【2019 J1 第33節】川崎フロンターレvs横浜F・マリノス マッチレビュー
1.はじめに
松本を現実的に撃破し、連勝を5に伸ばしたマリノス。一躍首位に躍り出ました。今シーズンリーグトップとして初めて迎える試合の相手は川崎フロンターレ。鬼門である等々力を突破することはできるのでしょうか。
前半戦では実力の差を見せつけられ、ロスタイムの劇的同点弾に喜ぶしかなかった我ら。優勝するためにはどうしてもこの壁を越えなければならない。さあ!いってみましょうか!
プレビューはこちらになります。
2.スタメン
■川崎フロンターレ
・怪我のためか、新井に代わってチョン・ソンリョンが先発
・他は前節と同様のメンバー
■横浜F・マリノス
・前節と同じ先発メンバー
3.開始直後の川崎守備方法と少しのズレ
・小林はボランチを消しながらCBへ寄せる
・脇坂はマンツーマン気味でボランチをマークする
・阿部は主に松原を見る
・家長は外に開いた畠中へ寄せる
・ボランチはティーラトンかマルコスを見るか二択を迫られる
・マルコスへのマークが空いている場合はCBが前に出て対応
試合開始当初、フロンターレは積極的に前から寄せてきました。CFである小林はボランチへのパスコースを切りながらCBに寄せる。相方の脇坂はボランチを捕まえる役割を持ち、マンツーマン気味に対応します。
両翼の守り方には違いが見られました。左サイドにいる阿部は松原を見ることが主な仕事。反対に家長はティーラトンでなく、外に開いた畠中へ寄せることが多かったです。その結果、ティーラトンが空くことが多くなる。SBが前に出て対応しようとしても、マテウスに留められている状態。ここをカバーしていたのは主にボランチでした。しかしそうすると今度はマルコスが浮く状態に。常に二択を突き付けられている状態を強いられていました。
このようにボランチが大変な状態だったので、どうしてもマルコスへのマークに間に合わないことがでてきます。そうなった場合フォローするのはCB。マルコスが左に流れることが多く、山村が前に出て対応することがしばしば。
①家長が畠中に出てティーラトンが空く
②田中や大島がティーラトンに出てマルコスが浮く
③山村がマルコスを捕まえに前に引っ張られる
フロンターレから見た右サイドは芋づる式に釣り出されることがありました。
前から奪いたい前線の6人。撤退が早いディフェンスラインの4人。前後で意識の差が見られ、この2ライン間が開き気味な状態が長く続く。ここを的確に利用していたのがマルコスでした。開いたライン間でボランチとCBの中間に位置するマルコス。下がって相手ボランチの前に顔を出して注意を逸らし、両ボランチや両SBを前に上げる。自由にやってるように見えて、相手選手を動かす位置取りをひたすら続けた彼の動きは秀逸でした。
■ズレから生まれた先制点
こちらは先制点が決まった前半7分ごろのシーンになります。
パギがボールを出そうとして小林が寄せる。松原へパスをしてそれを回避します。外へのコースは阿部に塞がれているため、中にいる畠中へ。このとき喜田が外へ動くことにより、脇坂を中央から引っ張り出します。畠中がボールを受けたとき家長が猛然と寄せてきますが、先ほど喜田が脇坂を引っ張ったおかげで扇原が空き気味に。そこへパスしたことによって、今度は田中が引っ張られる。家長が畠中に寄せたのでティーラトンはフリーの状態。ここにパスを落とします。
ティーラトンの前にスペースが出来上がり、素早く縦へ展開されます。マルコスがボールを受けようと下りてきたとき、田中が釣り出されて対応が間に合わなかったので山村がカバー。この飛び出しが後の布石になります。ここに出せないと判断したのか、ティーラトンはマテウスへパスを出します。
ボールを受けたマテウスは猛然とドリブル。先ほど山村が前に飛び出していたため、マテウスは敵陣深くまでドリブルで持ち運ぶことができました。それにしても守田を振り切ったスピードとフィジカルはすごかったですね…
ローポストへ侵入したのであとは仕上げるのみ。低くて早いクロスをファーに出します。仲川は車屋の背後を取ってこれを押し込みました。
