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大分+長崎+佐賀  蔵元アーカイブズ 2002〜05(11) 大分・いいちこ日田蒸留所

2005.01.13 by 猛牛

■夫婦二人のぶらり旅、またまた日田へと、草木もなびく………


猛牛「どこに行くね?」
家人「そーやねぇ、あんたの行きたいとこ」
猛牛「そげん言われてもくさ・・・。んなら、阿蘇の叔父さんとこは?お祖母ちゃんとも会ってないやろ?」

阿蘇に電話するも、気温0度。道路は凍結して、行くも帰るも難儀な道中が待っているとの話。1月9日、この日は筑前も大晦日以来の寒波がやってきて、クソ寒い日なのだ。そこで、近場のぶらり旅、交通の安全を考え、一昨年8月に訪れた日田へと再び足を向けた。

以前訪れた場所であるが故に、今度はどこを覗くか、ちと悩む。サッポロビール日田工場で土産を買った後、据え置きの観光パンフを漁る。ラックを見ると、三和酒類さんの「いいちこ日田蒸留所」のリーフレットがあった。さすがのデザインだ。

猛牛「いいちこの日田蒸留所やて。どう?」
家人「かっこいいねぇ、これ・・・。行こうか」

なぜかスンナリとOKが出た。以前から関心があったが、なかなかお邪魔する予定が立たなかったのだ。本格焼酎界の超大手蔵が、名水の地・日田で造り上げた蒸留所がどんなものなのか、突撃することと相成った。

■瀟洒、洗練、偉容の三拍子=日田蒸留所


日田市内から車で北に5分ほど。丘の上、曲がりくねった道を抜けると「いいちこ日田蒸留所」はあった。02年4月に竣工し04年4月2日に一般公開が開始された、蔵でいえばまだまだ出来立てのホヤホヤである。朝10時開門で、わてらは一番乗り。ちょうど守衛さんが門扉を開ける瞬間に車を乗り入れた。

とにかく、一目みてデカイ! そして煉瓦づくりの瀟洒な造りの建物がドッと並ぶ偉容。サイン関係なども当然ながら色調やデザインが見事に統一されて、さすが三和ism!と感服するしかない。家人も「蔵元さんとは思えないくらいにキレイだよねぇ~」と嘆息。女性も納得の空間・景観づくりなのだ。

敷地内には遊歩道や噴水、そして古代の住居跡の復元遺跡ありぃーで、ちょっとした散策も楽しめるものとなっている。中心を貫く並木道などは、まるで“冬ソナ”は春川の1シーンみたい。

猛牛「ユジナぁ~。チュンチョネソ カルッカヨ?・・・サラン屁ヨ」

■なにはともあれ、試飲なのだっ!!

溜息をつく家人とは思惑が違い、わては朝一だろうと、とにかく飲みたい。敷地北側にある試飲場+受付棟に急速に足を向ける。

中に入ると、まるで何かのショールーム。建物の設計もインテリアも凝っている。入口の手前から左奧に向かって土産物が並ぶが、陳列も猥雑ではない。

普通の観光蔵と違うのは、酒以外の雑多な地元土産品はまったくと言っていいほど売っておらず、「いいちこ銘入り徳利」などの器やグラス類があるくらい。あとは自社関連商品が占めている。このあたり、サッポロビール工場とは好対照のスタンスだ。

家人「土産品がゴタゴタして無くて、スッキリしていい感じよねぇ」

地元との関わりでいえば、サッポロの清涼飲料水の自販機が隅に置いてある程度。土産ブースについてもある種の美意識が貫かれている・・・と来訪者には見える。立地条件として日田市内から少し離れているが故に、わさわさと地元土産品を置く必要は逆に無いと思えるし、ヴィジュアル的にも質が保たれている。

帰り際に試飲場に戻ってコーヒーを一杯。カップを持ち上げた家人が声を挙げた。
ソーサーに「iichiko」の刻印が。こんなところにもismが発揮されていた。

土産物に目を向けると、あった!あった! 日田蒸留所で造られ限定販売されている「全麹常圧麦焼酎44度」だ。同じく「全麹減圧麦焼酎44度」「長期熟成貯蔵酒40度」の三品である。

さっそく試飲カウンターに向かう。

まずは減圧から飲る。常圧から入ると次から味が解らなくなりそうだから。さて減圧だが、香りは微妙、舌触りはちょいとねっちょっとフルーティ、含みも軽く、優しい味わい。わての好みではないが、さすがにレベルは高い。

次は、常圧に挑戦。麦らしい香ばしさがぐっと立ち上がる。だが、落ち着いた感覚がある。含んでみると若干舌に刺激を感じたのだが、他の著名常圧物と比較して、良くも悪くも上品な印象が強い。「洗練」という言葉が似合うのは、同社らしいやろか。わてはイケると思った。

樽物は苦手なので「長期貯蔵」はパス。まぁ、どちらにしろ、他の蔵元さんからも製造技術のレベルの高さを称揚される三和酒類さん、質の高さが実感できる出来だと思う。

わてはもう『いいちこ』を手にすることは無くなったが、「大手蔵だからダメ、美味しくない」という信仰がもしあるとしたら、それはもったいない話だ。まずは日田蒸留所製造の三品、自分の舌で味わってみることをオススメしたい。

■ああ、このショットグラぁ~~~ス!!

さて、試飲用のショットグラスをしみじみ眺めていたら、なぜか土産物売り場には置いていない。なんで??? さっそくカウンターの向こうで“監視”している係員の方に、それとなく伺う。

猛牛「あのぉ・・・このショットグラスは、売ってないとですか?土産物の中には無かったみたいですばってん」
係員「あ。ちょっと待って下さい・・・・すみません、ありませんねぇ」

家人とわてで、先の3本セットをはじめ相当の土産を購入していた。わてはさりげなく、やや強気で攻勢に出た。グラス収集のためなら、恥も外聞もあったもんじゃないっ!

