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【2020 J1 第16節】横浜F・マリノスvsセレッソ大阪 マッチレビュー

1.はじめに

 前節驚きの3バック布陣を敷いたマリノス。相手が非保持で4-4-2になることは共通。そして、小池やティーラトンにも体験して欲しいはず。それが理由かはわかりませんが、この日も3バックで臨みました。

 今の自分たちが、日本一固いゾーンディフェンスに対してどれだけやれるか。この試合が1つの試金石になるでしょう。では、いってみましょうか。

2.スタメン

スタメン

■横浜F・マリノス

3-4-2-1の布陣
・前節負傷した實藤の代わりに槙人が入る
・シャドーにエリキとマルコスを起用

■セレッソ大阪

4-4-2の布陣
・丸橋と藤田がお休み
・代わりに片山と、負傷明けのデサバトが先発

3.敵陣に押し込むマリノス

 この試合、多くの時間を敵陣で過ごしたマリノス。それは、ビルドアップの改善と、前節で学んだハイプレスがあったからでしょう。

■スムーズなマリノスのビルドアップ

 この日のマリノスは相手に引っ掛かることなく、スムーズに前進できていました。そのビルドアップを見てみましょう。

WB回避

・外へ展開して相手ブロックの外側を取る
・相手中盤のブロック内で受けることを多くする

 相手ブロックの外側にいるウイングバックへパス。こうするとセレッソは中盤の選手を下げて対応してきます。最初にかわしたサイドハーフとの距離が開いているので、ブロックが縦に広がる。そこにボランチが侵入することで、2トップの背後を取れます。このスペースを活用し、自由にボールを回すことができました。

 しかし、セレッソは後方に人数をかけた守り方をしていたので、マリノスは崩すことに苦戦してしまいます。というのも、マリノスはビルドアップに、3バック+Wボランチの5人を割く。対するセレッソは、多くて2トップ+サイドハーフ片方で3人。ここで数的優位に立てるのはいいのですが、そうすると奥が数的不利になります。

 相手をかわして素早く展開しても、こちらの前線は多くて3トップ+両ウイングバックの5人。セレッソは少なくとも4バック+Wボランチの6人。これだと中々攻略できないですよね。ビルドアップがスムーズにいくのはいいのですが、人数をかけすぎるリスクもあることは、覚えておく必要がありそうです。

■この日も積極的なハイプレスを敢行

マリノスハイプレス

【POINT】
相手サイドバックに対してウイングバックが出ていく

 前節名古屋戦でも取り上げましたが、この日もウイングバックのプレスは積極的でした。猛然とプレスに出る3トップ。その背後を伺う相手サイドバックに対し、時間を与えない守備がある程度できていました。

 ただ、後方から出ていくので、多少距離があります。飛び出す判断を早くしなければいけないですし、スタミナ消耗も激しくなります。うまくいかないときは相手サイドバックに時間を作らせてしまうことも。

 この試合では、サイドバックの人選が変わっても同じことができました。これは4バックに戻しても、ボスは同じ基準を求めてるはず。その心構えと、やり方はこの2試合で学べましたよね。これをどう活かすか、今後に期待しています。

4.ある程度サイドを攻められるけど...

■セレッソ右サイドが抱える問題

セレッソ前半右サイド

【POINT】
大外にいるウイングバックへの対処をサイドバックが行っている

 左サイドの清武は、小池を背中で消しながら槙人へ寄せていました。しかし、反対の坂元は内側での守備を優先。下りてきたマルコスを見たり、畠中へまっすぐ詰めることをしていました。

 そうすると空くのは、外側にいるティーラトン。そこへパスが出たとき、松田陸が前に出て対応。後方が空くので、ボランチが下がって埋める。このようなスライドが起こっていました。

 しかし、センターバックを引き出せていないので、相手に致命的なズレを作れていません。マルコスがハーフスペースに飛び出すより、相手ボランチが埋める方が早かったということ。これを上回る速度の攻撃ができなかったことが、今後の課題だと思います。

 ロティーナ監督の試合後コメントにて「我々の右サイドに問題があった」と言っていました。恐らくこれが言及しているものの1つでしょう。後述しますが、坂元の位置が低かったこともまずかったのかもしれない。この2つが原因で、サイドを押し込まれてしまったことが問題だったのでしょう。

■中は固いセレッソ

 上述した通り、サイドからある程度攻めることができていたマリノス。セレッソとしては、外側はある程度やられても構わない。代わりに俺らは中を埋めるぞ。そんな対応をしていました。

 クロスを上げてもいいけど、中には準備できてる強い人がいるから、そんなに怖くない。ジンヒョン、瀬古、ヨニッチが前を向いて待ち構える。ここに上げたクロスはことごとく弾かれてしまいます。

セレッソクロス対応

【POINT】
最終ラインは揃ってるので、中央は人数がいて固い

 ボールを基準に中盤を下げている理由は、最後方の人数確保のためでしょう。2トップ背後である程度やられても構わない。その代わり、ペナルティエリア内には入れない。といった、強い意思を感じます。

 実際、縦に早く仕掛けてカウンター気味になっても、必ずセレッソ4バックはマリノスの前に立ちはだかってきました。少しでももたつくと、ボランチも戻ってきます。この状態でクロスを上げても弾かれてしまいますよね。

■固い相手への有効打

固い相手への打開策

・アーリークロスで後ろ向きの対応を強要する
・前に引き出すためにミドルシュートを撃つ

 しかし、マリノスも何もしなかったわけではありません。相手の人数が揃っているのなら、難しい対応を強いることで人数不足を補います。

 1つはアーリークロス。相手守備陣が前を向けないよう、浅い位置からクロスを差し込みます。こうすることで後ろ向きの対応を強要。こちらは前を向いてるので対応しやすい。開始間もないビッグチャンスはこれでしたよね。

