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シャネルの価値を知らなかったのは、シャネル自身だった話

今業界や世間をザワつかせているのは、やっぱりこの話題でしょう

VOGUE GIRLがシャネルの香水「チャンス」とのタイアップ企画で、ユーチューバーのコムドットを起用したことについて、ネガティブな意見が噴出しているという話。Twitterを見てもやはりネガティブな意見は多いですね

個人的には、そりゃそうなるよね!という感想が一番に出ましたが。「失敗マーケティングの教科書」があったら絶対載るだろうな。

コムドットさんは来た仕事をこなしただけ。しかもシャネルからなんてウハウハだったことでしょう。そこに問題はないと思います。

問題は、というか正直ショックだったのが、この企画を許したシャネルです。そんなに困っていたんですか?と思ってしまいます。

「インフルエンサーマーケティング」という諸刃の剣

これはもはや世界中で行われているので、そこが問題なのではありません。あの「BOSS」もそういった人たちをメインに起用し、一気に若返りを図ったりしています。

インスタで何万フォロワー、TikTokで何百万フォロワー、youtubeで、、とフォロワー数が多い人に大きな影響力と拡散力があるのは確かです。今はそういう人の力も上手く使うべきでしょう。

ただ、PRを生業にしているようなインフルエンサーはブランド愛もなく、ギフティングされたアイテムを投稿した翌日にはメルカリに出したりする例も多いと聞きます。当然そんな人がPRした投稿から愛は感じられない。そんな発信から売れるわけがありませんし、ディスプロモーションになってしまう場合も。

以前にも書きましたが、今はフォロワー数ではなくエンゲージメントの方が重要になっています。フォロワーとの関係性、親密度、そういったものがしっかりしている方が影響力が強い=購買に繋がると言えるわけです。

特に「タイムリーな影響力がある人」と「タイムレスな価値を築いてきたブランド」の掛け合わせって、かなり難しいと思うんですよね。

今回のケースの問題点は

タイムレスな価値を築いてきたブランドには、まさに創業から今まで築いてきたアイデンティティーと信頼に惹かれた顧客がいて、アイテムの裏にある歴史もリスペクトして高額な代金を支払っているわけです。ポッと出のブランドではそうはいかない。

そんなブランドの顧客のことをどこまで考えていたのかな、大切にしていたのかな、と思ってしまうわけですよ。

コムドット人気だよね→ファッション系のイベントにも呼ばれてるし→私もファンなんだよねー→シャネルに聞いてみよー!

まさかまさかこんな単純な話ではないでしょうが、なんとなくそんなノリで決まったんじゃないのかと思えてしまうんですよ。そうでないことを祈るけど。

本来なら、聞いてみた段階でシャネルがしっかりジャッジしなければいけなかった。もしものシャネルから指名で話が来てたならもう笑うしかないけど。

そして”やっちゃった”のはこの一文

まさに自分たちの手で“チャンス”を掴みに行くその姿は、フレグランスの世界に革命をもたらしたガブリエル シャネルの姿と重なる部分も。
https://voguegirl.jp/special/chanel/220721/

ねぇ、本気で言ってます?
たくさんの人をシャネルに重ねてきすぎて基準が分からなくなっちゃったのかな?これをファッション業界に連なる人が言ったことに愕然とせざるを得ない。実際シャネルに比肩できる人が世界に何人いるのよ。

コムドットさんのファンには本当に申し訳ないけれど、本当にシャネルLOVEな顧客層やシャネルに憧れている層で、このコラボを望んでいた人は多くなかったと感じる。

やっぱりブランドLOVEな顧客の声は大きいんです。ブランドはそういう岩盤支持層と憧れ層が支えている。そういう人たちが何を望んでいるのか、何をしたら喜んでくれるのか、というのを想像できなかったことが最大の問題だと思うんです。

業界に携わる身として正直に、客観的に言うと、シャネルの人気商品を背負うには「軽かった」し、望まれてないところに放り込んでしまった方にも責任がある。スタイリングも他社ブランドのタグが見えてたりして非常に雑。酷い。高級感皆無。写真のセレクトもダメ。これではモデルがかわいそうです。

よくアニメ原作の実写化で「イメージが違う」などと言ってキャストが批判されたりしますが、それはキャスティングした人やスタイリングが悪いのであってオファーを受けた人が悪いわけじゃない。ちゃんと見合うか背負えるか、見極める側の責任もあるはずです。

