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イッセイ、メンズやめるってよ。

8月です。暑いです。7月末まで梅雨だったくせに急に帳尻合わせてきやがって。夏の曲と言えば何が浮かぶでしょうか。”夏の日の1993”からもう27年も経ってしまったよ。夏の日の君に。

ファッション界では寛斎さんの死去だったり相変わらず残念なニュースばかり報じられています。先週はこんな発表が飛び込んできました。

イッセイミヤケ メンといえば、あのスティーブ・ジョブズが愛用したタートルネックのブランド。ジョブズは自身の制服としてイッセイに別注でタートルをオーダーし、常に着用していたことで知られていますよね。

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そう、これです。ジョブズは生前こんなことを言っていたのだとか。

「黒のハイネックをつくってくれとイッセイに頼んだら、100着とか作ってくれたんだ。僕の服はこれだ。死ぬまで大丈夫なくらい用意してあるよ」

しかもその100着は無料で送ったそうです。イッセイさん太っ腹。コットン素材で高過ぎないネックと程よいリラックスしたデザイン。このタートルにデニムというのが、世の中の人が浮かべるジョブズのイメージほぼすべてと言っても過言ではないでしょう。

僕もいい感じに貫禄がついたら、イッセイのメンズを着ようと密かに楽しみにしていたんです。シンプルイズベストなシルエット、だけどちょっと捻りがあって個性的でもある。若すぎるとアイテムに負けてしまうし、ある程度年輪を重ねた男性の個性を引き立たせるのにちょうどいいテイストだったと思うんですよね。

だからこの出来事は結構衝撃的でした。
イッセイは全般的に上手くブランディングして、クリエイションも商売も順調だと思っていたから。

バッグのBAOBAOも大ヒットし、プリーツプリーズなど衛星ブランドも安定的な人気。「ツモリチサト」の津森千里さんや最近では「Mame Kurogouchi」の黒河内真衣子さんらを筆頭に、多くのトップデザイナーを輩出している育成力。上手くやっているという印象しかありませんでした。

ただ、メンズのデザイナーが退任して後任を迎えないままだったことは気になっていたし、コロナ禍になってから内定取り消し問題が報じられたり、その中でインバウンドが途絶えたことが大きな要因になっていると語っている通り、青山のイッセイの路面店を賑わせていたのはインバウンド客がほとんどだったことは確かです。

「6月以降、順次営業短縮して再開されましたが、弊社の売上構成では、海外からのツーリストのお客様の売り上げ(インバウンド)が非常に高い。国際線が飛んでいないのと、日本への入国者数が激減しているため、その売上が全くたっていない状況です。 国内のお客様への販売努力を継続すれば、ある程度の回復は見込めるかと思いましたが、このところ東京都でも感染者数が増えて、今後の見通しが立たないということで、来年4月の大多数の内定を出している学生さんをお迎えすることが難しい。それで内定取り消しの通知を出させていただいております」ー
https://news.yahoo.co.jp/articles/8e81f270f1fdadac9bf9121ccf36544d1dbea4de より引用

僕も通るたびに”アジア圏の人は本当にイッセイが好きなんだな”と感じる反面、この状況のままでいいのだろうかと思うこともありました。

インバウンドに人気が高い、という意味では同じく日本を代表するブランドであるコムデギャルソンも同じです。大きなハートのついたTシャツを着て闊歩する観光客の姿は多くの人が目にしたのではないでしょうか。おそらくそんな姿もしばらくは街から消えるでしょう。

当初インバウンドはボーナスステージのようなものだったはずですが、その状況が続いたことでそれがメインになってしまった。まさか急に国家間の往来が途絶されてしまうことになるなんて、さすがに誰も予測できません。だから仕方ないことなのですが、やっぱり国内でしっかり需要を喚起しておくことも必要だった。今売れてるからいいか、となっていなかったか。

