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【2020 J1 第1節】横浜F・マリノスvsガンバ大阪 マッチレビュー

1.はじめに

 Jリーグがいよいよ開幕しました!ゼロックスやACLがあるため、シーズンの幕開け感が少しばかり薄いですが…王者を目指す長い旅が始まります。初戦は昨年と同じくガンバ大阪が相手。今季はハイプレスを標榜しているチーム。その守り方や如何に。

 今回敗戦が悔しかったこと。相手が取ってきた対策が複雑なことから、選手や監督の言葉が述べられている記事を参照してから試合を見直しました。そうしてわかった相手の対策を中心にまとめてみました。では、いってみましょう。

2.スタメン

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■横浜F・マリノス

・畠中が負傷のため欠場、代わりは槙人
・パギ以外はACLと同じメンバー

■ガンバ大阪

・ルヴァン杯と変えて4-3-3の布陣
・昨年のマリノスキラー小野瀬が先発

3.ガンバのハイプレス

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・主なハイプレス隊は小野瀬、矢島、井手口の3人
・どこかを消して寄せるのではなく、目の前にいる相手を捕まえる
・宇佐美は逆サイドへの展開を阻害する
倉田は松原をマンマーク
・遠藤は前に出ていった味方が消せないパスコースをカバー
藤春は仲川を前方視野に収めてマンマーク
・4バックはハイプレスに参加せず防波堤として残る

 開始早々からハイプレスを仕掛けてきたガンバ。それぞれ役割が分かれています。

 マリノスへガンガン寄せてくるのは小野瀬、矢島、井手口の3人。スイッチはCBやSBにバックパスが入ったとき。背中でパスコースを消すわけではなく、次にパスを出しそうなところや、ボールを持っている選手をひたすら捕まえる特攻型。走力にものを言わせて勢いよく追いかけてきます。後述しますが、『小野瀬が前にいるとき』がハイプレスを仕掛ける条件の1つでした。

 1トップの宇佐美は攻撃のためにエネルギーを残したいのか、逆サイドへの展開を阻害することがタスク。倉田は松原をマンツーマンで捕まえることが基本です。しかし、前からハメられそうなときはマークを捨ててプレスに連動。1点目はそれが実った形でしたね。

 遠藤はプレス隊が消せない箇所をカバー。マリノスのパスコースを消す最後の1手として臨機応変に対応していました。

 ここまでの前線6人がハイプレスに参加する選手たちです。では、後方の4人はどうかというと、安全確保のため撤退。前との距離は少し空いています。その間にいるマルコスへはCBのどちらかが前に出て対応。最後方が同数になるリスクは許容済み。また、左SBの藤春は背後を取られないように仲川を前方視野に入れてマンツーマン。これはゼロックスやACLと同じでした。

4.ガンバの撤退守備

 では、撤退守備についてはどうでしょう。それぞれのサイドについて、マリノスの攻め方に対応した守り方を実施してきました。

■ガンバ右サイド

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◇マリノスの攻撃

・WG+OMF+CH+SBの4人でオーバーロードを用いたペナ角崩しが中心

◇ガンバの対策

・小野瀬を下げて『4バック+小野瀬』の5人で最終ラインを構成
・大外レーンを小野瀬が担当、ハーフレーンをオ ジェソクが担当
・レーン封鎖でサイドを攻略させない

 ガンバにとっての右サイド。マリノスは人数をかけて攻めることが多いです。WG+マルコス+ボランチ+SBの4人が密集してペナ角を崩す。要はサイド2レーンを使って攻めます

 それに対してガンバが取った対策は、WGの小野瀬を最終ラインまで下げて4バックと合流させる。小野瀬が大外、オ ジェソクがハーフレーンを担当とし、そのエリアを守備。マリノスが使いたいレーンを塞ぐことにより、サイドから崩させないようにしてきました。

