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【2020 J1 第33節】横浜F・マリノスvs名古屋グランパス マッチレビュー

1.はじめに

 勝利を挙げられなかった大阪2連戦。選手たちの疲労が色濃く出ていました。それを受けてか、なんとこの試合で8人も選手を入れ替え。フレッシュな選手たちで試合に臨みます。対する名古屋は両サイドバックのみ変更。こちらも連戦による疲労はピッチに表れている状態でした。はたして、この差がどう出るでしょうか。では、見ていきましょう。

2.スタメン

スタメン

■横浜F・マリノス

4-1-2-3の布陣
・前節から大幅にメンバーを入れ替え(8人入れ替え)

■名古屋グランパス

4-2-3-1の布陣
・前節から両サイドバックを入れ替え

3.攻守における密集の意味

■久しぶりに密な攻撃を繰り出すマリノス

密集した攻撃

・外に開いたウイングを起点に、ボールを落ち着かせてゆっくり攻められる
・前で時間が作れるので、後ろから人が上がって密集を作れる
・相手にボールを奪われても、密になっているので即時奪回がしやすい

 今まではシステムの関係もありましたが、縦に早いサッカーを追い求めていました。サントス、マルコス、エリキに素早くボールを入れての速攻。これをすると、どうしても前後分断したサッカーになりがちです。

 前にいる3人で攻撃を完結させる。または、この縦の速さに負けないスピードで上がれれば問題はありません。しかし、選手たちに疲れがたまると、どちらも難しくなりますよね。前後分断がひどくなり、縦に間延びした布陣が常態化します。

 前からプレスをかけることもこれに拍車をかけます。攻撃時に人が少ないので、守備に切り替わった瞬間も人手が足りなくなります。なので、相手に簡単にかわされてしまう。即時奪回がはまらなかったのは、こういった理由もあったでしょう。

 しかし、この日は先発メンバーが遅攻を好む選手ばかり。中途半端に速攻向けの選手を混ぜなかったのも、プレーの迷いを消す上で重要なことだったと思います。何より、元々マリノスが取り組んでいたサッカー。今季からの新加入選手も、小池、詠太郎、水沼の3人のみです。慣れ親しんだサッカーは、攻守においてスムーズな動きを生み出し手いました。

 さて、遅攻になると何が嬉しいか。それは、前で時間を作れる分、分厚い攻撃が可能になることです。マリノスではすっかりおなじみの密集攻撃。これは、攻守が切り替わる場面でも大きな効果を発揮します。

 攻撃時に密ということは、奪われた瞬間も密ということです。つまり、守備になった瞬間も、自動的に包囲網っぽい形になることに。こうなると、すぐボールを追いかけられますよね。相手に時間とスペースを与えないので、大きなプレッシャーをかけることができる。前半10分ごろまでは、この即時奪回がうまく働き、一方的に押し込んでいました。

■徐々に訪れる疎の状態

疎になった理由

・縦に早い攻めをすると、前線が密にならない
・最初のくさびで奪われると、前線が密にならない

 先ほども言いましたが、縦に早い攻撃をすると前線に人数がかかりません。その状態で奪われると、そこまでプレッシャーをかけることができない状況に。相手選手に空間と時間の余裕が生まれるため、安全にボールを処理されてしまいます。

 しばらくマリノスの動きについてこれなかった名古屋でしたが、徐々に慣れて捕まえられるように。こちらのくさびがカットされる場面が増えていきます。いくら遅攻をするとはいえ、最初の縦パスをカットされては分厚い攻撃はできません。最初は引いてたセンターバックが前に出てくるようになったのが、大きな変化だったように思います。

■後ろで余裕ができると繋げる名古屋

名古屋ビルドアップ

・センターバックとボランチが前後左右大きく広がって相手をかわす
・持ち上がりを混ぜることで、本来切られているサイドへ展開できるように

 試合序盤は密な状態に苦しんだ名古屋。狭い空間を打破できるビルドアップの形はなかったようです。しかし、時間と空間に余裕ができ始めると、落ち着いて繋ぐことができるようになります。

 最大の特徴は、センターバックとボランチが前後左右広く使うことです。よく見られたのが上図のような形。エジガルが片方のサイドを切りながらセンターバックに寄せます。このとき、センターバックは少し持ち上がってエジガルを引っ張り、同時にボランチが後ろへ下がります。これでエジガルの背後に潜り込み、パスを受ける。そこから逆サイドへ展開して前進します。エジガルの方向付けが無効化された形

 これは風間前監督の名残でしょう。彼とフィッカデンティ監督は真逆なので、前政権の意味がないじゃないか。なんて論調を見かけることがありますが、個人的にはそんなことないと思います。ガッチガチに固めたい監督なら、ビルドアップ時も横幅狭く設定するはずですし、大きく蹴り出すことも増えるでしょう。しかし、フィッカデンティ監督はそれをさせてはいません。今までのいいところを引き継ぎつつ、彼のやりたいサッカーと融合させている印象です。

4.ボランチのお仕事がいっぱいあるよ

 この試合、名古屋ボランチにはたくさんの仕事があったように感じました。その影響もあり、マリノスはピッチを自由に使えてたのではないでしょうか。

ボランチのタスク過多

 ボールを奪い、マテウスがドリブル。カウンター開始です。自陣で守備をしていたボランチも、フォローのため前へスプリント。攻撃に分厚さを出すことと、被カウンター予防が主な目的でしょう。しかし、マテウスがボールをロストしてしまいます。そうすると、今度はディフェンスラインとの間が大きく広がることに。露出したこの空間に入り込んだのは天野。そこへパスをつけます。

