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正調粕取焼酎 資料1

サイト『九州焼酎探検隊』に掲載した各種の正調粕取焼酎に関する記述を集約化してアップしました。ひとまとめにした方が見やすいと思いまして。主に2002年時点での情報です。


1.20年前の粕取焼酎・製態系

(2002年8月掲載)

筑前在住の協力者の方より、20年前の北部九州各県における粕取焼酎蔵のリストをご提供いただいたので、ここに可能な限り公開させていただく次第。

まさに20年前、1982年当時における粕取焼酎の製態系の全貌がこれだ。

現時点で現存しているもの、蔵元自体が廃業となって消滅したもの、また本家本元の蔵が廃業となったが他の蔵が引き継いだものなど、銘柄の状態は解っているものについては記した。銘柄そのものなども当然漏れが想定されるため、今後判明すればリストに追加していく予定である。

※注:消滅などの文言については、蔵そのものではなく粕取焼酎の個別銘柄を指します。
※注:
『園乃露』の原料は「粕・米糠・米」製ですが、あえて加えています。 粕取焼酎製造の蔵元の数は、こうやってみれば一目瞭然、福岡県や佐賀県、そして大分県に集中していたことが解る。九州の中でも有数の米どころ=清酒どころという地理的条件が、粕取焼酎のバックボーンにあったのが納得できる蔵の分布だ。

ところで、あくまでも推測でしかないが、ちょうど20年前に甲類焼酎から減圧麦焼酎の侵食が進んだ大分県では、それ以前にはまだまだ粕取蔵が多かったのではないだろうか(けんじさん大分調査報告に依る)。

当時においては、未だ粕取焼酎の製態系環境は維持されていたのであろうことが実感できる。しかし、今後の調査でこのリストの“レッドデータ”がどこまで拡大されるのだろうか・・・。いまこそ、粕取焼酎の製態系保護についての意識高揚が必要な時を迎えたと申し上げて過言ではない。


2.KASUTORI NOW!

(2002年8月掲載)

現在販売されている北部九州の粕取焼酎について、可能な限りリストアップしてみる。現行商品なので入手が比較的容易、自社ページやモールでの購入も可能なものが多い。

ここでは籾殻を使用したトラディショナルな古式床しいタイプに加えて、吟醸粕使用の分も列記する。ネットで検索された方ならお気づきかも知れないが、最近の粕取焼酎の主流として吟醸酒粕を使ったものが多く市場に投入されている。

香りや味に馴染みやすいので、ビギナーの方のトライアルにはぴったりかもしれない。

◇    ◇    ◇

当探偵団の趣旨は、正調粕取の再評価と復権(遠大だねぇ~)にあるが、新趣向の吟醸粕取を否定するものではない。また、何らかの理由から入手不可能で簡単に飲めないようなものばかり紹介したところで、それはわてらの自己満足でしかぬぅあい。そこで、合わせて吟醸粕取の銘柄も記載することとした。

もちろん漏れがあるので、順次判明した物についてはリストに追加していきたい。

※正調(基本的に酒粕+籾殻)または吟醸粕の別については、猛牛が記載。
※佐賀県分は佐賀県酒造組合さんより情報をいただいた。
※他県分は現在調査中。


3.佐賀県の正調粕取分布状況

(2002年8月掲載)

これまでわて個人で2回、goida隊員との広域に渡る1回の店頭調査行で判明した、佐賀県における正調地粕取焼酎の分布状況をまとめてみた。2002年8月の時点でのものである。地元およびその周辺にお住まいでないと地理的関係も解りにくいと思い、作成した次第。

個人的に探った2回については、カメラ携帯の正式調査ではなかったため、記憶が不分明な所もある。思い出し、思い出しで申し訳ないがご容赦の程を。佐賀県内すべての酒販店さんを探索するのは物理的に不可能であるため、目安としてご覧いただきたい。

goida隊員との調査行では16%台の店頭化率と出たが、実際には酒販付きの大手コンビニなどはチェックしなかったため、店頭化率は大幅に下がると考えられる。

●地図を見て感じるのは、まず店頭化店が各都市部に集中していること。

調査行のルートとして、わて個人の時は、唐津市から佐賀市へと南東に向かうルート、goidaさんと同行時は唐津市から伊万里市~武雄市~鹿島市と南西に向かうルートを取ったが、田園地帯が拡がる郡部の小さな酒屋さんではまったく影も形もなかった。

かつて粕取焼酎を支えていた農村地帯の酒販店には無く、都市部の資本力や棚に余裕がある大手酒販またはディス系で店頭化されているのが、佐賀県正調粕取焼酎の実状だ。

◇   ◇   ◇

経済産業省の1999年のデータでは、佐賀県内の酒販小売店は総数672店。

これはあくまでも仮説であるが、上記のマップに載っている佐賀県産粕取焼酎のみの店頭化店を2倍に多く見積もって計算しても(7店×2/672店)、

なんと店頭化率は県全体の2%!

