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間合いの取り方(記憶に残っている撮影エピソード9 宮崎駿さん、中川李枝子さん)

 2014年に福音館書店の編集者さんから宮崎駿さんと中川李枝子さんの対談イベント時の撮影依頼がありました。依頼された撮影内容は宮崎さんと中川さんが対談している風景の撮影をするというものでした。僕は「せっかくの記念だからお二人のポートレートを撮れませんかねぇ?」と聞いたところ、「私もとっても撮りたいのですが、宮崎さんの事務所にその旨のお願いを伝えたところ、ちょっと難しいかもと言われているんです。」という返事でした。

 僕は経験的に知っています。ある組織や業界の神様のような人にはなかなか「お願い」が出来ないのです。これまでの撮影でもそういうケースは何度かありました。「平岩さんでなんとかしてください」と最終的に「はいっ!」とバトンを渡される。そしてこれまで経験してきたほとんどのケースはバトンを持ってしっかりゴールテープを切ってきました。

 僕は編集者さんに提案しました。お二人の控え室はかなりの広さがあるというので、そこに宮崎さんたちが入られる前にペーパーとストロボをセットしておき、宮崎さんが入られたら記念撮影のお伺いをたてましょう。一瞬でも「むっ」とされたら即座に諦めましょう、と。その場活かしの撮影ではなくて、ペーパーとストロボをセットした理由は、宮崎さんが部屋に入ったら自然と撮影のセッティングに目がいくだろうし、ひょっとして撮影があるのかなと察してくれるかもという狙いもありました。

 当日、控え室に早めに入らせてもらい撮影のセッティングをし、それが終わったら舞台に行って記録撮影用のロケハンをしました。最後に舞台に上がって照明のチェックを開始。舞台上の照明を上げ、観客席の照明を明るくするパターンと暗くするパターンのテスト撮影をしました。僕は撮影になると俄然ずうずうしくなるので、控え室のポートレート撮影がうまくいけば、対談後に舞台上で観客席を背景にポートレート撮影までしようと狙っていたのです。司会の方にも対談終了後に観客席を背景にして記念撮影をする旨の案内をお二人にしてもらうお願いをしました。

 時間になって、宮崎さんが控え室に入られました。福音館書店の偉い人がまず挨拶をして、記念撮影のお願いをしてくれました。宮崎さん、すんなり「いいですよ」という返事。ペーパー越しにその会話を聞いていた僕と編集者さんは静かにガッツポーズ。その後、中川さんがいらして、宮崎さんと挨拶や会話をひとしきりした後に撮影がはじまりました。

 宮崎さんが先にやってきて、「カメラマンの平岩です。よろしくお願いします。」といつも通りの挨拶をしたら「宮崎です。よろしくお願いします。」と言うではありませんか。僕は心の中で「もちろん知ってますよ!」と突っ込みつつ、宮崎駿さんという人間性を少しだけ理解しました。

 撮影がスタート。僕の背中が福音館書店やジブリの方の緊張をじわじわと感じています。そりゃそうだ。対談前に機嫌を損なわれたら困りますもんね。その影響もあってか宮崎さんも中川さんも表情が固い。撮影時間は2〜3分ぐらい。最後の最後に宮崎さんに「もう少し中川さんに近付いていただいて〜、服が触れるか触れないぐらいに。」とプラスアルファーの気持ちと一緒にお伝えしました。そしたら宮崎さんはニヤリと笑い「お前、俺に何をやらせたいんだ〜。」と茶目っ気ある感じに言って中川さんの肩に手を置いてくれました。宮崎さんは僕のプラスアルファーを察してくれたのです。僕の秘技「言わずとも自らやってもらう」が大成功!そこで後ろの緊張が「わあっ!」という笑いと共にふわっとなくなりました。僕は再び心の中で「よし、第一関門突破!」とガッツポーズ。

 そして、対談後に第二関門の舞台上のポートレート撮影がはじまりました。照明の担当者さんにはライトの変更をAパターン、Bパターンの合図で変更してもらうように伝え、いざスタート。そしたら奇跡が起きたのです。立ち位置をお二人に指示したら、宮崎さんが中川さんに「後ろが段差になっていて危ないですよ。」と言う言葉と共にそっと中川さんの肩に手を置いたのです。観客席からは宮崎さんがそっと中川さんの肩に手を置いたのでまたまた「わあっ!」と盛り上がっている。僕は昂ぶる気持ちを楽しみつつ、シャッターを切りました。

 その後、壇上ではマスコミの囲み取材が少しありました。僕は隅っこで静かにその模様を見ていたのですが、フォトセッションがはじまって、何人かいたカメラマンさんの一人が「宮崎さん、さっきみたいに中川さんの肩に手を置いてくださいよー。」って軽いノリでお願いをしました。それを聞いて、僕は「わー!ダメです!そんなノリでお願いしちゃー!」と思って見ていたら、案の定、宮崎さんは「そんな失礼なお願いの仕方があるか!」とプンプンされていた。

 間合いは大事です。

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