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安全文化とは


はじめに

「安全文化」という言葉は、人々に異なる印象を抱かせるかもしれません。工場での勤務経験を持つ方々にとっては、その場での怪我を未然に防ぐための一連の行動が頭に浮かぶことでしょう。例えば、安全靴の着用、ヘルメットや防護具の装着、静電気を防ぐための作業服などが挙げられます。危険な作業では、安全手袋や安全メガネの使用も当然のこととされています。作業服は安全を優先し、手を入れるポケットは設けられていないかもしれません。そして、上着のジッパーをしっかりと閉じることが求められます。

私がかつて働いたことのある自動車関連の企業では、安全文化が独自の形で現れていました。設計やソフトウェア開発の部門であっても、昼礼の最後には安全唱和が行われる瞬間がありました。「ご安全に」という言葉を共に唱えることで、日々の業務に於ける安全に対する責任と共感を共有していました。一方で、私が経験した別の企業の研究所や設計センターでは、このような習慣は存在しませんでした。転職後の企業の製品設計部門でも同様でした。企業文化が、安全への取り組みをどのように表現するかは、こうした些細な瞬間にも現れると思います。

安全性の重要性は認識されていても、その企業が「ご安全に」を唱えるか否かは、組織の骨格に大きな違いを生むことでしょう。この小さな瞬間が、安全文化の根本を成す要素の一つとなり、個々の行動や意識に影響を与えるのです。そして、安全文化は単なる概念を超えて、組織の在り方を映し出す鏡となっているのです。

ISO 26262が要求する安全文化

ISO 26262は、自動車の機能安全に関する国際的な標準であり、車両の電子・電気システムの開発・製造・運用におけるリスクを最小限に抑えるためのプロセスを定義しています。ISO 26262では、システムの安全性を確保するために組織の「安全文化」の重要性が強調されています。ここでは、ISO 26262が要求する組織の安全文化について、背景・必要性・事例・測定などについて詳しく説明します。

背景と必要性:

自動車の電子・電気システムは、車両の安全性に直接影響を及ぼす重要な要素です。これらのシステムの誤動作や故障は、事故や危険な状況を引き起こす可能性があります。そのため、ISO 26262はシステムの機能安全性を確保するための開発プロセスを規定しています。こうしたプロセスの中で、組織の安全文化が重要な役割を果たします。

組織の安全文化は、個々のメンバーやチームが安全性を最優先事項とし、その考え方や行動がシステム全体の安全性に繋がる文化を指します。組織内での安全意識の醸成と安全思考の浸透は、システムの開発・製造・運用全般にわたって事故やリスクを軽減する上で重要です。

事例:

例えば、エアバッグの制御システムの開発を考えてみましょう。組織の安全文化が強固であれば、開発チームは材料、設計、組み立て、使用方法などに関する潜在的な問題やリスクに敏感に気付き、その都度適切な対策を講じることができます。逆に、安全文化が薄弱な組織では、問題が見逃されたり、重要な安全対策が怠られる可能性が高まります。

測定:

組織の安全文化を定量的に測定することは難しいですが、いくつかの方法が考えられます。例えば、従業員の安全意識を調査するアンケートや、過去の事故や問題の分析から安全対策がどれだけ迅速に実施されたかを評価することができます。また、安全関連のトレーニングや教育の実施頻度や効果を測定することも考えられます。

安全文化が醸成されていない組織の例
・経営陣は安全に関する問題が発生した場合に解決をするが、問題が発生しないときは安全を推進しない。
・安全を推進する人物、しない人物に対する評価に差がない。
・安全を軽んじる人物に対する罰則がない。
・レビューで反対意見をいう人物をチームワークを乱す人物とみなす。
・安全に関わる開発プロセスが維持さらに刷新されない。

開発への影響:

組織の安全文化は、開発プロセス全体に影響を与えます。安全文化が浸透していれば、以下のような点が開発に現れると思います。

要求分析: 安全文化がある組織では、機能安全性に関する要求が適切に洗い出され、文書化されるでしょう。

設計: 安全文化の影響下では、システム設計段階でのリスク分析やハザードの特定がより徹底的に行われるでしょう。

開発: 開発チームは安全性に対する意識を持ちながら、設計やコーディングを行い、機能安全性の確保に努めるでしょう。

テスト: 安全文化がある組織では、テスト段階での安全性評価がより綿密に行われ、適切な検証と検証結果の文書化が行われるでしょう。

報告と文書化: 安全文化が根付いていれば、開発プロセス全般での安全性に関する情報共有と文書化が適切に行われます。

まとめ

結論として、ISO 26262の要求する組織の安全文化は、車両の機能安全性を確保する上で不可欠な要素です。安全な製品を開発するのは人です。そのため従業員の安全意識と安全思考を促進することは安全な製品を開発するための礎であり、開発プロセス全般にわたって安全性を高める効果があります。
日本ではチームの「和」を尊ぶがゆえに、「安全」や「品質」に関して強固に意見する人物を排斥したり、その意見をうやむやにする傾向があります。組織のリーダは、スケジュールと安全を比較したときに、何を優先するのが正しいのかを、企業としてそして製品が顧客に与える影響をよく考えて製品づくりを進めてほしいと思います。

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