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国分酒造 焼酎イノベーションの系譜(11)-そしてこれからへ

2022年、安田宣久は杜氏就任から30年の節目を迎える。

これまで飽くなき挑戦を続けてきた笹山&安田コンビにとって
これからの蔵の展望は?

さらにかつての大ブームも久しい記憶となった
本格焼酎業界の行く末は?

製造サイドの笹山、安田のふたりに、
販売サイドの小林が
それぞれの立場から今後を見つめてみた。

「国分酒造株式会社のこれから」 笹山 護

父は生前、「国分酒造を創設するのに命を10年縮めた」と話していましたが、その言葉通りに67歳で他界しました。組合を再建するのに、大変な苦労だったと思います。

父が他界して間もなく第3次焼酎ブームがやってきました。課税移出、未納税移出ともに大きく伸び、会社の体力も増え、組合創設時の4億数千万円の借り入れも全て返済し、経営も順調でした。

焼酎ブームが収束した後、課税移出は次第に減少傾向になりましたが、よりダメージとなったのが未納税移出の大幅な減少でした。更には相次いで脱退した組合員に対する出資持分の支払いなども発生し、会社の体力が次第に下がっていったのです。

最近になって、おかげさまで『安田』『フラミンゴオレンジ』『クールミントグリーン』が順調に売り上げを伸ばし、国分酒造の先行きにようやく光明が差してきました。

安田杜氏には体力の許す範囲でもうしばらく頑張ってもらい、今後は、安田が造り上げた技をしっかりと継承した上で、少しでもレベルアップしてゆくことが、これからの国分酒造にとって最も大切なことと思っています。

そして会社の体力を戻し、経営基盤をしっかりさせてから、子供たちの代に引き継ぐことができればと思います。

「国分酒造株式会社のこれから」 安田 宣久

焼酎は蒸発する成分だけを舌で味わう蒸留酒だ。

揮発する成分はたくさんある。良い匂いも悪い臭いもある。しかもその匂いが良い味でもなければならない。

常圧酒は極まった感がある芋焼酎は、減圧酒の世界がほとんど手つかずの状態で残っているように思えてきた。白ワインの世界と芋焼酎の世界がMTA(モノテルペンアルコール)でつながっているとは考えもしないことだった。

貯蔵芋の香りと、減圧酒の香りの新世界が見える。

これからも国分酒造独自の方法で、ここから先に押し開いていって欲しい。

後続に期待する。

「国分酒造株式会社のこれから」 小林 昭二

フレンチは香辛料を求めた侵略の歴史によって華開いた料理だと思います。
和食といえば、それまであった山葵や塩に加え、信長の時代に南蛮貿易によって香辛料がもたらされ、砂糖そして醤油と言う魔法の調味料が生まれて一気に華開いたもの。

明治維新後といえば、油(バター等)と醤油の抜群な相性より、それまで獣肉に親しみの無い日本人が「すきやき」と言う和のオリジナルも生みました。

和包丁使いの妙もまたしかり。生魚を綺麗に食べやすく素早く切り、大根の桂むきや木の芽等で盛り付けした工夫の積み重ねが、いま皆さんが目にする「造り」です。

このように和食も進化の歴史を経て来ましたが、やはり鰹と昆布だし、醤油、みりん、塩、味噌、酢と言う基礎調味料の使い方を知らずしては成り立たず、「基本を押さえずして創作は生まれない」のです。そして再現性を追求し、味にさらに創意工夫をする「塩梅」が重要なのです。

かつて当店のリーフレット「粋酔」に私のコメントを「好きな道」と題して発信しておりました。好きでなければ、発見もなく疑問さえ生まれず、継続はないと思います。

数年前、笹山さんがサイトにアップした蔵の芋切り作業の画像がありました。それはサウスポーの為に隣り合わせで作業すると危険なため、独り離れて芋切りをする安田杜氏の姿でした。この写真を見た時「何か」を感じたのです。

それは何かというと、芋切り作業から原料に対する目配せをし、発見をしようとする姿勢ではないか。発酵や蒸留方法といった工程はそう複雑では無いが、原料と酵母との相性を見極める眼力は、地道な作業の中から鍛えられると。

