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【0歳児】娘を抱きかかえながらベビーカーを押して帰った話

早いもので娘を産んでもうすぐ1年が経とうとしている。生まれた直後はNICUに入ったり、病気に何度かかかったものの、大事には至らずここまで来ることができた。ありがとうと言いたい。娘本人と、私たちをあたたかく見守り、手を差し伸べてくれたすべての人に。

さて、保育園のお迎えが1時間ほど遅くなってしまった、夏のある日のこと。

急いで汗をかきかきクラスに迎えに行くと、扉近くに娘はいた。母の姿を認めるや、大歓声を上げておもちゃを放り出し、高速ハイハイで近寄ってくる娘。(とりあえず動く母ちゃん(私)と違い、父ちゃんに似て慎重派な娘のハイハイは普段とてもゆっくりだ。2,3歩進んで立ち止まり、周囲を確認してまたちょっと進むという具合。だから、高速ハイハイを見るとそれだけ彼女が母ちゃんの到来を喜んでくれていると知られてうれしい)

「ママのお迎えの15分くらい前から入り口待機してたんですよ」

と保育士さん。今日は遅いな、いつ帰ってくるのかな、と思いながら母ちゃんを待っていたのだろうか。遅くなってごめんね、と抱き上げると、娘は満足そうに私のシャツに顔をうずめた。

「じゃあ、急いで帰ろうね」

保育園の玄関を出て、娘をベビーカーに下ろした、その時である。

「うんぎゃああああああああああぁあああ!!!」

とんでもない大音声で泣き叫ぶ娘。ほかの親子が振り返ってこちらを見てくる。座り心地が悪かったのかな、と置きなおすも、やっぱり「ぎゃああああぁああああああああぁあああん!!!」と娘は大泣きである。抱っこするとピタッと泣き止み、下ろされてたまるかとばかりにしがみついてくる。

いつもよりお迎えが遅かったから、母ちゃん恋しさが爆発したのかもしれない。大丈夫だよ、一緒に帰ろう、と言っても話が通じるはずもなく、ベビーカー再トライは大泣きの結果と相成った。家までの道のり、とてもこの妖怪爆音くっつき虫と化した娘を、ベビーカーに乗せて運ぶことはできない。

母ちゃん決めたよ。あなたを抱きかかえてベビーカーを押して帰ろう。

こうして娘(9㎏)を左腕に抱え、右で保育園の荷物を持ちつつベビーカーを押し、背中に仕事用リュックを背負って、私は歩き始めた。外の気温は30度を超えている。身体をくっつけてくる娘の体温は大人より高い。

えっちらおっちら。というよりとぼとぼ。

ベビーカーが使えるならすぐに歩き切れる距離を、本当にゆっくりなんとか進む。歩き始めてすぐ親子ともども汗でビショビショになり、娘を抱えた腕がよく滑る。そのたびに抱きかかえなおし、道から脱線してぬかるみにはまるベビーカーを押し戻しつつ、ゆっくり歩く。

娘はその間ご満悦であうあう言ったり、道端の草木を指さしたりしながら、時折こちらをじっと見上げてくる。まるで「わたしのこと、おとさないよね?」とでも聞くように。その目に夏の日差しが映り込んでキラキラしている。

大丈夫だよ。

「あなた本当に重たくなったねえ。ゆっくり行こうね」

自分も励ましながら、娘と荷物を抱え、一歩ずつ進む。

夕方の夏空は晴れ、向こうにはかすかに飛行機雲が見える。緑は青々と茂り、歩道の白さが目に焼き付く。アスファルトの照り返し、すぐに脱線するベビーカー、食い込むリュック、娘の体温、汗に濡れたやわらかい髪、私の服をつかむ小さな手、その重み。

重たい。9㎏を抱える腕がもう限界だ。
けれど、こうしてゆっくり歩くのは久々な気がする。
娘を保育園から連れ帰るときは、いつも早く帰ってご飯を食べさせなきゃ、お風呂に入れなきゃと焦っていたから。

娘と一緒に、つかの間立ち止まって飛行機雲を見上げた。

母ちゃんね、0歳で保育園に娘のあなたを入れたこと、本当によかったんだろうかってずっと悩んできた。私たちの住んでいるところは子供が多くて、1歳だと待機児童になる未来しか見えなかったから、0歳で入れるしかなかった。頭では理解している。それでも、保育園にお迎えに行くと大声をあげて近寄ってきてくれるあなたを見ると、本当にこれでよかったのか、いや、私は、本当はこんなに小さいうちから入れたくなかったんだ、もっと一緒にいたかったんだ、どうして何とかできなかったんだろうって、ずっとずっとぐるぐる考えながら、ここまできてしまった。仕事が大好きだった自分が、ここまで滅入るものかと途方に暮れるほど、毎日同じ思いにとらわれてきた。

でも、なんだろうね。

2人して汗まみれになりながら、夕空のもと帰る今日は、保育園に通っていなかったら起こらなかった。

望まない選択肢をたどったとしても、後悔した先にも道は続いていて、そこで得られる思い出もあるのだ。

結局いつもの2倍以上の時間をかけて、ようやく私たち母娘は帰宅した。エアコンの効いた部屋で濡れた服をポイポイ脱ぎ捨てると、待ってましたとばかりに娘がおっぱいにむしゃぶりつく。娘を抱えながらソファでぐったりする私。在宅ワークしていた夫が、冷たい水を私に持ってきてくれた。

いつかあなたが大きくなって、ずっと今より重くなる日が来たら、母ちゃんはなぜか今日のことを真っ先に思い出す気がするよ。

どんどん大きくなあれ、大切な大切な宝物ちゃん。

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