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究極の話を聞く姿勢(記憶に残っている撮影エピソード12 横尾忠則さん)

 仕事柄、インタビューの現場に立ち会うことがたくさんあります。僕はいろんな媒体でポートレート撮影をさせてもらっているので、役者さんだけではなく、スポーツ選手やミュージシャン、作家 、アーティストに職人や建築家、デザイナー、声優さんにYoutuber、映画監督から舞台演出家、はたまた大企業の社長からスタートアップの起業家までいろんな世界のトップの人たちの話を聞いてきました。インタビューをする人たちはその分野のエキスパートが多く、演劇は演劇、映画は映画、デザインはデザインに詳しいライターさんが話を聞くのでとても専門的で深い話を聞くことが出来ます。そしてすごい人が話している姿を間近に見ることが出来るというのもカメラマンになって良かった事のひとつです。

 昔、人類学者の中沢新一さんの撮影をしたことがあります。そこですごく強烈な経験をしました。僕は中沢さんが書かれていた本を何冊か読んでいて、中沢さんに聞いてみたい事がひとつありました。撮影とインタビューが終わり、機材の片付けをしている時にたまたま中沢さんと二人っきりになる機会がありました。僕は「チャンス!」と思い、恐る恐る「中沢さん、ひとつ質問していいですか?」と聞きました。その時、帰り支度をしていた中沢さんはその手を止めて、僕の方を向き、「いいですよ。何でしょうか?」と仰ったのです。中沢さんの身体からブワッーっと「あなたの話をちゃんと聞きますよ」というオーラを感じました。僕は「あっ!中沢さんが本気で聞いてくれる!」という意思を強く感じました。僕は「なんだこれは?」と思いました。話を聞きますよ!と言葉でなく言葉以上に伝わるという経験をこんなに明確に感じたのは初めてのことでした。

 そういう意味でもうひとつ究極の話を聞く姿勢を見た経験があります。2014年に横尾忠則さんを撮影する機会がありました。撮影の内容は横尾さんが「生きているうちに会ってみたかった人」と仰るアレハンドロ・ホドルフスキーさんとの対談でした。インタビュールームに入ると、机の上には横尾さんの画集がたくさん積んでありました。それを見た横尾さんは即座に「僕の画集とかは必要ないですからどこかに隠しておいてください。」とスタッフにお願いをしていました。スタッフの人は初対面の二人のコミュニケーションがまずは円滑に進むためのツールとして横尾さんの作品集を用意したんだと思います。それを横尾さんは「いらないです。」と仰る。「これはどういうことなのだろう?」と思ったのですが、その理由はすぐにわかりました。

 時間になり、インタビュールームにホドルフスキーさんが現れました。そしてインタビューがはじまると横尾さんは身体ごとホドルフスキーさんの方に向き、姿勢も前のめり、少年のようなキラキラした目で質問をはじめました。設定されたインタビュー時間は決まっています。横尾さんは1分1秒を惜しんで、自分はこういう人間ですよという自己紹介の時間を一切放棄して、とにかく限られた時間をフルに使って自分が聞きたいことを全部聞いてみたい!自分のことなんてどうでも良い。あなたの発言を一字一句全力で聞きます!というめちゃくちゃ強い意志を横尾さんの聞く姿勢から感じました。こんな風に「あなたの話をめちゃくちゃ聞きたい!」と臨まれたら、誰でも心が開くんじゃないのかなと思いました。それくらい横尾忠則さんの聞く姿勢は凄まじかった。しかもそれをやっているのがあの横尾忠則さんなんだから。

 横尾忠則さんを撮れるだけでもすごい経験をさせていただきましたが、横尾さんが少年のようなキラキラしたオーラで楽しそうに時間を過ごしている姿を見れたというとんでもない経験をさせていただきました。インタビューも奥が深いです。


 

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