家長が畠中へ寄せることによりティーラトンが空いたこと。下がったマルコスについていかざるを得なかった山村。プレビューでも触れた中央かファーへのクロス。フロンターレの弱点をうまく突いたゴールだったと思います。
4.変えた守り方とスピードへの慣れ
・2トップは片方がボランチを消してCBへ寄せる
・相方はボランチを監視する
・家長はティーラトンへつくようになる
・サイドに追い込んで人数をかける守り方へシフト
失点後からフロンターレの守り方が少し変化します。脇坂がボランチ番をやめ、小林と2トップを組みます。片方がCBへ寄せたとき、相方は前に出ずボランチを監視。
また、家長のマークも畠中からティーラトンに変更。少し重心は下がりましたが、中央を封鎖することによってマリノスの攻撃スピードをある程度削ぐことができました。人をかけてサイドへ追い込む守備は、そのまま川崎得意のオーバーロード攻撃にシフトできることもあり、攻守に渡って効果的でした。
相手は3週間ぶりの試合。真剣勝負から遠ざかっている中、マリノスのスピードに慣れていなかったため、前半はある程度押し込めていたと思います。しかし潮目が変わったのが前半18分ごろ。ここからマリノスの速度に慣れ、ハイプレスを回避したり、ボールを保持することができるようになりました。
■空転するマリノスのハイプレス
こちらは前半25分ごろのシーンになります。
前から奪おうと、ボールを保持する大島へ猛然と寄せるマルコス。しかしそれを切り返しでかわし、エリキもひきつけてから田中へパス。間で受けた田中がフリーだったので扇原が前に出て対応。それによって後方にスペースが空いたため、小林が下がってきてボールを受ける。扇原と畠中の広い間に顔を出したのは守田。抜け出した先は局所的に3対2の状態。マリノスハイプレスをかわされ、一気にピンチとなった場面でした。
■効果的なサイドチェンジ
こちらは前半17分ごろのシーンになります。
山村、田中、守田のトライアングルで襲い掛かるマテウスを回避。マルコスをドリブルで振り切った守田のカバーにまわった扇原。しかし後方にスペースが空いたためそこまで持ち運ばれ、顔を上げる余裕が生まれました。マリノスのディフェンスはボールサイドに寄せる守備が特徴的。逆サイドにいる車屋はドフリーな状態。遠い位置でしたが、守田は正確なボールを出して繋げることができました。
相変わらずマリノスに対して有効なサイドチェンジ。ハイプレスをかわしてボランチを引っ張り、スペースがある状態で余裕を持って出せる状況を作る。主に出し手としては、山村、守田、大島が多かった印象です。
■2人目のラインブレイク
こちらは前半37分ごろのシーンになります。
ハイプレスをいなされて喜田が間に出てきた状態。小さいスペースへ下りてきたのは家長。山村はそこに当て、家長は田中へ落とします。これによって喜田を回避。この間に阿部が外側から裏を狙いますが、それを見ていた仲川はオフサイドになることを確認。また、喜田が引っ張られたので、田中へ扇原、大島へ松原がずれ、前へ意識が傾きます。それによって完全に意識から外れたのが脇坂。2列目からの飛び出しはオフサイドにならず、大きなチャンスを作られてしまいました。
これもハイライン戦法の泣き所を突かれた形。スピードに慣れたフロンターレは的確にマリノスの弱点を突いてきました。正直、前半はスピードで振り回せると思っていただけに、この適応速度はさすが王者だなと感じました。
5.いつもと違うスピード
この試合、フロンターレはいつもと違う速度への対応に苦しんだことが、マリノスの勝因の1つだったでしょう。
・ハイプレスの寄せてくる速度
・パススピード
・選手が動く速度
・ミドルサード侵入後の縦への速度
・フロンターレが奪ってからの縦へのパス速度(川崎側のパス速度)
・リスタートの速度
マリノスのスピードで高かった部分は上記になるかと思います。
