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円相場、波乱要因が山積

円相場、波乱要因が山積


円相場の流れがつかみづらくなっている

 昨年末にかけて米国の早期利下げ観測から円高・ドル安が一気に進んだが、年明け以降は一転して円売り・ドル買いが優勢になるなど、売り買いが交錯する状態が続いている。円買い材料と円売り材料混在していることが原因だ。

円相場を形成する要因

日米の金利差と需給差
 日本よりも米国の金利の方が高い現状では、日米間の金利差が広がれば    円安方向に、縮めば円高方向に動きやすくなる。
 一方、需給差は国境をまたぐ貿易やサービスの収支が影響しやすい。
 日本が黒字になれば円高方向に、赤字になれば円安方向に動きやすいと考えられる。

具体的には

 日米の金利差をみると、歴史的な円安後の3か月間は緩やかに縮んでいく傾向にある。背景にあるのは、米連邦準備理事会(FRB)が年内の早い時期に政策金利を引き下げるという見方だ。一方で日銀がマイナス金利政策を早期に解除するという観測も根強く、昨年末までは日米金利差縮小観測に伴う円高傾向が続いてきた。
 だがその後、FRB のパウエル議長が政策金利について話し合う1月31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、早期の米利下げに慎重な考えを表明。金利差の縮小が一服したことに伴い、円高圧力も弱まった。

もう一つの需給差は、円安材料として働きやすい状況が続いている。財務省が2月8日に発表した2023年の国際収支状況によると、日本と海外の間のモノやサービスのやり取りを示す貿易・サービス収支は9兆8000億円余りの赤字だった。資源高の一服で輸入額が減少し、赤字幅は前年に比べて大幅に縮小したが、円安材料になりやすい構造自体は変わっていない。

 サービス分野では、訪日外国人客の回復で旅行収支の黒字が増えたが、宿泊・旅行業の人出不足が深刻で一段の黒字拡大には限界が見える。
 一方で、米巨大IT(情報技術)企業によるサービス提供で増えたデジタル関連の赤字はさらに膨らむ可能性が高い。
 今後も貿易・サービス収支は年間5兆円規模の赤字基調が続きやすいと予想する。

知っておきたい円相場の基本的な要因

  • 金利差が拡大すると → 米ドルで運用したい人が増え円安に

  • 金利差が縮小すると → 円で運用したい人が増え円高に

  • 輸入超過・貿易赤字なら → 支払い外貨の需要が増え円安に

  • 輸出超過・貿易黒字なら → 外貨を円にする需要が増え円高に

「金利差要因に基づく円高」・「需給差要因に基づく円安」の混在。そして山積する新たな不透明要因。

  1. 今年から大幅に刷新された少額投資非課税制度(NISA)の影響

 新NISAで人気を集める外国株式に投資する投資信託への資金流入額が新たな円売り需要を生む。その額は年間10兆円とも言われている。昨年の貿易サービス収支の赤字幅に匹敵する規模だ。

2.米地方銀行の経営不安

 商業用不動産市況の悪化による業績の悪化は、米景気減速が見込まれるなかで、金融市場に少なからぬ動揺を与える可能性がある。
 米地銀の貸し出しが落ち込めば、米経済にとって逆風。状況次第では、FRBが早期利下げに踏み出すきっかけにあり得る。

3.中国経済の停滞で訪日客の減少

 中国経済の停滞が長引けば、訪日客が伸び悩み、日本での消費に使う円買いも強まらない可能性がある。半面、中国から日本への資産移転が円買いを招くことも考え得る。

4.トランプ氏が米大統領選で勝利

 「もしトラ(もしもトランプ氏が米大統領選で勝ったら)」シナリオが現実になれば、対日貿易赤字への批判が強まり、円買い要因である日本の輸出に悪影響を及ぼすという連想が働きかねない。

5.ウクライナ・中東情勢の悪化

 ウクライナ情勢や中東情勢がさらに深刻になれば、「有事のドル買い」が強まるかもしれない。

結論


 新NISAスタートとともに、個人の外貨資産投資への関心はいつになく高まっている。だが、最も円高が進んだ局面で将来の円安進行を予想して投資するのは至難のわざ。突然の不透明要因の顕在化で為替差損を被るリスクも小さくない。

 新NISA制度設計を生かし、円高時も円安時も一定額を毎月こつこつと積み上げていくことが、方向感をつかみづらい不透明な相場環境を乗り切る一つの解となる。
 やはり個人の資産運用は、長期・分散・積み立ての王道が有用な方法といえる。






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