しか無いのである。いかに粕取焼酎が「真の幻」と化しつつあるか、よく解る数字である。


4.福岡県西部の正調粕取分布状況

(2002年8月掲載)

goida隊員やわて自身単独、および一昨日の両名による探索で判明した福岡市西部と糸島地区(前原市+志摩町+二丈町)における正調粕取焼酎の分布状況をマッピングしてみた。2002年8月24日の時点でのものである。

これまでの調査行を踏まえて、福岡県最西部における正調粕取焼酎の受容についてのポイントをまとめてみたい。

1)消滅した粕取焼酎『池田』の勢力圏と人気。

西区周船寺にあった中原酒造場さんの『池田』だが、我ら2名の聞き取り調査とけんじ隊員の体験・資料により、勢力圏については「西区+糸島地区全域+早良区の西部」が主なマーケットだったことが判明した。またけんじ隊員が6年ほど前に城南区の酒販店でも入手しており、同区の一部も勢力圏内にあったものと思われる。

また廃業後も同銘柄を求めるファンが多く、現在でも置いていないか?と探し回る客が来るという。ある酒販店さんでは特にこの2ヶ月くらいそういう探究者が増加したという話も出るほど、根強い愛好者が多い銘柄だったことが明かとなった。

さらに蔵元の中原氏本人の粕取に賭けた情熱に、今でも崇敬の念を持つ酒販店経営者も少なくない。そういう意味でも、まさに「幻、伝説の粕取焼酎」だと言えそうだ。

2)思い出したら、現役正調粕取の店頭化店は8軒のみ。

かつて粕取王国であった福岡県西部、特に糸島地区は現在は見る影もない。改めて計算し直すと、現在の行政区に従うなら糸島地区はなんと1軒。あとは福岡市域に7軒となる。なお現役=レギュラー品ではない2種の店頭化店はカウントしていない。

1)と関連して見れば、『池田』消滅後に各酒販店の多くがそれぞれ代替商品を導入した結果だろうか、福岡県内外の様々な粕取ブランドが入り乱れている状態にある(・・・と言っても、それだけでもありがたい話ではあるがのぉ~)。ま、どちらにしても、店頭化店の少なさは佐賀県と同様。

店舗規模としては、店頭化店の多くは個人営業店が多かった。しかし、珍しい例では『九州菊』の場合、地下鉄姪浜駅に近い大型ディスカウンターで店頭化されていたもの。欲しがる客が居るのだろうか?・・・うれしい話である(T_T)。

3)今も遺る「盆焼酎」の風習。


「盆焼酎」の話は、東は福岡市室見の『萬代』店頭化店から、西は志摩町でも聞かれた。佐賀県での話なども踏まえれば、北部九州については農村地帯の全域でその風習が行われていたという感じだ。

しかしその風習は廃れることなく、福岡県西部では未だに現存していたのである。近隣の高齢者が懐かしがって購入するらしく、この時期だけ店頭化しているという店もあった。

それを考えると、本探偵団のスタートが7月下旬であったのは、まさにご先祖様のお導きか?(爆)。極めていいタイミングで活動開始したと改めて実感した。なぜなら、盆焼酎の時期が終われば、店頭から下げられる可能性が高いからである。言い換えるなら、粕取焼酎を集めるなら7月下旬から8月一杯あたりが狙い目ということであらふ。

◇   ◇   ◇

■福岡県西部における粕取焼酎の問題点

歴史と伝統と習俗に根差していること、そこに本格焼酎の魅力の一端がある。しかし、現状の粕取焼酎において、これはある意味「諸刃の剣」だと言えよう。

これは福岡県西部に限らないが、「盆焼酎」需要が今だ遺っていることで店頭化される粕取焼酎は、その習俗を継承する高齢者たちが鬼籍に入れば、粕取自身も同時に彼岸へと旅立つことになる。時の経過の中で、そのままに近い形で飲まれる致酔飲料としては、その終焉を迎えることは確実ではないかと思った。

後は梅酒用としての需要もあるが、それも周知徹底を図って新しい利用者を増やさねば、ごく狭小な地域内での伝統という形で終わり、粕取焼酎生産の縮小は免れ得ないだろう。ま、実際に飲んでいただくと、粕取梅酒の美味さを解っていただけるのだが・・・。

最後は、この地球上で粕取焼酎を飲むのは奈良漬けだけ、ぬぅあんて事になりかねないのぉ~。うむ。

◇   ◇   ◇

ここで福岡県西部での正調粕取焼酎のシェアを試算してみる。まず同エリアの酒小売店数だが、下記の通り。早良区については全域を探索していないので、1/4で計算した(平成11年版「福岡県の商業」より)。

総数122店として、確認した店頭化店を2倍に多めに見積もることとして、(8店×2/122店)という計算になる。糸島地区の場合は(1店×2/50店)。それでも、

対象エリア全体での、正調粕取焼酎のシェアは13%。
糸島地区のみで見ると、同じく4%!

筑前粕取焼酎の伝統は、まさに風前の灯火であらふか。



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