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戦略と実行を繋ぐBizOps

10X Corporate Strategy&Finance部で働いている@mhiroです!

この記事はScale Cloudさん主催の経営企画アドベントカレンダー10日目の記事です。経営企画という枠のもとであればどんな内容でもokとお話を頂いたので、今回は弊社のCorporate Strategyが取り組んでいる事業部支援 (BizOps)の活動について書こうと思います。

自己紹介
2021年12月に2人目のCorporate Strategyとして10Xに入社。前職は日本銀行にて国内金融機関のリスク検査やグローバル金融規制の立案・海外中銀との交渉を担当。2021年5月にペンシルバニア大学Wharton校にて経営学修士(MBA)を取得。趣味はバスケットボールと温泉巡り🏀♨︎

はじめに

10Xでは経営企画・事業部支援を担うCorporate Strategyと経理・財務を担うFinanceはもともと別の組織体でしたが、今年の10月に部門を統合して("Corporate Strategy & Finance部)、以下6つの役割を担うこととしました。

筆者作成

今回はこのなかでも直近1年間注力してきた①BizOpsの取組みについて書こうと思います。
ー 過去にも③FP&Aはこちら、④Strategic Financeはこちらでご紹介しています

前提
弊社はネットスーパー・ネットドラッグストアのプラットフォーム(Stailer)を小売企業向けに提供しつつ、その先にいる消費者の購買行動を分析してプラットフォームにフィードバックをかけるBtoBtoC事業を行っています。

事業は伸びているが…

1年前のちょうどいま頃、ある事業部の社内ミーティングに出ていて違和感を持ちました。

「今月もGMV(EC売上)がXX円を達成したね、順調に伸びていて素晴らしい」

前月の事業の数字を振り返っていたときでした。確かに売上という最終指標が伸びているのは良かったのですが、順調に伸びている数字に対して「どうして伸びたのか?」という具体の言及がありませんでした。

正確に言うと、売上を分解した事業指標の議論はありました。ネットスーパー上の顧客の注文単価、注文頻度、新規アプリインストール者の購買ファネルなどのデータが店舗別に並んでいて、EC売上が伸びた背景を事業指標レベルでは共有されていました。問題は「何がそれら指標を動かしたのか?」です。季節・曜日・天候などの外部要因もあれば、小売パートナーや10Xが打ち込んだ施策要因もあり得ました。

「この事業成長は自分たちの想定通りなのか? 非連続な事業目標に対して自分たちの活動は質・量ともに十分なのか?」という問いに答えられないことにストレスを感じ、どうにかしなければいけないと危機感をもちました。

また、10XのBizDevは事業のなかで幅広い役割を担っており、日常の定常業務も多く抱えてます。そんな中でも事業成長のための施策を強度高く打ち込み続けるようにするにはどのように支援できるか。。

そうやってモヤモヤしながら年末休みを過ごしていましたが、ふと立ち寄った本屋さんで見つけた本が、自分の違和感を綺麗に言語化してくれていました。そこで出会ったのがWIGという枠組みです。

おおもとは Franklin Covey社という米国の組織コンサルティング会社が考案した「実行の4つの規律」というフレームワークです。簡単に紹介します。

実行力を破綻させる要素は、目標の曖昧さ、目標に対するコミットの欠如、アカウンタビリティ(報告責任)の欠如に加えて最大の要因として日常業務=「竜巻」があります。
日々の緊急の仕事という竜巻の中でも最重要目標に向けてどう実行するかが重要となります。
そのためには 1.焦点を絞る2.先行指標を追う3.モチベーションを高める4.責任を持たせるの4つの規律を守ることが大切となります。
これら4つの規律は、日々の多忙な業務(竜巻)自体を削減する策ではなく、どんなに竜巻が吹き荒れる中でも組織・チームが遂行すべき重要戦略を明確に捉え、フォーカスし、実行するためのルールです。

クリス・マチェズニー 、ジム・ヒューリング、 ショーン・コヴィー 著、
「戦略を、実行できる組織、実行できない組織。」

この考え方が10Xの事業にフィットすると考え、年明けから事業部とともに運営をはじめてみました。
上に引用した構成要素は文字だけ読むと当たり前に感じる内容ですが、実際に運用してみるとその難しさを体感することになります。以下では特に「1.焦点を絞る」「2.先行指標を追う」の重要性と難しさについて紹介します。

それは絶対に勝たなければいけない局地戦か?

