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モーセの十戒「虚りの証言をしてはいけない」から学ぶ


はじめに

旧約聖書のモーセの十戒の1つである、「あなたはあなたの隣人に対して、虚偽の証言をしてはならない」をとり挙げて、技術者倫理について話をしてみたいと思います。
人は個人として社会や組織の中で弱い存在ですから、誘惑にかられ偽造やデータ不正(品質不正)を犯してしまうおそれがあります。その心理的誘惑の原因について探ってみました。

虚偽の証言いわゆる捏造

科学技術として、実験データや成果物の設計や素材の捏造という行為の背後にある心理要因は複雑です。一般的にいくつかの要因や心理的側面が働いていると言います。以下、科学技術に限定して話を進めます。

競争と圧力:

科学界に於ける競争や評価の圧力は、一部の研究者にデータ捏造の誘因を与える可能性があります。論文の発表や研究資金の調達、キャリアの向上などを追求する中で、研究結果を操作することが誘発されることがあります。
企業における品質不正も、開発チームの責任者であるマネージャの強力なフォロー、例えば利益獲得のために工数や工期の削減、または経費削減要求などから、その部下である技術者がデータを創作してしまうことがあります。問題は、マネージャも役員も承知の上でそれがなされることがあることです。

名誉と自己イメージ:

研究者は自身の業績や名声に誇りを持ち、自己イメージを維持したいと考えます。業績を継続のためのデータの捏造は、これらの要因が関係します。
また、企業の場合、顧客と取り交わした開発納期があり、また、その開発リーダーは、自分の地位を守りたいという欲望があります。遅れたら顧客から次の仕事を貰えなくなるかもしれない。管理者のとして能力を問われ査定が下がるかもしれない。そのような自分を守るため捏造が行われることがあります。

結果の圧力と誤った動機:

一部の研究者や技術者は、研究が望む結果を示さない場合に、自身の業績を維持するためにデータを歪めたり捏造したりする誤った動機を抱くことがあります。期待する結果にならない原因を調べず、データを書き換えてしまう。周りに知られないなら大丈夫と思い行ってしまう。これは現代の風潮かもしれません。勤労時間の削減や価値観の影響で物事を徹底的に調べる研究者やエンジニアは少なくなっています。楽して成果を上げたい、このくらいなら大丈夫、結果を早く得たいという風潮が世の中にまん延しており、エンジニアもそう考える人が多くなっていると思います。

過度な野心と自己評価:

過度な野心や自己評価の高さが、成果を過大評価し、他者からの評価を重視するあまりデータを改竄することに繋がる場合があります。これはStap細胞事件が物語っています。

個人的なストレスや問題:

個人的なストレスや問題がデータ捏造につながることもあります。例えば、研究者が論文の発表期限に追われていたり、研究や開発に対する情熱が薄れていたりする場合が考えられます。
品質不正でいえば、納期が間に合わないため、結果を創作してしまうことがあると思います。

社会的、組織的要因:

科学技術者がおかれた環境は必ずしも恵まれているものとは限りません。研究開発予算が少ない、ヘルプしてくれる人が少ない、締め切りに追われている、有期の職にしかつけない、対勤労時間に対して給与が少ない、多くの論文を書かないと評価されない。数年前の話ですが、著名大手企業の正社員エンジニアだった友人の話では、裁量労働という名のも下その企業のサービス残業(裁量手当以上の残業または36協定を超えるの残業:勤務時間管理としては帰宅したことにして仕事する)は当たり前、時間給にするとアルバイトの賃金以下と嘆いていました。彼はその後転職しました。
倫理教育の前に組織が科学者やエンジニアの働き方に真摯に向き合う必要があると感じます。また社会も政府もサービス残業を看過してはいけません。

まとめ

上で挙げた要因はすべてのケースを網羅しているわけではありません。科学技術のデータだけには限りませんが、捏造の背後には社会や個人や状況によって異なる要因が絡む可能性があります。捏造という行為は非常に深刻な倫理問題です。その結果、安全が失われ多くの人が危害を被ったら取返しが付かないことになります。また、企業も国家も社会もそれらを寛容するのではなく、厳しい目でチェックする必要があります。また、捏造をさせない組織や社会づくりが必要と考えます。

モーセの十戒に関連づけて捏造の話をするとはけしからんと信仰者から怒られそうですが、如何にしたら科学者や技術者が誇りを持って仕事ができるようになるのかを探求したいという思いから書かせて頂きました。

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