これからも新しい焼酎が生まれては来るのでしょう。しかし、基本を押さえた創造を重ねずして、進化は為されない。これから国分酒造さんがどんな展開を見せるか想像は難しいのですが、蒸留酒は香りが命と言う根幹は変わらないわけで、やっぱり「基本が大事」だと国分酒造さんの進化を見ていてそう思うんです。


「本格焼酎業界のこれから」 笹山 護

第3次焼酎ブーム以前は、都会では”芋焼酎=臭い”というレッテルが貼られていて、県外出荷数量も非常に少なく、ほとんどが地元消費でした。

我々蔵元は、都会の方々に本格焼酎を飲んでもらうために、臭みのない飲みやすい焼酎造りに取り組みました。

すると、焼酎ブームと相まって、本格焼酎が全国に知れ渡るようになり、それまでは低く見られていた本格焼酎が、日本酒などと同じ土俵で競い合うことができるようになりました。

一方、ブームが収束すると焼酎から離れていく人も多くなり、いまだに本格焼酎業界全体で減少傾向が続いています。

そんな中で最近は、麹や酵母、その他いろんな研究が進み、また30代、40代の若手の蔵元も増え、多種多様な新しい焼酎造りに、多くの蔵元が取り組むようになってきました。

若手が増えることで、業界の活気が甦ってきたように感じます。各蔵元が、飲みやすいだけでなく、特徴のある焼酎造りを意識するようになったのでしょう。

これから本格焼酎業界が発展してゆくためには、価格競争などで本格焼酎愛飲者内のパイを奪い合うのではなく、これまであまり焼酎を飲まなかった方たちの層を、いかに取り込んで焼酎ファンになってもらえるかが、最も大切なことです。そのためには、特徴のある焼酎造りは欠かせないと思います。

それと、国内の人口減少傾向を考えると、海外進出というのはもちろん大事だと思います。ただ我々のような中小の蔵元は、大手と同じように海外進出しても、予算的な面からも厳しいと思います。

自ら積極的に海外へ出ていかなくても、国内でしっかりと取り組めば、海外への道も開かれていくのではないかと感じています。

「本格焼酎業界のこれから」 安田 宣久

酒税の考え方は、同じ税率ならば、皆同等の品質が求められるので、鑑評会等によって各メーカーの技術水準が均質化してくる。それによって、差別化・個性化が難しくなっている現実がある。

すると、技術力・資本力のある大手メーカーには、コスト面で小さい蔵は太刀打ちできなくなるのは、当然のことだ。

当社のような小さなメーカーが生き残るためには、焼酎の均質化とは逆方向に、差別化できる商品を開発しなければならない。

品質の向上はもちろん、各メーカーがその立地と風土を生かした、個性ある唯一無二の新しい焼酎を目指して欲しい。

鑑評会の評価から外れることを恐れてはならない。

「本格焼酎業界のこれから」 小林 昭二

先日、ある飲食店の女将さんが店に見え、「今回のコロナ騒動で、私達はどれほどお酒に支えて貰っていたのかと、つくづく思いました。有難い事です。本当に感謝しなくてはいけませんね」と、涙をためて語ってらした。

この言葉を全国の蔵元に聞かせてあげたかった。

飲食店が機能しない今、”出荷即完売”の続く国分酒造の焼酎を扱う人間として断言できるのは、香り焼酎によって第4次焼酎ブームへの扉は開け放たれたのだと。

今度は各社から「香り系焼酎」が誕生するでしょう。しかし、このスライドをご覧いただいた方はご理解いただけたかと思いますが、それは単に芋の品種と酵母や減圧蒸留にして生まれた焼酎ではないんです。この国分酒造が磨き上げた焼酎がけん引し温めてこそ、扉の向こうに新しい道ができる。

美味しい本格焼酎の魅力を体験して長く愛飲していただく為には、蔵・酒屋・飲食店と言う3者のチームプレーが必要で、特に蔵の努力を台無しにしないためにも、飲食店さんの提供の仕方が重要になります。

それを我々酒屋がしっかりとグリップして行かねばなりません。焼酎と言うハードだけなく提供の仕方、蔵の努力、背景と言うソフトも伝える所が我々酒屋の勤めと感じております。


国分酒造の創立から36年目となる2022年に、
就任から30年の節目を迎える安田宣久杜氏へ、本編を捧げます。


一部画像は「めぐりジャパン」さんの記事より承諾を得て転載させていただいております。


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