リモートワーカーとオフィスワーカーが価値を感じるものの違いとか、サービス体験の品質とかの話
リモートワーカーになって新潟に移住してから一年以上になります。
東京の知り合いに「なんで新潟にしたの?どこらへんがよかったの?」とよく聞かれます。
そのときに一番最初にパッと思いついて言うのが、だいたい「タダ(無料)で座って作業できるところがいっぱいある」です。
だいたい相手のリアクションは「ん…?…え、そこ?」って感じです。そこで、全く相手に響いてないな、冗談だと思われてるな、ということに気づきます。
そして「空港、新幹線、バス、フェリー、電車…と地空海すべての全交通機関が揃っているから」みたいなことを言うと、そこらへんでようやく、しっくりきてる感じの顔をしてくれます。
そういうやりとりを何回か繰り返して、一年が経った最近、リモートワーカーとオフィスワーカーが "その地に求めるもの" は全く異なる、ということを日々実感しはじめてきました。
このテーマだけでそうとう語れるのですが、とりあえず今回は適当に思いついたものを煩雑に語ってみたいと思います。
僕がオフィスワーカーだった時代、つまり週5日、電車に乗り、オフィスに出勤し、おおむね8時間働いていた時代。そこで住む場所や、その周辺に求めていたものは
・駅からの徒歩距離
・最寄りのコンビニまでの距離
・会社までいかに通勤ラッシュを避けながら通えるか
・渋谷、新宿まで乗り換えずにいけるか
・家賃に対してどれだけ部屋が広いか(お得感があるか)
みたいなことが多かったような気がします。
ただ、リモートワーカーになると、オフィスワーク時代に気にしていた要素が、突如としてどうでもよくなります。
最初にまっさきに体感できたものとしては、「駅徒歩3分」と「駅徒歩10分」の違いのために家賃が1万円単位で上下していて、高くても距離が近い方を選んできた過去の自分が理解できなくなるでした。
その当時の僕といえば、飲み会で、誰かが引っ越したときに真っ先に僕が聞いていたことは
「へー、あの駅あたりに引っ越したんだ。駅徒歩何分くらい?」
「○○線って××駅通ってる?」
みたいなことだったと思います。週に10回以上電車に乗るわけですから、通勤時の過ごしやすさみたいのはどうしても重要性が高まってきます。
その頃の僕には「駅徒歩3分」と「駅徒歩10分」の差はあまりにも大きいし、通勤中の車内で本が読めるのかどうかが人生の充実度に大きく関わっていました。
引っ越しをするときには、必ず自分でその距離を歩いて確かめていましたし、通勤リハーサルみたいなこともしてました。
それがどっこい、リモートワーカーになった瞬間に、駅までの徒歩距離や電車の乗り換えの利便性は価値を失いました。
余談ですが、テレワーク全盛期になると不動産の値札のつけかたも結構かわってくるんじゃないでしょうか。
ここで最初の、新潟に移住してよかったことを聞かれたときに「タダ(無料)で座って作業できるところがいっぱいある」と答えた話に戻ります。
僕はこの一言に、地方在住のリモートワーカーになると、都心部のオフィスワーカーのときと比べて相対価値が上がるものが一言に集約されていることに後から気づきました。
「ノマドワークできる場所に困らないってことでしょ」という誰でも思いつきそうな話は割愛するとして、
「タダで座って作業できる場所がたくさんある」ということは、ただ座りたいだけの人は有料サービスを受けないということです。
だから好き好んでまで有料サービスを受ける人は、その相対的なサービスの質が上がるということです。
東京でノマドワークをしようと駅前を歩き回るとします。
ファストフード店をみてみると、スマホ片手に同級生と語り合いながら腹を満たせればなんでもいいという中高生がぎゃーぎゃー騒いでます。
ルノアールなんかの喫茶店にいくと、喫煙所難民となったサラリーマンがモクモクしています。情報商材やマルチをやっている人のミーティングスペースもこちらになります。
