化して人に与えられ、影響し人を動かします。
 このように、人の体の外でそれらが現実化されるのであれば、人の体の中の筋肉や細胞も人の脳内思考により、その通り現実化されてもおかしくないと思います。ただ、思っただけではだめで、行動して初めて現実化するのではないかと考えます。
 この記事では、人の思考と現実化との関係性について考察します。補足に
ガン治療の心理学的アプローチを書いてみました。

現実化

外部現実化

 思考の現実化と言えば、主に体外のことを指すことが多いと思います。そのため、ここでは、「外部」を人の体の外として定義します。

思考と発信: 私たちの脳内で生まれた思考やイメージは、神経系を通じて体の各部分に伝達され、それが言葉や動作として表現されます。

コミュニケーションの必要性: 自分の思いを表現しただけでは現実化しません。思考を周りの人に理解してもらい、継続的に協力してもらう必要があります。

思考の具現化: その思いが、自分を含め、多くの人の理解と支援を得て仕事、保育、介護、教育、文芸、音楽、芸術、スポーツ、娯楽などとして現実化します。

内部現実化

人の体が内部か外部かは視点によって変わりますが、ここでは内部とします。自分の体は借り物という方もいるので、そう考えれば外部ともいえます。

神経系の変化: 新しいスキルを学んだり、繰り返し練習したりすることで、脳内の神経回路が強化されたり新しく形成されたりします(神経可塑性)。

筋肉の変化: 特定の動作を繰り返すことで、関連する筋肉が発達したり、より効率的に動くようになります。

細胞レベルの変化: 思考や行動のパターンは、ホルモンバランスや遺伝子発現にも影響を与え、細胞レベルでの変化をもたらす可能性があります。

 つまり、私たちの思考は対外だけでなく体内でも物理的な変化を引き起こしています。

事例

内部現実化について脳内の思考の影響を紹介します。

脳の可塑性と学習

脳の可塑性(神経可塑性): 新しい経験や学習によって脳の構造が変化する能力を指します。

事例: ロンドンのタクシー運転手の研究[1] ロンドン大学のEleanor Maguireらによる研究(2000年)では、複雑な道路網を記憶する必要があるロンドンのタクシー運転手の海馬(空間記憶を担う脳領域)が、一般の人々より大きいことが示されました。

思考と身体の相互作用

心身相関(マインドボディコネクション): 心理状態が身体に影響を与え、逆に身体状態が心理に影響を与えるという考え方です。

事例: プラセボ効果[2] プラセボ(偽薬)を与えられた患者が実際に症状改善を示す現象は、思考が身体に与える影響の典型例です。

瞑想と脳の変化

長期的な瞑想実践が脳の構造と機能に変化をもたらすことが、複数の研究で示されています。

事例: チベット仏教僧侶の研究[3] ウィスコンシン大学のRichard Davidsonらの研究(2004年)では、長年の瞑想実践者の脳では、注意力や感情制御に関わる領域の活動が増加していることが分かりました。

運動学習と筋肉の変化

反復的な運動練習は、筋肉の構造と神経系の両方に変化をもたらします。

事例: ピアニストの脳と手の研究[4] プロのピアニストは、手の運動を制御する脳領域が発達しており、指の独立した動きも向上していることが研究で示されています。

エピジェネティクスと思考の影響

思考や経験が遺伝子の発現に影響を与える可能性が、エピジェネティクスの分野で研究されています。

事例: ストレスと遺伝子発現[5] 慢性的なストレスが特定の遺伝子の発現を変化させ、それが様々な健康問題につながる可能性があることが示されています。

 これらの研究や事例は、私たちの思考や行動が単に抽象的なものではなく、脳や身体の物理的な変化と密接に結びついていることを示しています。ただ、この分野はまだ多くの未解明な部分があり、さらなる研究がなされています。

