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虹と並走したらスマホが真っ暗になったけど最高かよっていう話

これは、ある1日のお話である。


虹との再会


この日、東京はきれいな青空で、日差しが痛いほどの快晴。
私は15時の新幹線に乗るために東京駅にいた。
大好きな新幹線で北を目指す。

若い頃、推し活で各地に移動していたため、日帰りできる地域は遠出と思っていない(こんな私を許してくれる旦那には感謝しかない)。この日も、東京住まいの99%は「遠いじゃん」と思うであろう県に出向いたが、私は「ちょっと出掛けてくる」くらいの感覚だった。

音楽を聴きながら、たまに友達とLINEしながら、ぼんやりと車窓を見る。平日の昼間に新幹線にひとりで乗って……なんて幸せなんだと、本当に思った。まぁ、このために日々仕事をがんばっていると言っても過言ではないんだけど、やっぱり幸せな時間。

……と、何をしていたのか、何を考えていたのか、今となっては何も思い出せないが、ふと窓の外を見ると、目の前にそれはそれはキレイな半円の虹が登場したのだ。

「うわぁー!!!!!!」

心の中で絶叫した。実際「わっ!」とは、声として出ていたけど。

古いスマホの限界…もっともっと鮮やかでした!

そして、この虹ちゃんとつかの間、並走することとなる。

左側から少しずつ消えていくのがわかるくらい、ずっと一緒だった。7月に実家で虹の始まりと出会ったのも初めてだったけど、並走も初めての経験。「虹」のこと、詳しく研究したくなるくらいの出会い方だ。

当初、お金をケチって高速バスで行こうとしていたが、モタモタしているうちにチケットが購入できなくなっていた。このモタモタが大正解だったらしい。しかも、この時間の新幹線じゃなかったら出会えていなかったよ。虹ちゃん。

すべてがうまくいっている! うん。こんなこと、なかなかない!!

興奮状態のまま、目的地に到着。
雨上がりだったようで湿度がまとわりつくようだったが、心は爽やかだった。

この後、スマホがまったく機能しなくなることも知らずに。


突然のフリーズ


駅前のロフトにて少し時間をつぶした後、会場に向かって歩き出した。会場まで徒歩でおよそ15分。ゆっくり歩けば、ちょうど開場している頃だ。

途中、マスクを買おうとドラッグストアに寄った。そこで、色味が好みのアイシャドウと出会う。東京では「またあとでいっか」となるところ、旅の気分がそうさせたのだろう。マスクと一緒にレジに置いた。

またも、上機嫌でお店を出る。このアイシャドウ、使うの楽しみだな……なんて思いながら。

さて、会場まであと少し。開場時間は過ぎたかな?

私の腕時計はミッキーマウスの可愛いやつなのだが、針がミッキーちゃんの腕のため若干見づらい。はっきりと「何分」まで確認したいときはスマホを見るようにしているのだ。

バックからスマホを取り出す。


……真っ暗……。


あれ?なにか変なところ、押しちゃったかな??
最後にスマホをバッグに入れるところを回想しながら、電源ボタンを長押しする。だいたい長押しすれば起動するはず! ……が、スマホは動かない。真っ暗なまま、私の手の中で沈黙していた。

汗が噴き出たのを、今も覚えている。雨上がりの高い湿度も相まって、じっとりとしたイヤな汗だった。


……いやいや、そんなわけないないない!!


充電は新幹線の中でたんまりしておいたけど、再度充電してみる。
開場までの一本道。途中立ち止まりながら、いろんなボタン(といっても、電源と音量と謎ボタンの3つだけだけど)を長押ししたり、ちょっと押してみたり、とにかくいろんな押し方をしてみた。


そういえば今日のライブ、電子チケットじゃなくてよかった……!!

そう思ったら、少しだけ心が落ち着いた。
ここまで来て会場に入れなかったら「いいネタできた」どころの騒ぎではない。いい大人が号泣ものの状況に陥ってしまう。

とりあえず、会場に入って一旦落ち着こう。

一度ゆっくり深呼吸して、会場前の階段を上り始めた。


最高が最高を上回った時間


結局、グッズの行列に並びながらボタンを長押ししたり、SDカードを抜き差ししたりしてはみたものの、特に変化はない。

万が一のために、旦那に連絡はしておきたかった。旦那の番号だけは記憶しているので、公衆電話でもいける。でも、残念ながらその会場には公衆電話はなかった。そりゃそうか。

そんなこんなで開演時間となる。
登場前から会場中で手拍子が始まった。男性の掛け声も響いてイイ感じ!

誰でもそうだけど、あまりに興奮した「言葉にならない」状態になると、本当に言葉にできない。この日のライブも、言わずもがな。

しかも! ステージの皆さんの後ろには動画を映し出すスクリーンがあって、ある曲でこの日見た虹とおんなじ形の虹の絵がキレイに浮かび上がったときは、スマホに負けず私がフリーズしてしまった。こんな偶然ある? 気持ちの振り幅がハンパナイ。1日で行ったり来たりが激しすぎる!