ファミレスやコーヒーチェーンに行くと、多少高くついてでもそういう場所から逃れたい人たちが密集していて、キーボード音が響き渡ります。
ランチ時で1,000円を超えるようなミドルクラスのレストランにいくと、ようやく雰囲気のある場所で落ち着いて作業ができそうです。それでも人の数はそれなりにいて、コンセント席だけは満席です。
新潟ではどうか。
ファストフード店でぎゃーぎゃー騒いでいたであろう中高生は、街のいたるところにあるベンチ、商業ビルの屋上にあるオープンテラス、駅前バスターミナルの待合室などにいます。スマホやタピオカなどを片手に、タダで座って作業できる場所で語らっています。僕の観測範囲だと一番クオリティの高い無料作業スポットはメディアシップの20F、夜です。六本木なら一時間利用ごとに500円とっても客が来ます。
喫煙所難民でルノアールでモクモクしていたサラリーマンは、喫煙所にいます。
多少高くついてでも中高生やモクモクリーマンから逃げたかった人たちは、背伸びせずにファストフード店や喫茶店にいます。
つまり、言い方は悪いですが、東京では混雑などを理由に、ランクCの人はランクBの場所にいき、ランクBの人はランクAの店に行っています。新潟では、ランク通りの場所に行きます。ランクAの店にはランクAの人しかいません。
リモートワーカーになるとこういうことを意識しはじめます。公共交通機関を通して家とオフィスを往復していただけの生活から、街全体の雰囲気を移動しながら確かめるようになります。だから急にその地に愛着心が芽生えて地方創生とか地域活性化とか言いたくなってきます。「そういや東京に住んでいたときにはあんまり東京楽しんでなかったなぁ」とか思い始めます。
話を戻しますが、グレード通りの場所に客が滞在できるようになると、ランチどき1,000円以上のグレードのレストランあたりから、ほぼホテルのラウンジのような空間になってきます。
おそらくその価格帯に設定している店というのは、本来やりたかった雰囲気、想定している客層、提供しているサービスがそういうレベルだったということなんじゃないんでしょうか。店を運営しているサイドから考えても想定グレード通りの客が来るほうがやりやすいんです。わざわざミドルレンジの価格帯にしてるのに、苦学生がケチケチクーポン使って水おかわりで粘って元とろうとしてきたりとかしないんですから。
平日の昼間。大通り沿いの西海岸風のレストラン。おしゃれな音楽。丁寧な接客。広いテーブル。柔らかい椅子。当然のようにスープとサラダがついてくる。WiFiあり。キャッシュレス決済対応。店員は4人シフト体制。座席数は数十あるのに居る客は3人。お腹いっぱいにして6時間滞在して1,050円。
新潟、こんなんザラです。
店の経営が心配になりますが、動員している従業員数を減らさないあたり大丈夫なのかもしれません。
普通のカフェでこのグレードなので、新潟市でコワーキングスペースをやる場合は「電源とWiFiとフリードリンクでめっちゃ空いてて、一日滞在して1,200円」という東京だと最強のスペックにしたとしても、新潟市だとかなり弱いです。なんらかの付加価値がないと辛いです。
逆に考えてみると、人口密集地帯というのは公共交通機関から飲食店に至るまで、あらゆるサービス体験の品質を相対的に下げています。たまに新宿とかに行く新潟市民からすると、金払わないとろくに座れないとかマジ不便です。ちなみにバスタ新宿に設置されているナケナシのベンチはダンゴムシだらけで座る気になりません。「地方は虫がー」とか言うけど新宿とか渋谷の方がよっぽど人が座るところに虫がいたりハトのフンが落ちてたりしますよ。そしてとにかく駅前にゴミが多い。
めっちゃ話それた。
無理やり終わらせると、「都心部はコスパ悪い」とは誰もが言いますが、たんにリビングコストの話に限らずに、こういった街でのライフスタイルそのものに大きく根深く関係してくるんだなぁという話でした。