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【2020 J1 第14節】横浜F・マリノスvs川崎フロンターレ マッチレビュー

1.はじめに

 互いにスピーディーな攻防を繰り返し、1-1で終えた前半。これだけのテンポでも首位と渡り合える。ここで勝てれば何かを掴み取れそうな気がする。そんな小さな希望は、後半開始早々、粉々に砕かれた。

 自分に残った感情は『怖い』ただそれだけ。そこからは試合を見てはいるけど、内容が一切頭に入ってこない。そんな自分が不甲斐なく、しばらく試合を見返すことができなかった。

 ちょっとサッカーと距離を取り、砕けた心も継ぎはぎ程度には回復した。そんな状況で試合を見直してみたが、これでも感じるものがあるから不思議だ。自分が感じた怖さが何か。そしてなぜ負けたのか。全てを受け入れ、整理できるようになったので、まとめてみようと思います。

2.スタメン

スタメン

■横浜F・マリノス

4-1-2-3の布陣
・ルヴァン杯で消耗した選手たちは一部お休み
・天野とマルコスのインサイドハーフで臨む

■川崎フロンターレ

4-1-2-3の布陣
・左サイドバックに車屋、アンカーに守田を起用
・あとは現状考えうるベストメンバー

3.マリノスが望む試合のテンポとは

■マリノスが望む攻撃のテンポ

 さて、今マリノスがどのように攻撃を行っているのか。ザックリと見ていきましょう。

マリノスの攻撃原則

後方は人数と時間をかけ、前線3トップがいい状態で受けれるまで回す
前方は人数も時間もかけず、作った優位性を損なわないうちに攻めきる

 簡単に言うと、後ろで作って前で素早く刺す、ということになります。昨季終盤が特にそうだったのですが、今のマリノスは縦に早い攻めを好みます。後方に多くの人数を割き、時間をかけてボールを回す。このとき何を伺っているかというと、前線3トップがいい状態で受けれるようになっているかどうかです。

 ここで言ういい状態とは、ボールを余裕持って受けられるスペースがあるかどうか。受け手の体の向きが整っているかどうか。相手ディフェンダーが準備できていないかどうか。などなど。受け手にとって、ゴールへ迫りやすい状態を指します。

 後方で回している間に優位性を作ったら、それを損なう前に素早く縦へ展開。3トップにボールが入ってからは電光石火の如く攻め立てます。詰まったらやり直しなどはせず、ガンガン仕掛けることが特徴です。

 特にこの傾向は、夏に大然とサントスを獲得し、前線のスピードが上がってから強まっています。今のマリノスは、相手を全く見ず、とにかく素早く縦に仕掛ける特徴があるのです。

マリノス1点目

 1点目はこの特徴がよく出ていたでしょう。天野が守田の脇でボールを受け、谷口を引っ張る。そこに小池も絡んでいき、マークがぐちゃぐちゃに。こぼれ球を拾った扇原はすかさず前線へ展開しました。

 相手のポジションが整っておらず、こちらの選手がボールを受けれる状況だからこそ、素早く展開したのでしょう。盤面が散らかっている川崎相手に奇襲を仕掛けた格好に。クロスを上げるとき、詠太郎のところに出てたのはセンターバックである谷口でした。これこそまさに、こちらの優位性を活かした攻撃です。

■マリノスが望む守備のテンポ

マリノス守備原則

 では、守備面ではどうなのか。最大の特徴は、即時奪回を狙ったハイプレスですよね。これに怯み、ボールをすぐ前へ蹴ってしまうことが望ましいです。つまり、相手後方に時間を与えないことと、強制的にテンポを高くさせることが狙いです。

 前へ蹴るターゲットになりやすいのが、ハイラインの裏。しかし、そこにまっすぐ蹴るとチアゴやパギが対応できる。なので、なるべく直線的なボールを蹴らせたい。守備においても、縦への早さは維持したいイメージになります。

4.改めて、マリノス対策って何だろう

■攻撃への対策

 マリノスは、『後方でゆっくり、前方で素早く』攻撃を行いたい。では、これを阻害するためにはどうすればいいか。反対のことをすればいいのです。

◇後方でゆっくりさせない
 ⇒ 敵陣で時間を与えたくない
 ⇒ ハイプレスを敢行
◇前方で素早く攻撃させない
 ⇒ 数的優位を作り、ボールを奪いにいかない
 ⇒ ウイングに対し、ディレイをかける

 あれ?これどこかで見たことありますよね。そうです。リーグ戦再開後に騒がれていた、マリノス対策そのものです。

 この試合も同じ手法を取ってきたフロンターレ。攻撃の防ぎ方はもう周知徹底されていますね。

■守備への対策

 守備に対しても同じです。マリノスとしては、敵陣で時間を作りたくない。ならば、相手のハイプレスをいなし、後方でボールを持てる時間を作ればいいのです。

 マリノスはハイプレスをかわされると、前線の選手たちの戻りが遅いです。また、その状態になるとボールに収縮する癖を持っています。なので、ハイプレスをいなして中盤の選手へボールをつけると、相手がそこに集中する。後方のディフェンスラインに余裕ができるため、そこに戻すと楽にキープできるように。

マリノスの守備

 前半の失点直前のシーンが顕著でした。守田に当て、山根までボールを届ける。これでハイプレスを回避できたので、マリノスの選手たちは自陣に戻りつつボールへ収縮します。

 そうなると2.5列目あたりに空間ができあがるので、そこにいる選手が時間を得られることに。この場合は脇坂でした。彼は反対にいる三苫へのパスコースが見えている状態。大島からパスを受けてすぐに展開することができました。