 もう1つチャレンジしていたのがミドルシュート。引っ込むのなら、エリア外からドカンと1発おみまいしてやりましょう。エリキがバーに当てたり、皓太も惜しいシュートを放っていました。相手を引きずり出すまでは至らなかったですが、必要な挑戦だと思います。

■相手の強みからうまく逃げた得点

マリノス先制点

・高い選手がいないファーサイドへのクロス
・インスイングのクロスで、ジンヒョンとヨニッチを回避

 マリノスの先制点は、相手の強みからうまく逃げたものでした。

 皓太の上げたクロスは、松田陸の頭上を越えてマルコスへ。サイド深くを取ったことで、相手の目線を大きく動かします。その後、エリキへのピンポイントクロスでズドン!

 このクロス、インスイングなのがポイントです。アウトスイングだと、ジンヒョンかヨニッチを越える必要が生まれます。しかし、内側へ曲がるのなら、ゴールから遠いところを迂回できます。これでクロス対応の要人たちを回避。エリキが押し込むだけの状況を作れました。

 クロスの曲がり方については、札幌サポーターのアジアンベコムさんが詳しく書いているので、そちらをご参照ください。

5.左右で対照的なサイドハーフのカラー

セレッソサイドハーフ

・清武が1つ下りてビルドアップをサポートする
・坂元はハイラインサイド裏を狙う

 セレッソは後半になり、サイドハーフの立ち位置をハッキリと変えてきました。

 左サイドは清武が下りてビルドアップをサポート。代わりに片山が上がるようになります。これは前半飲水タイム後から狙っていましたが、ハーフタイムで整理し、役割を明確化させたようです。

 右サイドは坂元が前線へ張るようになります。足の速さを活かし、マリノスの泣き所であるサイドの裏を狙います。ここへは、主に瀬古から対角のボールが多く供給されていました。槙人が退場したことで、前線の人数が減り、こちらのハイプレスが弱まるとこの頻度が増加。人数不足がそのまま不利に直結するのは、日本サッカーだと珍しいかもしれません。ここからも、セレッソがソリッドなチームだということがわかります。

 先発が片山だったので、このやり方は納得がいきます。彼の持ち味はスピードを活かしたサイドの上下動ですからね。これが丸橋なら精度の高いキックを持っているので、清武を下げる頻度は減ったかもしれません。また、坂元はスピードとドリブルに持ち味のある選手。サイドでアイソレーションさせると、マリノス相手には効果抜群でしょう。この日もドリブルは絶好調。勝ち越し点を奪うときは、ティーラトンを華麗にかわしてましたよね。こういった、選手の特徴に合わせたマネジメントもセレッソはうまいと感じました。

6.ボランチを1人残すことの意味

 皓太の試合後コメントに「2人とも流れすぎず一人は必ず真ん中にいること」とありました。この言葉の意味を探っていきます。

■守備への切り替え時における中央の安全担保

ネガトラボランチ

【POINT】
守備への切り替え時にセカンドボールを拾いやすくなる

 片方のボランチが上がっていても、もう片方のボランチが中央に残っている場合、相手のクリアを拾いやすくなる利点があります。相手フォワードがいても競り合えるので、簡単にボールを渡すことはありません。この絶妙な立ち位置も、相手陣地内に押し込めた要因の1つでしょう。気の利いたいいプレーだったと思います。

■二人ともいなくなってしまうと...

カードシーン

【POINT】
中央を塞げないので、逆サイドへ展開されやすくなる

 しかし、二人とも中央からいなくなるとどうなるか。中央で守備する人がいないため、逆サイドへ展開されやすくなります。

 この場合、都倉が下りて中継点に。清武へ素早く展開したことで、小池が片山との1対2に晒されてしまう。片山の抜け出しが気になり、強く清武へ寄せられない小池。抜け出した片山へボールが渡り、後手になった槙人が倒して一発退場。

 もし中央にどちらかいれば、都倉を阻害して逆への展開を遅らせることができたかもしれません。それなら小池は戻りきれるし、槙人も安全な対応ができたはず。

 前で奪えると判断したのか。疲れから思考が曖昧になったのか。大きな過ちはこの1回だけだと思います。人間誰しもがミスしますよね?さすがにこの1回だけで彼らを攻めることはできません。むしろ、少ないチャンスを活かしたセレッソを誉めるべきでしょう。

7.スタッツ

画像1

■sofascore

■SPAIA

■トラッキングデータ

8.おわりに

 負けてはしまいましたが、できることはやったという印象です。特に、アーリークロスやミドルシュートを織り交ぜていた前半はチャンスを多く作り出せていました。そこで試合を決めたかった…

 しかし、押し込んではいるものの、セレッソを崩せた回数はそう多くなかったようにも思います。相手守備が整う前に攻撃すること。なるべく前を向いて守備させないこと。このあたりをもっと詰めていき、固い相手も崩せるようになりたいですね。

 ボスがこの布陣にしたのは、ベースポジションにいるだけで相手ブロック間に立てること。また前節に引き続き、サイドバックのハイプレス矯正をしたかったからだと思います。またもや勝ちに行って勉強の場としましたが、結果はご覧の通り…うまくいかなかったですが、世の中そんなもんです。学びは十分得ることができました。次は恐らく元に戻すでしょう。そこで何を見せてくれるのか。成果が今から楽しみです。

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