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長柄高校馬事文化研究部活動記録

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#小説

伝説の新馬戦はストロング缶で祝杯を――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑤

「馬券を買わない競馬なんて、ノンアルコールビールみたいなもの。でもだからといって、ストロング缶で悪酔いする必要も、全然ないのよね……」
 放課後、部室にやってきた僕たち馬事文化研究部部員一同が目にしたのは、窓の外を眺めてため息を放つ、田村宮子先生の姿だった。
「えと……どうかしたんですか? 先生……」
 四人を代表して、阿久津さんが先生に声をかけた。けれど、わかっていた。阿久津さんはもちろん、僕も

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ハイアムズビーチは競馬場デートの夢を見るか? ~長柄高校馬事文化研究部活動記録③

「競馬好きで売ってる女性タレントがよく言う、『競馬にハマったきっかけは親しい友達に誘われて』ってあれ、確実に元カレの影響ってことよね」
 部室に入ってきていつもの席――僕の隣に腰かけるなり、そんなふうに話しかけてきたのは、我らが馬事文化研究部の部員のひとり、阿久津姫さんだった。
 えと……阿久津さん? なぜいきなり、色気づきはじめた男子中学生みたいな話を?
「いやね、昨日たまたまテレビで見たのよ、

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世界の〇〇現る? ――長柄高校馬事文化研究部活動記録④

 前回までの長柄高校馬事文化研究部活動記録は……などとリプレイダイジェストをお送りしている場合ではない。時空の歪み、あるいは更新の遅れが生じたせいで、僕たちはいまだ馬事文化研究部の部室にいる。
 六月十九日と二十日の新馬戦回顧が終わるまではこの部室から一歩も外へ出られない、そんな世にも奇妙な状況に巻き込まれている……わけではないけれど。
「それじゃあまずは六月十九日の札幌5R芝1200m、牝馬限定

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BAKEJO、ダービーを反省する。~長柄高校馬事文化研究部活動記録①

「やあ、もう誰か来て――って、うわっ!」
 部室のドアを開けた途端、目に飛び込んできたのは、”orz”みたいな恰好をした女子生徒の姿だった。
「えと……なに、してるの? 室谷さん」
 床の上で力なくうなだれるその子に、僕はおそるおそる声をかける。
「ん? ああ、ハヤタか……」
 その子は僕に気づくと、首だけこちらへ振り向いた。お尻は突き出したままだ。……目のやり場に困る。いつものことだけど、もうち

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