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【2020 J1 第28節】FC東京vs横浜F・マリノス マッチレビュー

1.はじめに

 前節、名古屋相手に勝利をおさめたマリノス。今までとは違うサッカーを展開し、勝利に結びつけた自信を持って味スタへ乗り込みます。前回のテーマが『遅攻』なら、今回のテーマは『速攻』。FC東京も縦への速さに定評があります。どちらが素早い攻撃をするか、スピードがモノを言う刺し合いをしようではありませんか。

2.スタメン

スタメン

■FC東京

・4-4-2の布陣
・中5日である程度休養がある状態
・負傷していた渡辺が先発に復帰

■横浜F・マリノス

・4-2-1-3の布陣
・前節と7人を入れ替え
・獲得した高丘が早速のベンチ入り

3.縦へのスピードが与える影響

 さて、今節の先発は縦に早いサッカーを目指すメンバーです。今回も中途半端に遅攻向きの選手を入れなかったことで、スピードに振り切ったサッカーがやりやすかったと思います。

 前回の名古屋戦で書きましたが、ポイントは攻守における密度の差。前回が密なら、今回は疎です。それを念頭に入れつつ、攻守の状況を見ていきましょう。

■速攻向きなのに幅を取る両翼

前後分断攻撃

・縦への速攻なので、攻撃は主にマルコス+3トップでどうにかする
・両翼が外に張っているので、個の突破で何とかしなければいけない

 スタメンがエリキと大然だったので、外に張るのではなく、内側に絞ってシャドー的に振舞うと予想していました。しかし、蓋を開けてみると外に張るウイングとして立ち位置を取っているではありませんか。

 前述しましたが、このメンバーだと縦への速攻が中心になります。なので、攻撃は前線の4人でなんとかしなければいけません。しかし、3トップが幅を取っているので、連携しての崩しが難しい状態。そうすると、個の突破に頼るしか術がなくなります。ここの成否がそのまま攻撃の威力に直結するでしょう。

 この試合のFC東京は休養十分だったこともあり、中々突破することができませんでした。マルコスとサントスがサイドに寄っても、いけてペナルティエリア脇まで。シュートが少なかったのは、これが主な理由だと思います。

■カウンター予防になる前後分断

前後分断のカウンター予防

【POINT】
前後分断して攻撃すると、被カウンター時に守備選手が多くなる

 前後分断しての攻撃は、守備にも影響します。後ろが上がりきる前に仕掛けるので、失敗しても後ろには十分な人がいることに。相手に奪われた瞬間カウンターを刺されそうな場面がありましたが、4バックやボランチが残っているので大きな脅威になりませんでした。

 また、縦への速さを意識するので、パスの選択肢も最前線が優先度高くなります。パギが前にボール蹴る頻度は名古屋戦よりちょっとだけ高かったでしょう。それが失敗しても、ディフェンスラインが深いため、背後を狙った速攻ができない状態。

 縦へ早いサッカーは攻撃面では手薄になりますが、守備面では安全性が高くなります。このメリットデメリットがハマっていたように感じました。

 ウイングを外に配置したこともカウンター予防になっていたでしょう。いつものようにシャドー的に振舞うと、ボールが入るのは中央になります。しかし、外に張っているので、パスの流れは外側に。万が一ボールをロストしたとき、中央とサイド、どちらがクリティカルでしょう。当然中央ですよね。エリキや大然を外に張らせてたのは、そういう考えがあったかもしれません。

4.速攻予防を強く意識した守備

マリノス守備

・サイドバックをあまり前に出さないようにする
・ウイングは相手サイドバックを強く意識
・無闇にキーパーまでプレスすることはほとんどない

 この試合、マリノスはいつもとプレスのやり方を変えていました。ウイングに相手サイドバックを強く意識させることで、サイドバックを前に出さないようにする。これで後ろに人数を確保。

 また、サントスやマルコスも無闇にキーパーまで出ていくことはほとんどありませんでした。何がなんでも前で奪いきるというより、後方に人数を確保してカウンター予防することを優先。

 縦に早いサッカーは、攻守の切り替わり時に『疎』な状態になることが多いです。この後ろ寄りな守備も合わさったことで、敵陣での即時奪回があまり見られなくなりました。前半は守備でリスクを冒さず、安定性を高めた試合運びがしたかったのでしょう。この試みは概ね成功していたように思います。

5.自陣への誘因に切り替えた東京

東京守備

・センターサークル付近に4-2-4のブロックを形成して待ち構える
・中央封鎖を強く意識し、外回しにする

 マリノスは東京のハイプレスに屈せず、あまり自陣でボールを失いませんでした。しかも、この試合は前に蹴り出す割り切りも持っている。なので、東京の選手たちが一生懸命前に出ても、かわされて戻る頻度が多くなることに。前述の通りカウンターも決まりにくくなるため、飲水タイム後から守り方を変えてきました。

 センターサークル付近に両サイドハーフを前に出した4-2-4のような形を形成。中央封鎖を強く意識し、外回しを強制します。ハイプレスをやめたのは、自陣に相手を引き込むため。そうすることでラインが上がり、背後を取りやすくなります

 この対応により、マリノスのボール保持時間が延びると共に、選手も高い位置に出だします。それまではあまり上がる機会のなかったサイドバックが、徐々に攻撃へ絡んでいく。ただ、そうすると守備面で不安になることに…

カウンター

 25:24にあった三田の決定機。カウンターの直前、両サイドバックが高い位置を取っていたので、後方が手薄に。安部がサイドに出したとき、永井に対応できるのは槙人1人。快足フォワードとの駆けっこが始まります。こうなるとマリノスの選手たちはスクランブル的に中央を埋めることに。そのためファーにいた三田がフリーになる。東京が自陣へ誘引するようになった効果がピッチ上に表れた場面でした。

 ちなみに、50:10にあった永井の決定機も両サイドバックが高い位置にいた状態でした。これも槙人との駆けっこでしたね。

6.スタッツ

マッチレポート - J1レポート note用-1

■sofascore

■SPAIA

■トラッキングデータ

7.おわりに

 前半のやり方は、失点をしないサッカーでした。たまたま点が取れたら儲けものといった感じでしょう。東京が前半に強度の高いハイプレスをしていたので、後半も開始10分は仕掛けてくるはず。なので、それを凌いだ後が勝負だと思っていました。

 東京は同点のまま、またはビハインドになった場合、アダイウトンなどを投入してオープンな展開にする傾向があります。エリキや大然はウイングで攻撃力を発揮しないので、このオープンになったタイミングで内側に変更。リスクを負った勝負を仕掛けてそれを制す。このようなゲームプランだったのではないでしょうか。

 しかし、耐え忍ぶ時間にまさかの2得点。東京としてはオープンな展開にするしかないので、アダイウトン、原、内田を投入。こうなるとマリノスの土俵です。アルトゥール・シルバの退場がありましたが、それがなくてもいい試合ができたように思います。

 異なるサッカーでそれぞれ勝利を挙げることができました。この試合でのアプローチを見てもわかる通り、勝つことにかなりな重心を置いていたように思います。それに応え、自信をつけられたのはよかったでしょう。恐らく次くらいからは内容もある程度重視しつつ、ACLを見据えていくつかお試しもあるかと思います。それを楽しみにしたいですね。

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