とにかく、ROCKがROLLで、最高の上書きがすさまじいライブだった。

本編が終わり、汗だくになって「なんて最高なんだ!」とか思いながら、ふと腕時計をみたとき、一気に現実に引き戻される。

私の予定では、すでにライブ終了の時間だった。

「!!!!!!!!」

なんてこと。アンコールの手拍子が耳に入らない。とっさにロビーに出て、スタッフと思われるお兄さんをひっつかまえた。

「あの、あの、新幹線の最終時間、わかりますか!?」
「東京行きですか?」
「はいっ!!!」
「21:37ですね」

即答。結構聞かれるのだろう。私は心底信じた。

席に戻り、気もそぞろにアンコールの手拍子をする。
1曲だけ……1曲聴いたら、出よう。


心の中で、泣いた。


そして、1曲が終わろうとしている。
腕時計を見ても時間がよく見えない。チラリと隣の女性の腕時計を確認。大きくて見やすい腕時計で助かりました(感謝)。

後ろ髪がひかれるとは、このことか……。

いや、待て。走ればなんとかもう1曲!
多めにみて走って10分、切符・食料購入とホームまで5分。
15分あれば、なんとか!!


アンコール2曲目は、大好きな曲だった。
聴かずに帰れるかーい!!
でも、本当にこれが最後だ。

3曲目が始まる直前に、席を離れる。たぶんこれが、最後の曲。
あの曲だろう。また、どこかで聴かせてください。

背中でイントロを感じながら、会場を飛び出した。


汗と涙の疾走


また、雨が降ったようだ。さらに湿度があがっている。しかも雨の「残り水」的なものがチラホラしていた。

よーい、ドン!

さんざん飛び跳ねて騒いだあとに、ダッシュが待っているとは。
それも10分近く走らなくちゃならない。

心は会場にあるまま、重たい湿気を背負って、駅まで疾走する女。
なんだかちょっと、笑えてきた。

でも、逃したら終わり。夜行バスで帰るなんて、さすがにできない。

つ、つ、着いたぁー!!
新幹線口の改札にやっとたどり着いたが、券売機が見当たらない。改札口の駅員さんに「あの(ぜー)…切符(はー)…買いたい(ぜー)…んですけど(はー)」呼吸が荒いままに問い合わせると、「何時に乗りたいの?」と聞かれ、ふと時刻表を見上げる。

東京行き 21:31
東京行き 21:48

????? 頭がパニックで、入ってこない。現時点で21:29。

「21:31に乗りたいんだったら、車内で買ってもいいよ。現金のみだけど」
残念ながら、現金は持ち合わせていなかった。
「だだ、大丈夫です。21:48で帰ります」
「じゃあ、券売機はあそこの赤いとこの右側ね」
「あ、ありがとうございます! 」

ちょ、ちょっと待って。
21:48最終だったら、聴けたじゃんよぉー!! 最後の曲ぅー!!

と、スタッフのお兄さんに怒りの矛先を向けそうになったが、そもそも私のスマホがだんまり決め込んでいるから聞いたのであって、お兄さんは21:37だと信じて疑っていなかった。でも、新しい情報は調べておいた方がいいよ。また、私みたいのが聞いてくるから。

そんなわけで、最終21:48の新幹線に無事乗り込んだ。
お腹が空いている感じはしなかったけど、念のため水と一緒におにぎりも買って。


安堵と反芻と倒木


新幹線に乗り込んで席を確保すると、私はトイレに直行した。汗が尋常じゃなかったからだ。とにかく、この汗をなんとかしたかった。

汗もひいて、やっとライブのことを考えられるようになったのは、乗車して30分くらい経った頃だろうか。なんだか空腹も感じてきた。買ったおにぎりが異常においしくて「もう1個買えばよかった」と思うほど。

これでやっと、無事に東京に帰れる。乗っていれば、東京に着くんだ。

真っ暗な外を見ながら、ぼんやりとする。
田舎を走っているときは真っ暗だけど、ポツポツ灯りが増えてきて、駅に着く頃はきらびやかな「街」になるのが、新幹線ならでは。移り変わりが速い。夜はそれがハッキリして、見ていて楽しい。

それにしても……攻めたセットリストだったなぁ。最高かよ。

そんなことを考えていると、途中台風の影響なのか倒木で在来線が止まっているとの連絡が。救済措置のため、止まる予定のなかった駅に止まるという。

なかなか、東京に着かないのね。
地下鉄の最終に間に合うのかな?あ、今調べられなかったんだった。

なんだか、うまくいかないような。
でも最高な時間もいっぱいある、おかしな1日だなぁ。

とりあえず、東京に着くまではずっとぼんやりすることに決めた。
これ以上のことはもう、起こるまい。


走馬灯な夢


というわけで、この日家に着いたのは午前1時前だった。
東京に着いてからも、汗をしこたまかいた。

家の最寄り駅までの地下鉄の中、あらためて「みんなスマホ見てるなぁ」と思う。私もそのひとりだけど。そうやって何事もなく見れてるの、奇跡かもしれないよ、と隣の女の子に心の中で言ってみた。

届くわけないけど。


虹と再会したらスマホが黙っちゃって、最高のライブは最後まで居られず、汗だくで疾走したら意外と余裕があって、倒木はあったけれど地下鉄には間に合った。

そういえば、スマホが黙ってから会場につくまでの間に、腕と手1カ所ずつ蚊にさされていた。会場に入ってから赤くなっているのに気づいたけど、その後まったくかゆみを感じなかったな。そういえば、虹と蚊って、漢字が似てるよね。


家に着いて、いろいろと落ち着いて布団に入り、猫をかたわらに夢におちる時、その日の出来事が走馬灯のように駆け巡った。今、静かな自分の部屋にいるのが信じられないくらい。

「最高かよ」

つぶやいてはいないけど心底思った、ある平日の午前2時だった。


あとがき


翌日、パソコンで「真っ暗になったスマホの直し方」を検索して、1番上に出てきたことを試したら、数秒で直っちゃった。

でも、何が起こるかわからない。重要人物の携帯番号だけはメモしておこう。皆さんもお気をつけて。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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