インバウンドに売れれば売れるほど、国内では敬遠する層がいることもまた事実。銀座でインバウンドが幅を利かせていた時期、界隈のショップから相当の常連客が離れたと聞きます。僕も青山店の常連だったとしたら、あの様子を見たら足が遠のいたと思う。

ただ、日本のブランドなのに海外からの観光客が途絶えたら一気にピンチというのはやはり矛盾を感じます。今から国内向けにシフトチェンジをするでしょうが、インバウンドに目を向けている間に市場はファストファッションに押さえられてしまっている。

 
ここにもイッセイメンズが休止に至る遠因はあると思うんです。

 
最初に言っておきますが、僕もファストファッションは買いますしスタイリングでも使います。コスパが抜群のものや日常使いのもの、バリエーションを増やしたいときは本当に重宝している。価格や機能性の向上を含めた企業努力は素晴らしいと思っていますし、ファストファッションに関連する本や特集はほとんど読んで参考にしています。

その上で言いますが、全てファストファッションでOK!みたいな雰囲気を作った業界や識者はそれで良かったのでしょうか。

高単価なものが売れなくなれば単価が下がり、似たようなものばかりになって飽きられ、憧れの業界ではなくなって人材も集まらなくなり業界全体としてはシュリンクしていくしかない。今まさにその通りになっています。
 

正直、ファッションには「ランク」というものがある。

 
礼服を頂点として、冠婚葬祭>ビジネス>オフィスカジュアル>デイリー>ルームウェアという純然たるランクが存在してきました。

基準が時代によって変わることは否定しません。言語と同じですよね。でもやっぱり素材や作成にこだわり抜いたアイテムと大量生産のアイテムでは格と扱いの違いがあるべきだし、そういうランクを知った上で選んでほしい。

イッセイのタートルと似たシルエットのアイテムを安価に作ることは簡単でしょう。でも袖を通したときの満足感、自信が溢れるような感覚が全然違うはず。姿形は似せることは出来ても感覚までは似せることは出来ません。
 

料理の世界で、土井善晴さんや落合務さんが「ご飯はレンチンのでいいですよ」とか「パスタなんか何使っても一緒」なんて絶対に言いませんよね。ご家庭で作るなら〜という言い回しでちゃんと格が守られている。でもファッションでは格を守るどころか、そういう発言が平然と行われているように感じるんです。

誰でも手軽に始められるところから、という意図があるのかも知れませんが、多くの人は「なんだ、高いものは必要ないのか」という誤ったメッセージを受け取る。その結果が今です。3年後の自分を見据えてと言いながらファストファッション価格を勧めてる人も居る。いや3年後もそのクラスかい。識者は価値を正しく伝えていく責任があると思う。

本当に良いものを作っているブランドが、パク…二番煎じでリーズナブルなところに食われて消えていく世界はやっぱりおかしい。ファッションに限らず、良いもの、それなりもの、論じるに値しないもの、忖度せずちゃんと分けて評価してほしいのです。

良いものはなぜ良いのか、なぜ高いのか、なぜ買うべきなのか。ファッション業界に身を置く者として、そこをちゃんと伝えられる人でありたい。大人はちゃんとしたものを着るべきだし、良し悪しを分かった上でセレクト出来るようになってほしいと思うのです。
 

ええ、分かってはいるんです。
最大の問題は洋服に回すお金だということは。

でも本当に自分に合った、満足できる服に出会ったら理屈でなく欲しくなります。それを着ることでビジネスやプライベートに生まれる心理的、経済的効果は、確実に払った金額を超える。

きっとジョブズもそれを実感して、イッセイのタートルを半生着続けたのではないでしょうか。

日々着るものには、人生を左右する力があります。
僕も着るもので大きく左右されたし、それで人生が変わった。
それを一人でも多く、一着でも多く、伝えていきたい。
 

100着単位で注文は出来ないけど、僕がナイスミドルになるまでにイッセイミヤケ メンの復活を願って、PCを閉じたいと思います。

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