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ABO式血液型


はじめに

 ABO血液型がメンデルの法則に基づき遺伝することはよく知られています。この記事では、血液のA、B、O型の特徴、血液型検査、各国のABO血液型分布と、血液型と性格との関係について調査したことを記載します。

ABO血液型の違い

 赤血球の表面には250種類以上の抗原があります。ABO式血液型は、その中でも特にA抗原とB抗原の有無によって分類されます[1]。

 A型の赤血球にはN-アセチルガラクトサミン(注1)を含む「A抗原」が、B型の赤血球にN-アセチルグルコサミン(ガラクトース)(注2)を含む「B抗原」が存在します。AB型の赤血球にはA抗原とB抗原の両方の抗原が存在します。O型には両抗原ともありません[1,2,6]。

図1:[2]Wikipedia ABO式血液型から

 これらA/B抗原を作る遺伝子は第9染色体上にあり、通常のA型とB型ではそれぞれ354個のアミノ酸からなるA抗原転移酵素(注3)とB抗原転移酵素をコードしています。これらの酵素は、基となる「H抗原」にN-アセチルガラクトサミンまたはガラクトースを付加することで、A抗原またはB抗原を生成します。
 O型の遺伝子の場合は、A型やB型の遺伝子の後半部分が機能しておらず途中で終止コドンになっています。通常のO型では87番目のアミノ酸用の塩基配列が1つ抜けているため、それ以後がずれ118個分(厳密には最後は終止コドンなので117個分)のアミノ酸のデータで酵素を作るため、H抗原のままで追加の糖が付けられなくなっています[2,3]。
 血漿(血清)中には各抗原に反応する抗体があります。通常A型の血漿中には抗B抗体があり、B型の血漿中には抗A抗体があります。AB型の血漿中には抗A抗体も抗B抗体のどちらも無く、O型の血漿には抗A抗体と抗B抗体両方が存在します。抗体は特定の抗原に対して攻撃する役割を果たします。たとえばA型の人にB型の赤血球が入ると、抗B抗体がB型赤血球を攻撃します。

血液型検査

 血液型のオモテ検査(血球の検査)は、血球に試薬(抗 Aを入れたものと、抗 Bを入れたもの)を加えて凝集の有無を確認します。抗 A を入れたもののみ凝集すれば A 型、 抗 Bをいれたもの のみ凝集すれば B 型、両方とも凝集しな ければ O 型、両方凝集すれば AB 型と判定します。血液型のウラ検査(血漿の検査)は、血漿に血球試薬を加えて凝集の有無を確認します。B 血球のみ凝集すれば A 型、A 血球のみ凝集すれば B 型、両方凝集すれば O 型、両方とも凝集しなければ AB 型と判定します。 オモテ検査とウラ検査の結果を合わせて、血液型を確定します。

図2:血液型のオモテウラ検査(参考文献[4])


赤血球上のA、B、H抗原は、胎生5~6週目に認められるのですが、誕生時には抗原の発達が充分ではなく、成人の約3分の1程度しかありません。2~4歳になって成人なみとなり、抗原の強さはその後、終生ほぼ一定となります。そのため、赤ちゃんの血液型の判定精度が悪く、4歳以上になってから血液型検査をした方がよいようです[6]。
 人の性格は環境と遺伝的要素に影響されるといいますので、幼少期の性格形成と抗原の強さの確定(血液型だけとは限りませんが)には関係があるかもしれません(あくまでも仮説です)。

血液型と性格

 血液型性格分類はいずれも正しいとは認められていないそうです。日本とその影響を受けた韓国、台湾の一部の国でしか血液型を性格と関係づける国はありません[2]。
 その一方で、性格は血液型と関係あるとの研究結果もあります[7]。
血液の型を免疫の型と考えると、免疫(病気から免れる力)が性格に与える影響から血液型と性格はに何かしらの関係あるとの仮説も成り立ちます[9]。