 さあカウンターだ。こうなると名古屋の取る手段はリトリート。守備陣の前を埋めるのはボランチの役目。なので、稲垣と米本は猛然と戻っていきます。そして、なんとかボールを引っ掛けてクリア。したら今度は前線との距離が開いていたので、セカンドボールをマリノスに回収されてしまいました。

ボランチのタスク過多2

 下りた天野を注視し、サイドに寄っていたボランチコンビ。ちょうど稲垣と前田の間に入った皓太はフリーになります。ここへパスが出たとき、スライドしたのは稲垣でした。

 また、サイドバックも彼らが見ることに。マリノスはサイドバックを内側に絞らせる頻度高いですよね。すると、近くにいるのは自然とボランチになります。しかしそこにマークを割くと、今度はインサイドハーフが空きます。このように、ボランチがみるべきマークは非常に多かった印象でした。

・ハイプレス時に相手中盤を捕まえるため前進
・被カウンター時に撤退守備をするので、自陣深くまで戻る
・インサイドハーフをマーク
・内側に絞ったサイドバックをマーク
・上がってきたアンカーをマーク
・ビルドアップ時にボールの位置に合わせて上下動する

 ざっくり記載してもこれだけあります。名古屋の前線が疲弊しており、守備に割く力がないことも影響していたでしょう。それでもこの量はすさまじいです。中央+αの領域を2人で攻守に渡ってカバーする。こんなの普通1試合もちませんよね。それを何試合も続けているのは、本当にすごいことだと思います。多少のミスが出ても当たり前ですよね。

5.選手層の差について

 まず、両チームにおいて、先発起用しても問題ないと判断されている選手を比較してみましょう。

先発想定

 各ポジションに2人ずついるマリノスに対して、2人いるのは名古屋では限られたポジションだけ。単純にこれだけでも選手層の差がわかると思います。

 この試合における先発メンバーの出場時間平均を比較すると、マリノスは968分、名古屋は1495分と圧倒的な差がありました。いかに名古屋が先発メンバーを固定しているかわかりますよね。

 それに対し、ベンチメンバーの出場時間平均は、マリノスが697分、名古屋が516分でした。こちらではマリノスの方に軍配が上がる形。理論上だけでなく、実戦投入し、どのコンペティションでも戦えるよう起用していることが伺えます。どんなすごい選手がきたとしても、今のチームで出場した実績がないと計算が立ちませんよね。これは非常に重要なことです。

 様々な選手をリーグ戦で起用しているマリノスに対し、名古屋は決まった選手しか起用していません。これではいつまでたっても選手層は厚くなりませんよね。我慢強く起用しているうちに、重要な選手に成長していく。青木なんかはいい例だったように思います。今季、チャンスを掴んだのは成瀬だけではないでしょうか。

 選手層の差は、元々置かれていた状況の違いもあったかと思います。マリノスはACLに出場するので多くの選手を獲得。名古屋はチームを刷新したこともあり、整理の時期。フィッカデンティが小さなスカッドを好む。といったことも理由だったかもしれませんが、名古屋は少数精鋭なスカッド。通常のシーズンだったらこれでよかったのでしょう。

 しかし、今季はコロナの影響で特殊なシーズンに。これが及ぼす選手層への影響は、過密日程と5枚交代でしょう。過密日程のため、同じ選手を起用し続けると疲労がたまりやすい。そのため、ある程度のローテーションを強いられる。5枚交代は、大きく盤面を変える力があるので、出てくる選手が先発と同レベルなら猛威を奮います。

 この試合のベンチメンバーを比較すると面白くて、マリノスはFW3人、MF2人、DF1人、GK1人。名古屋はFW1人、MF2人、DF3人、GK1人。明らかに攻撃カードに差がありますよね。攻撃選手の少なさは、ビハインドをひっくり返す手段の乏しさに繋がります。

 この試合、結局最後まで頼りになったのはマテウスの突破と太田のクロス。山﨑の投入で組み立てやフィニッシュの幅は広がりましたが、崩しの手段は変わりません。対するマリノスは、スピードに持ち味がある選手で前線を一新。それまでの遅攻と比べ、縦への推進力がグッと増します。崩しの変化は、相手守備陣の慣れを打ち砕く力がある。これが勝ち越し点へ繋がった差のように感じました。

6.スタッツ

マッチレポート - J1レポート note用-1

■sofascore

■SPAIA

■トラッキングデータ

7.おわりに

 先発メンバーを前節と8人変えてもクオリティが大きく下がらないサッカーをできる。しかも、根幹にある『自分たちのサッカー』はブレていない。ボスが作り上げてきたチームには、揺るがない柱がある。先制点の画は久しぶりに見たマリノスらしいゴールでした。思わず涙してしまうほど懐かしく、そして安心感がありました。「あぁ、帰ってきたんだな…おかえり、俺たちのサッカー」心で何度も呟いた言葉です。

 疲労の差がそのままピッチに表れた試合でしたね。前節のセレッソ戦を逆の立場で見てるみたいでした。今回休んだ選手の疲労が回復してるといいな。そんなことを思いつつ、次の東京戦に期待しましょう。

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