■ガンバ左サイド

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◇マリノスの攻撃

・松原から仲川への中・長距離パスによるバックドアで崩す

◇ガンバの対策

・パスの出し手である松原を倉田がマンマーク
・パスの受け手である仲川に背後を取られないよう藤春がマンマーク

 ガンバ左サイドについて。マリノスは松原からの中・長距離パスを仲川に届けることによって突破を図ります。相手DFの背後を取りバックドアで抜け出す。これが唯一の前進方法になります。

 この対策は単純。パスの出し手と受け手を塞げばいいのです。松原へは倉田、仲川へは藤春が対応。シドニー戦では仲川がマンツーマンの対応をされましたが、出所である松原までマークする徹底ぶり。この対応によって右サイドからはほとんどチャンスを作ることができませんでした。

■中央

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◇ガンバの対策

・中盤の4人が横幅をコンパクトにしてスライド
・CB2人でオナイウを監視
・クロスが上がるときは片方のCBがニア、もう片方が中央に必ず位置して跳ね返す

 中央は中盤の4人が横幅をコンパクトにしてスライド。真ん中からのコースを塞ぎます。

 オナイウへは両CBが対応。下がってのレイオフも、クロスに合わせるときもしっかりとマークします。特にクロス対応はしっかりとマリノス対策をしていました。ニアと中央それぞれにCBを配置。クロスを上げられても跳ね返すことができていました。

 このように、エリア別にしっかりとマリノスへの対策を講じてきたガンバ。マリノスは攻めあぐねます。

5.ガンバの布陣変更

 しかし、ガンバは前半28分ごろから守る際の布陣を変更してきました。

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 その布陣とは4-4-2になります。主な理由としては、縦横無尽に駆け回るマルコスを遠藤一人で捕まえきれないからです。彼についていくと中央を空けてしまうが、フリーにするとチャンスを作られる。また、ハイプレス時に彼までボールがいくと、対応に出向くのはCBとなり後方が同数に。

 この状況を嫌がった遠藤は、プレーが途切れた際に宮本監督へこの守り方を具申。許可が下りたので井手口と共にマルコスを見ることになりました。これによってCBが前に引っ張られることはなくなりました。

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 撤退時に小野瀬が下がるルールは継続。マルコスを2人で見ることも、左サイドはマンマークなことも変わらず。ただ、矢島が1つ前に出た分、中盤の脇を使われるように。それをきっかけに、マリノスは前方でボールを保持できるようになりました。

 後半になってもこの布陣は継続。恐らく2点リードしていることと、ハイプレスが90分もたないと考えた末なのでしょう。ハーフタイム中に整理し、意思統一ができたのだと思います。

6.相手の隙と交代策

 さて、マリノスも指をくわえて見ているだけではありません。相手の出方を見て対策をいくつか練りました。

■外側にいくマルコス

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 SBで相手SHをピン留め。マルコスが外側へ流れてボールを引き出す形です。4-4-2相手なら昨季からしばしば見るボール前進方法ですよね。後半開始から仕掛けていたため、ハーフタイム中に分析班から伝達されたのだと思います。

 しばらくはマークに悩んでいましたが、慣れてくると4枚の中盤をスライドして対応してくるように。この動きは徐々に効果を薄めていきました。

■仕組み上の穴と優位性

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 サッカーには打開策として選手交代があります。この試合で切られた交代カードの意味を考えてみましょう。

■マリノス左サイド

・オ ジェソクは渓太がスピードで終始勝っていた
・小野瀬は長い距離の上下動で疲労している
 ⇒高野を投入して縦へのスピードを強化

 左サイドに関しては前半から見られるように、渓太はオ ジェソクにスピードで勝っていました。前半6:14や8:17、12:39など、相手が撤退して小野瀬と2人体制になる前に1対1を仕掛けると、クロスまで持っていくことができました。つまり、相手の守備陣形が整うより前に縦へ仕掛けるスピードがこちらサイドの優位性となります。

 そのための交代策はもちろんスピードのある選手を入れることです。WGかSBの2択ですが、ボスが選択したのはSB。昨年のアウェイ仙台戦において、あまりの速さにサイドを攻略しても中に味方がいない現象が発生した高野を投入。彼に大外を任せることにより、スピードでの打開を図ります。渓太が内側を取るようになったこともあり相手を攪乱。左から多くのクロスが上がるようになりました。

