見出し画像

【2020 J1 第25節】横浜F・マリノスvsサガン鳥栖 マッチレビュー

1.はじめに

 あれ?つい最近鳥栖と試合したような…そんな感覚があり、調べてみたところ、なんと中2試合という日程!これも特殊な年ならではですよね。ということで、ほとんど間がなくまた戦うことに。

 前回は互いにアグレッシブなサッカーを展開しました。恐らく今回もそうなるでしょう。しかし、鳥栖は以前と全く同じではありませんでした。きちんと修正し、この試合に臨んでいます。それを見ながら、振り返っていきましょう。

2.スタメン

スタメン

■横浜F・マリノス

・3-4-2-1の布陣
・出ずっぱりだったシャドーがお休み
・松原負傷により、再び喜田をリベロ起用

■サガン鳥栖

・4-4-2の布陣
・原と原川は前回対戦時からずっと出ずっぱり
・好調守田を控えにして、高丘を先発にする

3.プレッシングと立ち位置の差

■鳥栖のプレッシング

鳥栖のプレス

・前線6人で六角形を形成。中央を遮断して外回しにする
・センターバックにバックパスしたらプレスのスイッチが入る
・奪い所はウイングバック。囲んでボールを奪いにいく

 鳥栖の守備はおおよそ前回対戦と似たものでした。まず4-4-2ブロックを形成し、中央を遮断。このとき、前線6人で六角形を作るよう意識します。プレスのスイッチが入るのは、こちらのセンターバックかキーパーにバックパスしたとき。前に出ていき、それぞれ狙い撃ちした相手に猛進していきます。

 中央を遮断しているので、マリノスは基本的に外回しにボールが循環します。鳥栖としては、ウイングバックが奪い所だったのでしょう。そこにボールが入ると、サイドハーフが下がって戻せないようにする。ボランチは内側を切ってシャドーへの道を封鎖。サイドバックが上がって距離を詰める。三角形を小さくして囲い、プレッシャーをかけてきました。

 特に強く意識していたのが、サイドで数的優位を得ること。マリノスはウイングバックとシャドーの2人。対する鳥栖はサイドハーフ、ボランチ、サイドバックの3人。2対3なので、パスコースを見つけることはおろか、個人技での突破も難しくなります。前回対戦はティーラトンがいいように使っていたので、そこを塞いだ形でしょう。この守備にマリノスは苦戦を強いられてしまいます。

■マリノスのプレッシング

マリノスのプレス

・開いたセンターバックに寄せるシャドー
・ビルドアップに参加するキーパーに迫るサントス
・スライドが間に合わないと、サイドで数的不利が生まれる

 対してマリノスのプレッシングは、いつも通り前に突っ込むものでした。開いたセンターバックにはシャドー、ビルドアップに参加する高丘にはサントスが寄せます。ボランチは当然相手ボランチを見るため、サイドに数的不利が生まれることに。

 ウイングバックが相手サイドバックへ。センターバックが相手サイドハーフへスライドすればよさそうですよね?しかし、そうなるとシャドーが空いてしまうのです。中央は一番危険なエリア。さすがに空けることはできません。これにより、味方がスライドするまでこちらは動くことができない状態に。

 実際、ピッチ上で水沼がチアゴにスライドを求めている場面を何回か見ることができました。そのたびチアゴは出れないことを伝える苦しい状況。詠太郎の位置取りも水沼がコーチングしていることも含め、現場の混乱っぷりがピッチ上から伝わりました。

 この問題、3トップがウイングでも同じことが起きています。今あるマリノスの課題ですね。無理して突っ込まず、様子を見てもよかったと思います。前回対戦の後半ではできてたのですが…ハイプレスって、一番後ろまで連動できて初めて成立するものなんです。あの日の大人なマリノスはどこにいってしまったのか…

4.少しだけ見られたビルドアップの工夫

 基本的には、先ほど述べた状況が1試合続くことになります。というのも、マリノスが鳥栖のプレスを打開できなかったから。それでも工夫は見られたので、いくつか見ていきましょう。

■和田の気遣い

和田

【POINT】
相手の中間に立つことで、前線での相手守備人数を減らす

 サイドで2対3を作ることが鳥栖の狙いです。では、それをさせないようにすればいいでしょう。特にボランチかサイドハーフのどちらかを引っ張れれば、その先は完全な1対1になります。そして、そのように仕向ける動きを和田はしていました。

 サイドハーフが気になる位置にわざと立つ。相手のブロック間に入って、誰が出てくるか困らせる。詠太郎にポジションを指示することも見受けられました。前にいる選手の時間を後ろで作り出す。これに長けた選手だと改めて感じました。

■サイドを破って

サイドワンタッチ

【POINT】
前にくる相手を利用して、背後を取るパスをダイレクトで出す

 狩り所はウイングバック。逆にこれを利用しましょう。大津に入った瞬間、森下はすぐ寄せてきます。そうなると背後が空くので、斜めに飛び出した大然へダイレクトパス。これで原と1対1になれるので、チャンスに繋がりやすくなります。

 しかし、この動きは2人の呼吸が合わないと難しい。大然が走るも、大津が出さない。その逆もあったりして、うまくいったのは後半頭の1回くらいでした。2つ先のプレーを予測して動くことがシャドーには求められます。大然は次のプレーでいる場所を常に選択しているように見えました。ここはこれから成長を見守るところでしょう。

