あの人は誰ですか?(記憶に残っている撮影エピソード11 黒木華さん)
2011年に演劇雑誌の仕事で長塚圭史さんの阿佐ヶ谷スパイダースの稽古場(「荒野に立つ」)に撮影でお邪魔しました。撮影内容は稽古をしている役者さんたちを撮影するという内容でした。その中で一人気になる人がいました。別に声が大きいわけでもないし、目立とうとして頑張っているわけでもない、ただただその佇まいが気になりました。稽古が休憩に入った時にもついつい気になって探してみると、一人静かに壁際で座っていました。編集者さんに「あの人は誰ですか?」と聞くと「黒木華さんです。野田秀樹さん、中村勘三郎さんと3人芝居に出て今注目されている女優さんですよ。」と教えてくれました。黒木華さん、覚えておこう。心の中でいつか黒木さんのポートレートを撮影できまうようにと写真の神様にお願いしました。
その願いが叶う時がやってきました。2013年キネマ旬報ベスト・テン、新人女優賞受賞の撮影で初めて撮影する機会が訪れたのです。僕は密かに楽しみにしていました。黒木さんはあの時と変わらず静かな佇まいのとても礼儀正しい人でした。その時は窓から入る自然光を利用して撮影させてもらいました。とにかく僕はフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」のようなイメージで彼女を撮りたくて特に会話もすることなく撮影に集中しました。これがその時に撮影させてもらった写真です。
それからまた2年ほど経ち、2016年冬に再び黒木さんを撮影する機会が訪れました。もうその頃の黒木華さんといったら舞台でも映画でもテレビドラマでも活躍されている20代を代表する女優さんの一人になっておりました。その日の撮影は映画会社の屋上で撮影して、その後会議室に戻って撮影をする流れでした。屋上での撮影が終わり、みんなで会議室に移動する時にあのエピソードをご本人に話すタイミングだなと思い、2011年の稽古場で僕が感じた事を黒木さんに話しました。黒木さんはそのエピソードを喜んで興味深く聞いてくれたのですが、そのあとに「今は誰が気になっているんですか?」と質問をしてくれました。まるで私はそこにすごく興味あります!と言ってるかのようでした。僕はそれが黒木さんらしいなあと感じました。黒木さんは「静かに世界と向き合い確固たる意志で生きている普遍性のある人」というのが僕の印象なので、そういう質問をしてくれる彼女が彼女らしくてとてもいいなと思ったのです。
そして、その時に撮影した写真を事務所の方が気に入ってくれて、黒木さんのオフィシャル写真として使いたいというご依頼をいただきました(トップの写真)。そうやって、僕が仕事で撮影した写真を気に入っていただきオフィシャルで使いたいと言っていただけることは「その日のベスト」を信条に撮り続けている僕の誇りと喜びのひとつであります。
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