■マリノス右サイド

・藤春が仲川をマンマークし、倉田が松原をマンマーク
・井手口もマルコスへ注意が向いて中央寄り
・右のペナルティエリア角がポッカリと空く
 ⇒エリキを右IHとして入れることによりそのスペースを活用

 右サイドについてはマンマークが特徴。藤春と倉田の位置は人基準となります。そして中央にいる井手口はマルコスへ意識が傾いている状態。仕組み上ペナルティエリア右側の角がポッカリと空きます。特にクロスが上がるときは顕著ですね。

 それならそのエリアに突撃する人を入れてしまおう。ということで投入したのがエリキ。左からクロスを上げられる体制を整えたので、あとは空いてるエリアで右から刺せばいいだけ。自身が得点することを逆算することが得意な彼。しかもダイナミックに動くため、捕まえることが難しい。ピッタリな人選だったと思います。

 こうしてエリキを放っておけなくなった相手はマンツーマンを緩めざるを得ない状況に。徐々に仲川も攻撃に絡めるようになっていきました。終盤はこのようにしてチャンスを作り出すことができていたと思います。

7.選手・監督コメント

Jリーグ公式の選手コメント
Jリーグ公式の監督コメント
マリノス公式サイトのコメント
ガンバ大阪公式サイトのコメント

 ボスに関しては、スタートがスローになったとコメントしています。選手コメントでも、相手に合わせたという言葉が散見されますね。序盤からフルスロットルが昨季後半のマリノスでした。ACLのテンポがあったからか、この日はやや受け身なスタートに。

 ハイプレスはリスクを伴う、心理的負荷の高い戦術になります。こちらの低調なスタートに対し、ガンバは素早い寄せをする。これがハマって失点したことは、相手に勇気を与えたでしょう。

 宮本監督の言葉にもあります。ルヴァン杯では開始直後から積極的にプレスをかけられなかった。そこを反省して今日は入りから全開だったと。まさに敗戦を次の試合へ活かした格好です。ガンバのメンタルにあっぱれだと感じました。

 また、システムだったり、攻守のやり方に関しても、『対マリノス』を意識したものと言及されています。撤退守備のときサイド別に対応していたのは研究の賜物だったわけですね。

 事前準備が功を奏し、ガンバサイドは意気揚々。マリノスサイドは意気消沈。ある意味で、予想通りなサッカーをしてしまったわけです。作戦がハマったとき、精神へ与える影響は多大なものがあるはず。今節はしてやられましたね...

8.スタッツ

■トラッキングデータ

■プレイヤースタッツ

9.おわりに

 さて、ガンバのマリノス対策について見てきました。撤退守備相手にはボスが回答を出したため、考えるべきはハイプレスの回避法ではないでしょうか。相手の特性を鑑みた上で、自分なりに提案してみます。

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SBとCHが位置を入れ替えてマークを外しつつ大外へのパスコースを確保
・相手が動いたら背後が空くのでそこを取ってボールを前進

 相手はSBに対して基本マンツーマンで対応してきていました。そのため、単純にSBが幅を取ってもマークを外せずパスコースとなりません。それなら相手を誘導してしまいましょう。ボランチと位置を入れ替えることによってマークを攪乱。大外へのパスコースを創出します。仮にそこへ相手が出向けば別の箇所が空くため、背後を取ってパスを受けることができます。縦ではなく、横に入れ替わってギャップを作れればよかったのかなと思いました。

 マリノスがこの試合で苦戦したのは、しっかりと対策されたからです。対策できるということは、相手の予想を上回ることができなかったという裏返し。左右でのボール前進方法がいつの間にか固定されていたようですね。個人的には、昨季開幕戦の方が手札が多かったように思います。

 この時点でしっかりと対策できた相手に当たったことは幸運かもしれません。中断期間を利用し、もっと攻撃の選択肢を増やせればこの敗戦は無駄にならないでしょう。次にどのような戦い方を見せてくれるのか、期待しながらリーグ戦の再開を待ちましょう。

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