 また、高野が負傷してしまったことも痛かったです。特に利き足の違いは大きい。右利きだと、どうしても内側を通すボールになってしまいがちです。そうすると、相手ボランチやセンターバックに奪われやすくなります。反対に、左足だと外回しになるので、敵がいないところを通せて安全。他にも利き足じゃない不利はありますが、この試合ではこれが一番辛かったと思います。

5.コメントの意味を考えてみる

■ただ試合をしたの意味

 ボスは試合後にこのようなコメントを残していました。

 特に何かがあったわけではなく、何もなかったということです。90分間通してただ試合をした、それだけです。1-1に終わり、負けなくて良かった試合だと感じています。自分たちのサッカーが何1つありませんでした。

 先ほども記載しましたが、試合の構図は90分間変わることがありませんでした。(終盤は互いに体力が切れてオープンになりましたが、原則は一緒です。)外回しにされ、満足に攻めることができない。守備もマークがずれ、数的不利から攻略されてしまう。

 これって明らかにマリノスがやりたいことではないですよね。それなら、自分たちが望む展開に持ち込むため、やり方を変える必要があります。しかし、工夫はおろか、チャレンジする姿すら見れないこともありました。自分たちが主導権を握り、アグレッシブなことをする。これが自分たちのサッカーです。そんな姿を見ることはどれだけできましたか?

 極端に言うと、状況を変えようとせず、ただ漫然と同じプレーをしていた。それも90分間ずっと。当然状況は何も変わらなかった。ボスが怒っているのはここじゃないでしょうか?

 前節の柏戦を見るとわかりやすいですよね。前後半であれだけ試合が様変わりしました。しかし、この試合で状況を打破しようとした選手は何人いたでしょうか?「いずれ相手は疲れるだろう」「そのうちミスするだろう」「前みたいに勝てるはずだって」相手を低く見積もり、自分たちが向上しようとしなかったようにも捉えられますよね。この考えは、明らかに対戦相手へのリスペクトを欠いています。

 ただ、いつも自分たちが勝ちたいのは当然だとした上で、勝ち負けに関係なく、自分たちのサッカーができず、2チームがただ試合をしただけのような残念な結果に終わってしまいました。

 この言葉にすべてが詰まっている気がします。相手をリスペクトし、いつも挑戦者の心を持つ。そして魂を燃やし、相手を圧倒して自分たちが主導権を握とうろする。結果はどうであれ、そんな姿に自分はマリノスらしさを感じますし、応援したくなります。勝敗以前に、戦う姿勢を見せて欲しかったです。

■組織と共通意識の重要性

 金監督は、試合後にこのようなコメントをしていました。

 正直、ほぼ本職でない選手をCBに並べている時点で、僕たちにとって難しいゲームになると感じていました。チョイスしたのは僕ですが、それは彼らができると判断したからで、そこも含めて評価したいです。コロナの影響やACLの日程変更で中2日という状況となり、さらに個々の能力の差があった中で選手たちがグループでしっかりと戦ってくれました

 サッカーは11人対11人の競技です。この広大なピッチの中、個の力なんてたかが知れています。(一部の例外はいますが…)効率よくプレーするには、グループとして戦うことが不可欠。そして、共通意識を持つことが大事です。

 例えば鳥栖の守備の場合、『相手を外回しにしてウイングバックで奪う』ということが、11人全員の頭の中にあります。同じ目標に向かえば、味方の動く位置もわかりますよね。なので迷いなく動ける分、スピーディーな展開が望めます。

 反対にマリノスはどうだったでしょう。「そこじゃない!」と位置修正を指示するコーチングが飛び交い、自分の動く位置すらわからない状態。スライドしようとするも、「いや、無理」と断られてしまうことも。個人個人でやりたいことが分かれていてチグハグでしたよね。なので、出足が遅れるし、陣形もずれる。まぁ、今日のメンバーでプレーした時間どれだけあるよ?という点もありますよね。いずれにしても、組織として動けない弱さがこの試合では目立ってしまいました。

6.スタッツ

マッチレポート - J1レポート note用-1

■sofascore

■SPAIA

■トラッキングデータ

7.おわりに

 試合を見た後、自分の感情には何も残りませんでした。いつもなら「勝てなくて悔しい!」となるんですけどね。これは大分戦のときもそうでした。自分たちがやれるだけのことをやっての結果なら、悔しさを感じるのでしょう。そうじゃなかったということは、少なくとも自分の心には響かなかったのだと思います。

 公式戦で一緒にプレーした時間が短いので、相互理解が足りていなかったことはわかります。それならそれで、ピッチ内で話し合うなどもできたはず。ハーフタイムでそれを期待していたのですが、後半も同じ景色のまま。ピッチ上の絵がずっと同じじゃ退屈しちゃいます。マリノスによくない状況なら尚のこと。

 そんなことを言ってても次の試合はすぐそこまで迫ってきています。とにかく切り替えが大事です。それは見てる側も同じ。スタジアムにいったら集中してピッチを見る。いいプレーには全力の拍手を送る。自分が後押しできるのはこのくらいなのだから。次の神戸戦では、魂が奮えるような試合を期待しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?