シャネルに感じていた”違和感”

僕はシャネルの支持者というより、前デザイナーであった故カールラガーフェルドの大ファンです。信奉者です。シャネルが今の地位を築いたのは彼の存在に依るところが大きかったと思っています。全ては彼が決めていました。

そんな彼を失ってもブランドは必死に頑張っていたと思っていました。でもそんな重しが取れてどこか不安定になっているのでは、というのはちょっと前から感じていて。それを感じたのはこんな話題から

昨年シャネルがアドベントカレンダー形式で発売したギフトパック。

約10万円と高額ながら、中身が空の袋やステッカー、こまごました雑貨ばかりで「とても見合った内容ではない」と炎上していたのでした。

ネタとしては面白いですが、サービスとしてはどうでしょう?

少なくとも僕の知るシャネルは、高額だけれどそれに見合った価値を提供するブランドでした。こんなネタになるようなブランドではなかった。だから「あれ?」という違和感を覚えたんです。

これは今回の件とは全く関係ありません。
でも今思い返してみると、何か変わってしまったのではないか、タガが緩んでいるのではないかというのは繋がっているような気がする。

日本でも某回転寿しチェーンでおとり広告みたいのが続発していますよね。やっぱりそういうのって連鎖するものだと思うんです。昔は明らかに他社より美味しくて、職人上がりの社長がやってた頃はしっかりしてて好きだったんですけどね、なんて昔話はここまでにして。

「見合った価値」を提供できるか?

ちなみに、日本のビューティー部門でシャネルを抜いたと言われているディオールは、ビューティアンバサダーに俳優の吉沢亮さんを起用したことで話題になりました。

これには本件のような批判や炎上の声は聞こえてきません。なぜでしょうか?

それは「吉沢亮さんで異論はない」と思わせることが出来たから、ということになります。

近年の活躍を通して、ディオールの提供する価値に見合った存在である、さらに価値を高めてくれる期待感があると、ブランドのファン、そして衆目の一致するところとして起用を納得させられた。だからポジティブな反応が多いのです。

僕はスタイリストとして「その人の言っていること×その人の見た目=説得力」だと言っているのですが、これはマーケティングでも同じだと思う。

「ブランドの価値×起用された人の納得感=説得力」なわけで、それぞれの数値設定が間違っていたら説得力は生まれません。


繰り返しになりますが、本当はシャネル自身が自分の価値をしっかり把握していなければいけなかった。

シャネルは数少ない、アウトレットに出店していないブランドです。大っぴらにセールもしていない。オンラインECも技術が成熟するまで作らず最後発。そうやって自らの価値を守ってきました。だから二次流通品も高値安定で資産価値があるブランドになってきたんです。

今回の件で新しい層にアピールできて瞬間的に売上は上がるのかも知れない。でも、シャネルのファンや憧れを抱いていた人の多くは「そういう方向に走るんだ、シャネルは」と感じてしまった。

高嶺の花で居てほしかったんです。そういうポジションで居ることに価値があったんです。ハイブランドの中でも別格の価値がシャネルにはあるのだから。愛しているが故に悲しむんです、怒るんです。

シャネルも改めて、自分たちのポジショニングが分かったのではないでしょうか。そんなに価値を感じてくれていたんだ、高く買ってくれていたんだ、と。これは奇貨としなければなりません。

昔のように権威主義的なものは流行らない時代です。稼げる若者も増えているしハイブランドは大人になってからというのも古いと思う。だけど、そこに迎合しないからこそ価値があるブランドもあっていいし、そういう重しも必要です。みんなが同じアプローチである必要はないのです。

改めて、ブランドや人の価値を正しく把握すること、ひいては自分の価値を見極めて正しく発信することが大事な時代だなと感じる出来事でした。僕もそこはしっかり見極めて提供していきたい。

余談ですが、漫画原作の「キングダム」
漫画より先に実写映画を見てしまったのですが、吉沢さんや長澤まさみさんの演じるキャラが美しすぎて、原作を読んだら「あれ?」と違和感を感じるようになってしまいました。。大沢たかおさんの王騎も最高ですね。ンフフ。

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オーダーメイドスタイリスト 神崎裕介


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