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諸見浩二のコラム(6)

(2002年9月 掲載誌失念)

博多料飲焼酎戦線、異状あり

諸見 浩二

 博多の料飲店における焼酎受容の実態をレポートせよ!との密命を受けた。小生、薄給の身であるが故に、高級な料亭や寿司屋といったゴージャスな世界はとんとご縁が無い。しかし身近な大衆的飲み屋ならお任せあれと筆を執らせていただいた。

 元来清酒文化圏である福岡県だが、この20年、緩やかではあったが根底から流れが変わって来た。特にこの2年間は急激に、である。とある焼鳥屋の大将曰く「ほんと清酒が出らんことなったばい。最近はもう焼酎ばっかりやね」。今まさに博多は芋焼酎全盛だ。

 小生の実体験とヒアリングでは、北九州地区で約20年前、福岡市では15年ほど前から料飲店に芋焼酎が浸透し始めたようである。さて、その芋焼酎の尖兵とは?

 これまで料飲店の品書きに記されていた“焼酎:麦・米・芋・ソバ”という素っ気ない表示。そのレギュラー銘柄には、『いいちこ』『二階堂』『白岳しろ』『霧島』『白波』『雲海』などのメジャーが、しっかりと定番を占めてきた。

 中でも、この20年来福岡県での地道な市場開拓を行っていた『霧島』は、“鬼の営業”と謳われる拡販精神で、料飲店に対するど根性訪問と物量サービス作戦を展開。競合他社を圧倒し、博多や北九州市におけるレギュラー芋焼酎としての地位を確立している。

“犬も歩けば『霧島』のネオンに当たる”

 料飲店の電飾行燈には、それほど「くつろぎの霧島」ロゴマークが灯っているのだ。

 ところが、その店頭寡占状態に変化が襲ってきた。特にこの2年間で料飲店の品書きが大きな変動を見せたのだ。つまり『森伊蔵』を価格的ヒエラルキーの頂点とした“プレミアムこだわり焼酎ブーム”の波が料飲店に押し寄せてきたのである。

 別冊メニューに「地焼酎」なる一枚が加わり、鹿児島芋焼酎を中心としたこだわり銘柄がドン!と増殖を始め、今もその勢いを増している。ここで最近2年間での博多料飲戦線における焼酎店頭化の目立った傾向を概観してみよう。

①品揃え勝負の焼鳥屋・居酒屋

 まだまだ『霧島』一筋!という店も多いが、差別化に熱心な個店や小さな焼鳥チェーンはこだわり銘柄の品数を一気に増加させた。主力部隊は芋焼酎で、旗艦に『森伊蔵』『魔王』『村尾』などを据え、円陣形に『佐藤黒』『富乃宝山』などの人気ブランドを配し、ファンの注意を引く高付加価値戦術を展開。艦隊の陣容は現在も拡大している。

 値段はレギュラー銘柄がお湯割りで300〜350円なら、円陣クラスで500円台、旗艦で700円〜1000円といったラインが主。
 飲ませ方は、お湯割りならポットのお湯にメーカー提供の販促コップという、大衆料飲の王道を行く組み合わせが一般的である。

②一気に増加した焼酎バー

 昨年から今年にかけて地元メディアを賑わしたのが、焼酎バーの台頭。特に若者が多く集まる大名周辺に立地している。

 東京のブームにダイレクトに反応する福岡ではあるが、品揃えは往々にして大手雑誌メディアに載ったアレコレの銘柄がズラリと並ぶ感じ。客層は若いカップルやグループが顕著。地元タウン誌などに紹介されるのもこの手の店が多い。

③PBで特化の大手チェーン居酒屋

 九州の広域でチェーン展開している居酒屋では、こだわり系銘柄の店頭化と並んで、大手商社が絡んだ高付加価値PB商品の導入が盛んだった。

 しかし現在では一時の勢いはないようだ。ブームに乗った新銘柄の乱立は、その価格設定の高さも相まって、あまり博多の消費者にアピールしなかったのではないかと思う。

 『霧島』などを5合の茶瓶でキープする場合、1500円〜2000円という値段が一般的だが、付加価値が売り物のPB商品だと2500円〜3000円というプライス設定。この1000円の差は薄給の身には、実にデカイのだ。

④『新・角打ち』=立ち飲み屋の新潮流

 酒屋内の一角にあるカウンターに陣取り、立ったまま酒を飲み、乾物や冷や奴をつまむ。大衆料飲の原風景ともいうべき『角打ち(立ち飲み)』は、博多の中心部ではほとんど姿を消していた。

 しかしながら、デフレ時代だからこそか、博多で3年ほど前に流行ったのが、焼酎(小生の行きつけの店では『日向木挽き』)が1ショット100円で飲めた「百圓酒家」。そのブームが一段落したと思いきや、最近中洲で新趣向の『角打ち』が登場して新聞ネタになった。小綺麗な設えの店構えで焼酎が一杯250円程度。九州一の最高値歓楽街・中洲では激安の、価格設定が注目の的であった。

 まとめるなら、芋焼酎を主力とした焼酎全体が攻勢を強める中で、日常酒か趣味酒かの二極分化が進行している状況と見た。

⑤福岡焼酎勢の戦況やいかに?

 さて。芋焼酎軍団の怒濤の侵出を迎え撃つ地場の福岡焼酎勢。しかし、正直なところ戦況は厳しい。もろみ取りの麦が大勢を占める福岡勢だが、イメージの希薄さ故か、販促軍事力の差か、味が良くてもなぜか店頭化している橋頭堡そのものがけっして多くはない。やはり地元銘柄故に、地元ユーザー自身が灯台もと暗しなのだと、小生も深く反省しているところ。

 最後に。福岡の焼酎と言えば、当九州焼酎探検隊がひとり孤独な悪あがきを展開している分野がある。それは清酒圏の北部九州ならではの籾殻を使った正調「粕取焼酎」で、現在その記録づくりをサイト上で行っている。

 「粕取焼酎」は近世以来の歴史を誇る。しかし蔵元自体の廃業や売上不振による終売などで、多くの銘柄が消滅している、まさに“真の幻の焼酎”と申し上げて過言ではない存在だ。ぜひとも多くの皆さんに再認識していただきたい地焼酎である。

(了)


■2022年追記:この一文をどこで載せていただいたのか、掲載誌が何か忘れてしまった。他でも書かせていただいたが、原稿が消えている。

いま読んでみて解るが、書いたのがまだ『黒霧島』のローンチ以前だ。この後、福岡は黒キリ一色になる。

「霧島』などを5合の茶瓶でキープする場合、1500円〜2000円という値段が一般的」と書いてて、いまは福岡の焼鳥屋さんで2500円くらいでしょうかね。あの頃は安かったと改めて思った。最近は料飲店の価格がさらに上がってるし、焼酎自体の値上げも間近でしょうね。平成は遠くなりにけり、でしょか。

それと福岡県は、地元の酒をあまり飲まない県民性、というか地域特性があるところでして。私はふだん家で飲んでる焼酎が”青”なもんで、偉そうなことは言えませんがね。


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