WIGとはWildly Important Goalの略で、最重要目標といえます。事業においては目先半年や1年で何に向かっていくのかを見定めることになります。

まず最初に、WIGについてチームメンバー間で認識がずれていることがわかりました。ある人は新規ユーザーの獲得数を、ある人はインストールから購買までのCVRを、ある人はオペレーションの効率改善を追っていました。達成したい時期も人によって誤差がある状態。チーム全体では漠然と"GMV XX!"という目標はありますが、次の半年で必達とする目標ではなく、外部要因などもありつつ達成できれば良い目標として置かれていました。

このチームは半年で何を必達とするのか? それがWIGです。事業チームとWIGを考える際に何度も以下の質問を繰り返しました。

「他の全ての業務が現在の水準を維持するとして、変化することで最大のインパクトを与えられる領域はどこか?」

様々な事業指標からボトムアップで計画を考えていると、XXを達成しよう、YYも目標にしよう、といったように一見良さそうな目標設定がなされます。しかしこれではフォーカスが足りません。事業責任者はプロジェクトマネジメント、ステークホルダー調整、システム障害対応などの竜巻(日々の業務)に常にさらされています。自らのリソースは有限であること、また、日々大量の竜巻(定常業務)が吹き荒れていることを踏まえると、このWIGは徹底的に絞り込まれている必要がありました。

「いや、冷静に見返すとXXの目標は必ずしも達成しなくても良い」
「YYの目標さえ達成できれば、さらにその次の半年に事業を非連続に成長させられる」

こうした問答を事業チームと繰り返しながらWIGを磨き込んでいきました。
その過程で痛感したのは『絞る』ことの難しさでした。世の中に溢れる戦略本に書かれたこの当たり前が、徹底しようとするととにかく難しい。フォーカスするためには何かを捨てる必要があり、そのためには自分なりの仮説をもち、スタンスをとって、そのスタンスに賭ける(責任を持つ)必要があるからでした。

チームとしてWIGを絞りコミットするには、その目標で一旦走り切る自信とダメだった時の柔軟性を待ち合わせた強烈なリーダーシップが必要です。

なぜ戦略が必要となるのか? それは ①達成すべき目的があるから、そして② 資源は常に不足しているから。
経営資源が足りない中で目的を達成するためには、限られた貴重な経営資源をどれだけ無駄なく有効に使うのか、考えて考え抜くことが必要になります。考え抜いて選ぶのです。選ぶことで足りるようにするのです。その選択こそが戦略です
数的有利は必ずしも大局での勝利を保証するものではありません。大切なことは、大局で勝つために大事な1戦闘当たりの数的優位をどうやって作り出すか、そのために何を捨ててどこに集中するのかを選択することです。

森岡 毅「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方」

最もレバレッジが効き、かつコントローラブルな指標を追え

最重要目標が決まったあとは、チームメンバーの行動指針が必要になります。WIGはあくまでも6ヶ月後の目標 (いわゆる遅行指標)なので、日々の業務ではもっと手前の指標(先行指標)を見ながら高速でPDCAを回していく必要があります。

先行指標を決める際に重視したのが「予測可能性: 結果(=遅行指標の変化)を予測できる」「影響可能性: チームが直接働きかけられる」です。
特に後者の「影響可能性」は重要で、遅行指標に影響する指標でもコントローラブルでない指標だと意味がありません。先行指標を後から振り返っても果たして自分たちの行動量が不足していたのか、それとも行動の方向性が間違っていたのかフィードバックがかからないからです(もちろん前者の"遅行指標を大きく動かせるか"という観点も重要です)。

WIGを「半年後に月次売上1億円の達成」とします。
先行指標としては顧客の注文単価、注文頻度、インストール数、継続率などの候補がありますが、例えば季節要因で大きく左右される注文単価は先行指標としては不適切です。それよりは新規獲得施策が直接影響を及ぼす新規インストール数、もっと言うと、ポスティングによる新規獲得施策なら「チラシに載っているQRを通じて獲得した新規インストール数」を毎日追いかけることが重要となります。

当たり前のように感じるのですが、運用してみると遅行指標に逃げようとする力学が想像以上に働くことに気がつきます。先行指標データは遅行指標よりも取得しにくいので可視化し続けるのが面倒くさくなります。例えば日々の活動量を先行指標とする場合は、メンバーが毎週どれだけ行動したかひたすらヒアリングして手動でデータを可視化する必要があります。また、データとしては生データに近くデータ基盤が整備されていないがために、自らqueryでデータを取りに行く時もあります。

でも逃げてしまっては、日々の活動に直接的なフィードバックがかかりません。フィードバックがかからないと、活動のPDCAを高速で回すことができず、事業の成功確度が落ちます。

日々チームの活動に意味のあるフィードバックをかけ続けるためには、断固たる決意で先行指標の可視化をやり切るラストマンシップが必要だと学びました。

おわりに

1年間WIGを運用してきて感じたのは、一貫性をもって運用し続けることの大変さです。

2週間だけやってみた、日々の業務(竜巻)が忙しいから今週はお休み、はダメです。この目標も捨てがたいので追加、もNG。先行指標が取得しにくいので見るのをやめて遅行指標を漫然と追うのもいけません。

ただ、ダメだとわかりつつも実態としての日々の仕事では竜巻が吹き荒れてめげそうになる局面が何度も訪れます。

CorpSのBizOpsとしての働きどころはまさにここにあると感じます。
どんなに竜巻が吹きあれてても強烈な意思でWIGのピントはぶらさずに他は捨てさせる、そして日々の活動が先行指標にどのように影響を与えたかをしつこく実直にチームにフィードバックし続ける。事業や財務を俯瞰する部門としてあぐらをかくのではなく、泥臭く実直に事業部に伴走して事業を前進させられるようこれからも頑張っていこうと思います。

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