血液型の世界分布

 日本では、おおよそ、A型が40%、B型が20%、O型が30%、AB型が10%という割合です。実はこの割合は世界共通ではありません。世界の国や地域によって、血液型の割合は異なります[8]。

  • アメリカ:A型 42%、B型 10%、O型 44%、AB型 4%

  • イギリス:A型 42%、B型 9%、O型 47%、AB型 3%

  • フランス:A型 47%、B型 7%、O型 47%、AB型 3%

  • 中国(北京):A型 27%、B型 32%、O型 29%、AB型 13%

  • インド:A型 22%、B型 33%、O型 37%、AB型 7%

  • ブラジル:A型 41%、B型 9%、O型 47%、AB型 3%

中国は日本に比べてA型が13%少なくB型が12%多いです。欧米は日本や中国と比べO型が10数%多いです。AB型については、中国、日本が多いです。

おわりに

血液型については、分かっていないことも多いようです。
血液型はABO型のほかRh型が、合計すると43種類の型があります。2022年には44種類目の型が発見されたそうです[10]。
母親から胎児には胎盤を通してABO型の抗体は移動せず(へその緒の血液でで酸素と栄養素を運ぶそうですが、ABO抗体が移動しないのはなぜ?)、一方でRh型の抗体のみ胎児に移動するのはなぜでしょうか。
また、白血病の治療などで造血幹細胞移植(骨髄移植)を行った場合には、移植したドナーの造血幹細胞によって血液を造り出すようになるため、原則としてドナーのABO式血液型に変わります。
A型、B型、AB型の赤血球をO型に変えることのできる酵素の開発に米国のハーバード大学などの国際研究チームが成功したとのことで、これが実用化すればO型の人の寿命が延びそうです。[2]が詳しいです。

注1:N-アセチルガラクトサミン ( N -アセチル-D-ガラクトサミン、GalNAc)は、 ガラクトースから誘導された 単糖 である。 ヒトでは、 A型 の 抗原 を形成する末端の炭化水素である。 N -アセチルガラクトサミンは、細胞間伝達に必要であり、ヒトと動物両方の 感覚神経 構造に集約されています。出典:N-アセチルガラクトサミン - Wikipedia

注2:N-アセチルグルコサミン(N-アセチル-D-グルコサミン、GlcNAc、NAG)は、グルコースの2位ヒドロキシル基がアセチルアミノ基に置換された単糖です。出典:N-アセチルグルコサミン - Wikipea

注3:転移酵素とは、ある化合物の原子団(アミノ基、アシル基、グリコシル基、メチル基など)を他の化合物へと転移する反応を触媒する酵素の総称です。A/B抗原転移酵素は、グリコシル基転移酵素の一種と考えられています。

参考文献

[1]近畿大学病院、「血液型についてのいろいろ」 https://www.med.kindai.ac.jp/transfusion/ketuekigaku7.pdf
[2]ABO式血液型 - Wikipedia
[3]富山医科薬科大学附属病院、平成15年度輸血検査研究班定例勉強会 第19回資料 http://www.hosp.u-toyama.ac.jp/blood/newhomepage/study/study19/study19.html
[4]輸血検査 - 埼玉県立小児医療センター (saitama-pho.jp)[5]https://www.asagiri-hp.or.jp/sinryouka/sanhuzinka/tokushoku/sanka/bloodtype.html
[6]https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000076346.html
[7]ABO式血液型糖転移酵素 (ABO Blood Type Glycosyltransferases) | 今月の分子 | PDBj 入門
[8]血液型の割合を総まとめ!日本と世界各国など国・地域・人種で違う (hapiee.com)
[9]血液型と腸との不思議な関係 | 藤田紘一郎先生に聞く「腸大切なお話」 (bandscorp.jp)
[10]血液型に関する新事実の発見と人類の性質:『WIRED』日本版が振り返る2022年(サイエンス編) | WIRED.jp

変更履歴

Rev. 1  2024.3.25 初版







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