 サイドに寄る守備。そこからのサイドチェンジはよく引き合いに出されますが、この癖はあまり語られていないような気がします。一旦いなし、食いつかせてから空いた箇所を使う。これもマリノスの弱点なのです。

5.フロンターレの成果

 では、フロンターレはこの試合でどこまで対応してきたのでしょうか。攻守共に見ていきましょう。

■フロンターレのハイプレス

フロンターレ前半ハイプレス

 前半はあまりハイプレスがはまりませんでした。寄せるスピード、切る方向。どれを取ってもイマイチ。ダミアンはそこまで守備が得意ではない模様。あまり限定できてなかったので、相方の脇坂も空回り気味。後方でボールが詰まることは、あまりありませんでした。

フロンターレ後半ハイプレス

 打って変わり、後半は開始早々からものずごいスピードでプレスをかけてきました。こちらのパスに対して全力疾走。前半そこまで出てこなかった守田のスピードを見ると一目瞭然ですよね。

 また、交代で入った小林と旗手は限定の仕方がうまい。相手の選択肢や時間を削ることに成功。奇襲を受けたマリノスは、後半あっという間に2失点。自分が現地で『怖い』と感じたのは、この鬼のようなプレスだったようです。

 試合後、鬼木監督はこんなコメントをしていました。

── 後半に畳み掛けたが、狙い通りの展開だったのでしょうか?
 できれば前半から前線で圧力をかけたかったです。元気な2人だったので、いけると思っていましたが、全体としては重かった。前線で、ユウ(小林悠)はプレスのかけ方がうまい。後半、修正できるとしたらそういう形の方が可能性があるので、ユウとレオ(旗手怜央)でハードワークと圧力をかけていく。そこでしっかりとした守備ができることで、また攻撃が良くなる。そこがたたみかける要因になったと思います。

 できれば前半から後半のようなハイプレスを行いたかった。しかし、体が重かったことと、コース限定がうまくいかなかったことから、狙い通りにはならず。そこで、後半からフレッシュな選手を投入。小林のプレス巧者っぷりも念頭に入れ、やり直しを図る。それが奏功し、2点を得ることができた。さすがの修正力だと思います。

 2点を取ってからも巧みで、全力ハイプレスのトーンを落とします。そこから周りと連携し、1試合もたせられるだけのテンポに調整。そういった細かいコミュニケーションが必要だったので、ジェジエウを下げたのだと思います。周りがトーンダウンしてるのに、彼だけ突貫していた姿が目立ちましたよね。恐らく彼には「後半ドンドン前に行け」しか指示してなかったのではないでしょうか。

 家長を前に出した4-4-2ブロック。サイドバックの攻撃も控え目で、こちらのウイングのスペースを消すことを優先。クローズドに試合を進められ、そのまま守り切られました。

■後方でのパス回し改善

 では、ハイプレスがハマっていなかったのに、なぜ前半に形成逆転されたのか。それはマリノスのハイプレスに対する、フロンターレの立ち回りにあったのではないでしょうか。

 およそ飲水タイムまでだと思います。それまでのフロンターレは、マリノスのハイテンポにお付き合いしていました。ボールを奪ったらすぐにスペースのある前線へ展開。速攻で畳みかける。しかし、これは前述した通り、マリノスのペースなのです。そのようなやり方には慣れており、比較的対応しやすかったでしょう。

 そこで、フロンターレは飲水タイム後からボールを保持するように変更。守田を中心とし、後方でボールを握ることで、自分たちのペースで攻めようと図ります。

パスマップ図_前半

 それは、パスマップへ如実に表れていました。飲水タイム前は縦に急ぐ展開が多い。特に右サイドは顕著です。また、守田へのパスも少なく、後方で相手を伺うことをあまりしていなかった模様。

 翻って、飲水タイム後からは守田へのパスが増加。彼を中心に、後方でのパス交換も増えています。相手のプレスをいなし、自分たち本位のテンポで試合に臨めていることが伺えますよね。

 試合後に家長がこんなコメントをしていました。

── 試合を振り返って
 前半の立ち上がりは少し苦しかったが、徐々に自分たちの時間を作れるようになった。時間を追うごとにみんなで共通意識を持って戦うことができたと思う。後半いいスタートを切ろうとみんなで集中してゲームに入って、得点も取ることができて優位に試合を運ぶことができた。

 この共通意識は、後方で落ち着いてボールを持ち、一旦相手を収縮させる。その後、空いた箇所にボールを送り込んで一気に攻めよう。このようなものだったのではないでしょうか。

 飲水タイムとハーフタイムで整理し、互いの意思を共通化。それが素早くできることが、フロンターレの強みなのかもしれません。

6.スタッツ

マッチレポート - J1レポート note用-1

■sofascore

■SPAIA

■トラッキングデータ

7.おわりに

 まさに完敗です。自分たちのペースで試合ができたのは、前半の半分だけ。試合をコントロールできなかったことになるでしょう。そんな試合を見て、自分の心はポッキリと折れてしまいました…

 「相手を見てやれるのはこのチームの強み。」谷口のコメントが突き刺さります。マリノスはあまりに相手を見ていません。ボスの言葉を表面だけでしか捉えていないのではないでしょうか。「相手は関係ない、自分たちのサッカーを貫き通すんだ」それは、試合を終始コントロールしきることと同義です。そのためには、相手を見る必要がある。達成すべき目標は相手によって変わらないが、それを成すための手段は相手によって変えていかなければなりません。恐らくこれが、今季の大きなテーマになるでしょう。

 じゃあこの試合どうすればよかったのか。自分の中に意見はありますが、文字数の都合上カットします。皆さんも考えてみてください。最初はうまくいってたけど、途中からうまくいかなくなった。じゃあどう対応を変えればよいか。これからの試合、こんな視点で見ても面白いかもしれませんね。

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