ハイプレスに関しては大島や田中ですら前に大きく蹴らせるほどの速度で寄せることができていました。しかし前述しました通り、前半18分ごろからそのスピードにも慣れ、回避されるように。また、マリノスのパススピードや人がポジションを変えて移動する速度にも慣れ、守備でもどんどんハメられるようになります。
しかし、マリノスが後方のビルドアップで相手をかわし、ミドルサードへ侵入してから縦へ展開する速度には苦戦していた印象です。捕まらないマルコスもあり、CB陣が振り回されていたことも影響していたかもしれません。そこのカバーにボランチも必死に戻ってくることから、多くの選手を走らせることに成功したのではないでしょうか。
また、フロンターレが奪ってから縦に展開する速度もいつも通りでなかったように思います。攻撃のためにバランスを崩すマリノス。そこでボールを奪うと前方には広大なスペースがある状態。選手がそこへ動き出し、ボール保持者もそこへボールを出したくなるのかもしれません。いつもは前に出してからサイドでゆっくり展開。崩す準備が整ってからスイッチを入れる段階的な攻撃をするチームです。いつもより縦への展開速度が上がったことにより、攻撃に使うスタミナ消費も大きかったように感じます。
リスタートの速度に関しても不慣れなものだったでしょう。マリノスはスローインやセットプレーのリスタートが非常に早いです。しかしこの試合の川崎はゴールキックは前に蹴り出す。GKがキャッチしたボールもスローイングが少ない。プレーが切れるたびに1呼吸置くためにゆっくり目なスタートを心掛けていたように思います。それはボールボーイにも表れていました。マリノスサイドだけでなく、フロンターレサイドのスローインでもボールの提供が遅かったです。これは素早く渡すことを意識づけて教育されていない証なので、そもそも素早いリスタートを行わないチームだということが伺えます。
このリスタートの早さがきっかけとなったのが2点目になります。
こちらは追加点を挙げた後半48分ごろのシーンになります。
マテウスの素早いスローインから喜田へ。田中と小林が寄せますが、間を通して扇原へボールを展開。大島の意識が扇原へ向きます。
素早いリスタートだったのでボランチの田中が高い位置へ。大島も前に出たため、脇に広大なスペースが生まれました。そこへ飛び込んだのは松原。車屋が前に出れないよう仲川が外に開いて留めておいたのは心憎いプレーです。ボールを受けた松原は背後に抜け出したエリキへスルーパス。
エリキが抜け出した背景には、守田の位置取りがディフェンスラインから少し前にズレてギャップができていたことが影響していたように思います。この凸凹があった影響でスムーズに背後を取れたのでしょう。
このように、いつもと違うスピードで試合を行ったフロンターレはやりにくさがあったのだと思います。いつもと違うプレーはいつもよりスタミナを消耗します。後半にトーンが落ちたのはこれも影響していたのではないでしょうか。
6.スタッツ
■トラッキングデータ
■チームデータ
7.おわりに
この試合は分水嶺として、下記タイミングがあったように思います。
①川崎がスピードに不慣れな内に先制点を挙げられるか
②前半18分からの川崎ペースのときに点を取られるか
③オープン展開になった際にどちらが先に点を挙げるのか
上記3つが全てマリノスにとっていい方向へ転びました。特に奇襲が成功し、前半早い時間帯で得点を挙げられたことは本当によかったです。前半耐えきったことも運が良かったです。守備陣の奮闘もあり、強いチームの戦い方ができたかと思います。
後方で相手のプレスに屈しないビルドアップ。前線の選手たちのスピードやパワー。フロンターレ相手に前線のデュエルでいい勝負ができたこと。そしてこちら側の土俵に上げたこともよかったです。マリノスペースで試合ができました。
さて、この素晴らしいメンバーで戦えるのもあと1試合。監督、選手、スタッフ、サポーター、それぞれに様々な想いがあることでしょう。最後に皆が笑っていられるように、最後の試合、ホームで勝ってシャーレを掲げましょう!
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