猛牛「あのぉ・・・良かったら、これいただけません?σ(*^^*)」

その瞬間5名ほど居た係員の鋭い視線が、一斉にわてへと向けられた(*-)(*-)(*-)(*-)(*-) → んぐ(──;

係員「誠に申しわけありませんが、お譲りすることは出来ません。すみません(^_^;)」

試飲場から蔵へと向かふ ミミミミミミミ(*-) (*^)

家人「やっぱり言うと思ったとよ、グラスくれって。ふふふ」
猛牛「あれだけ商品買ったっちゃけん、一個くらいくれたって良かろうもん・・・」
家人「係員が多かったけん、“持って”いけんやったやろ? ははは。韓国行ったときは、焼肉屋で“LITEビール”のコップ持って帰ろうとして、慌てて他のコップまで割ったやない。ほんとにもぉ・・・」
猛牛「ちぇーーーー」

■蔵内部---極めて整序された空間

大きな建物が居並ぶ敷地の西側。大きく蒸留棟と貯蔵棟に別れている。また外部には巨大な貯蔵タンクが十数基ほど林立していた。すべての棟がプレハブ倉庫風ではなく、煉瓦づくりの重厚感のある建物となっている。

導入についてはサイン関係がしっかりとしており、いかにも「ヴィジュアルを統一しました」というあざとさを感じさせず、嫌味のない色調やデザインでまとめられている。

蔵見学部分は、完全に内部とは隔絶しており、窓越しに見るタイプ。

案内無しに来訪者単独でも見学は可能だ。係員の説明に代わり、大型の液晶モニターでビデオが流される。

ほんにデカイねぇ、この蒸留器は・・・(@_@;) さすがに大手蔵だ。

樽貯蔵庫の部分。このフレームの右奧にまだまだスペースがドカン!と空いている。その右側に大きなタンクが数え切れないくらい並んでいる。

蒸留蔵の入口はまるで高級ホテルのエントランスやロビーのようだ。樽と植栽がさりげなく飾られている。

家人「ほんと、キレイな蔵よねぇ・・・」

わてとしては、あまりにも整序されすぎているが為に物足らない感じがするのも確か。しかし、家人の感想は観光客が一様に抱く感慨ではないだろうか。女性から好印象を獲得したというのは、観光蔵の在り方として成功だと思ふ。

ちなみにこの蒸留所、三和酒類さんのリリースによるとISO14001を取得している。

○取得認証/ISO14001
○拡大範囲/三和酒類株式会社「いいちこ日田蒸留所」
○認証機関/LRQA(ロイド・レジスター・クォリティ・アシュアランス・リミテッド)
○取得目的/環境方針(別紙参照)遵守に向けてのシステムの構築
○取得効果/地球環境に対する負荷の低減、環境に関するリスク管理、環境に対する従業員の意識高揚
○認証取得日/2004年3月6日(土)

■気になる常圧麦、販売の行方は???


さて話は前後するが、昨今話題となっている三和酒類さんが出される常圧麦焼酎について、試飲していた際に係員の方に聞いてみた。まさに減圧の王者の歴史的な商品となる『いいちこ』の常圧なのだ。

猛牛「今度、常圧麦を出されるち聞いたとですが。この全麹物が元になるとでしょ?」
係員「はい」
猛牛「いつ頃のご予定ですかい?」
係員「まだ決まっていないのですが、今年中には予定しています」
猛牛「三和さんが常圧を出すというので、とても注目しちょるとです」
係員「最近常圧の麦が増えてきまして・・・」
猛牛「確かに大分でも多くなったですね、常圧物が」

ちゅーわけで、今年どのような貌で登場するのか、楽しみぬぅあんである。

■日田蒸留所を後に・・・・

猛牛「んで、これからどこ行くかねぇ・・・」
家人「そういえば、おととし、行けなかったとこがあるやろ? そこお邪魔したら? ナントカの井さんって言いよったとこ」
猛牛「どこ?? あああ、角の井さんね。開いてないかもしれんけど行ってみようか・・・」

超大手蔵の蒸留所から一転、次は豊後正調粕取焼酎の命脈を伝える『大海』を擁す山間部の古風な蔵、井上酒造さんへと向かったのだった。もしかしたら『大海』が買えるかもしれない・・・と手を合わせながら。

家人が運転するMRワゴンは、一路三隈川沿いの国道を西に下っていった。

(了)


■2022年追記:今から17年前の日田蒸留所の姿ですが、現在はどうなんでしょう。さすが超大手らしい蔵の造作、佇まいでした。

国分酒造にいらっしゃる現代の名工・安田宣久杜氏に以前お会いした時に、意識する蔵はどこですか?とお訊ねしたら、「三和さんです」とおっしゃいました。大手ならではの技術力が凄いのだと。

訪問当時、本格焼酎業界のトップは三和酒類さん。しかし芋焼酎ブームを経て、ついに霧島酒造さんがその座を奪いました。なんとも感慨深い思いがします。

私個人としては、1980年代前半までは『いいちこ』『二階堂』など大分麦を飲んでいましたが、その後は『霧島(現:白霧島)』など芋の方にシフトしてしまって。久しぶりに飲んだ麦が同じ宇佐市は大洲の『兼八』でした。

この稿を書いた頃は、”冬ソナ”による最初の韓流ブームの渦中でした。いまは第二次ブームというんでしょうか、Netflixなどの配信によって世界的流れになってしまいましたが。隔世の感ありです。

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