補足

ガンの心理的アプローチ(思考)による治癒促進

 ガン治療に関する心理的アプローチについては、様々な見方や研究があります。現在はそれらの多くが緩和ケアのために実施されています。ここでは、治癒促進を目的に2つの「思考」を仮定し、科学的な観点から考察します。記載内容はあくまでも考察であり、治療法を述べているのではありません。

「ガンはない」と強く思う

このアプローチは、ポジティブシンキングや可視化技法に基づいています。

利点:

  • ストレス軽減: ガンがないという肯定的なイメージは、ストレスを軽減し、免疫系を強化する可能性があります。

  • プラセボ効果: 強い信念は、体内でプラセボ効果を引き起こし、実際の治癒過程を促進する可能性があります。

研究例: 文献[6]では、ポジティブな心理状態が免疫機能を向上させ、ガン治療の効果を高める可能性について論じています。

「ガン細胞が消滅していく」様をイメージする

このアプローチは、現実を直視しつつ、細胞レベルでの変化を意図するものです。

利点:

  • 現実的な対処: ガンの存在を認識しつつ対処することで、より現実的な治療計画を立てられる可能性があります。

  • 標的化された意図: 特定の細胞に焦点を当てることで、より具体的なイメージングが可能になります。

研究例: 文献[7]では、ガン細胞をイメージし、それらが弱まっていく様子を視覚化する技法が紹介されています。

科学的な見解

 現代医学の観点からは、ガンの治療には医学的介入(化学療法、放射線療法、手術など)が不可欠です。しかし、心理的支援はこれらの治療を補完し、全体的な健康と回復を促進する可能性があると考えられます。

研究例: [8]の研究では、心理的支援がガン患者の生存率を向上させる可能性があることが示唆されています。

まとめ

 上の2つのどちらのアプローチが「より良い」かは、個人の性格や信念、おかれた環境、ガンの状態によって異なる可能性があります。
 2つの思考をもとに記述しましたが、これが正しい思考法なのかどうかはさらに研究しなければなりません。さらに上記例はイメージだけで、行動が伴っていないため、現実化は十分ではないと思われます。このように、心理学的アプローチの確立は今後の課題です。
 心理学的作用でガンが治癒すれば、化学療法、放射線療法、手術などは不要になり、患者の身体へのダメージなく多くの患者が救われると思います。ところが、今そうならない現実を見ると、次のことを行っていく必要があります。

  • 医学的治療を主体とすること。

  • ストレスを軽減し、前向きな心理状態を維持すること。

  • 自分に合った心理的アプローチを見つけること。

 ガン治療では、専門家(腫瘍内科医、心理療法士など)と相談しながら、自分に最適な総合的アプローチを見出すことが重要です。心理的アプローチは補完的なものとして位置づけ、主要な医学的治療と併用することが必要と考えます。

参考文献

[1]Maguire, E. A., et al. (2000). Navigation-related structural change in the hippocampi of taxi drivers. Proceedings of the National Academy of Sciences, 97(8), 4398-4403.
[2]Wager, T. D., & Atlas, L. Y. (2015). The neuroscience of placebo effects: connecting context, learning and health. Nature Reviews Neuroscience, 16(7), 403-418.
[3] Lutz, A., et al. (2004). Long-term meditators self-induce high-amplitude gamma synchrony during mental practice. Proceedings of the National Academy of Sciences, 101(46), 16369-16373.
[4] Pascual-Leone, A., et al. (2005). The plastic human brain cortex. Annual Review of Neuroscience, 28, 377-401.
[5] Zannas, A. S., & West, A. E. (2014). Epigenetics and the regulation of stress vulnerability and resilience. Neuroscience, 264, 157-170.
[6]Trogen, B. (2020). Do Thoughts and Emotions Affect Cancer Growth? in Scientific American.
[7]Simonton, O. C., Matthews-Simonton, S., & Creighton, J. L. (1978). Getting well again.
[8]Spiegel, D. (2011). Mind matters in cancer survival. Psycho‐Oncology, 20(6), 588-593.

変更履歴

Rev.1  2024.6.30 初版


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