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20240625 『若き日』セルフライナーノーツ⑦

Photo by Mikio Kitahara

ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思った。私たちの『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのテクストを俳優たち自身で選定し、シーンを立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなのでセルフライナーノーツとして、覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。


『若き日』セットリスト。

「8 俺はなんでもない」は熊野さんが選んで持ってきた場面だった。理不尽な理由で投獄されてから、主人公は実にいろいろなことを思い出す。内的なリフレクションが増え、様々なことを思い出しながら語る時間があっちこっちに行ったりするので、読んでいても油断するとどの時間のことを話しているのかたまに混乱してしまう。

▼この前のシーン「7 殺された学友」では公園全体をすこし広く使って歌を歌っていた。今回の上演だと「舞台の上にいる」「舞台から降りる」ということがそれ自体で象徴的な意味をもってしまうことにみんなうすうす気がついていた。そうして公園の空間を広く使ったところから今一度舞台に向かってプレッシャーが迫り、圧縮していくようなイメージを共有しながらシーンを組み立てていった。

▼原作を読んでもらえば分かるとおり、なんというか、当時の国家権力というものは無茶苦茶だったんだなと思う(もしかしたら今もそんなに大差ないのかもしれないが)。たまたま現在はそれが表面化せずにうまく覆い隠されているだけで、本質としてはあれくらいの暴力的なものを他ならぬ私たち自身が内にもっているということなのかもしれない。今日ではあまり肌でそうした暴力と触れる機会がないけれども、思えばSNSなどで溢れている中傷や罵詈雑言というのもそうした暴力性の発露ではある。

▼自分以外の誰かが理不尽な暴力に晒された時に、自分の無力さにはじめて思い至る。凄まじい衝動を内面に感じながら同時に「彼らをして 欲するものを奪はしめよ」という詩を引いてくるあたりに文学の道に生きる人の業を思う。主人公の周りには当局の拷問の果てに転向せざるを得なかった従兄という人もいて、暴力がフィジカルに思想をねじ伏せるという感覚があるのと同時に、人間には絶対に奪えないものがあるということに気がついていたのだろうなと思ったりもする。

▼一人の人間の内面で起こっている相反する二つの思考の衝突を現すのに、これも稽古場ではいろいろな手法を試していた。そのものずばりでコンタクトインプロビゼーションで身体的につくろうとしてみたりもしていた。60分足らずの上演ではあってもシーンが20ほどあるので、あまりひとつひとつのシーンやアイディアが似てこないように、バランスを考えながらつくった結果ことばをフィーチャーする形へと落ち着いていった。

▼虐げられている人を前にした時、(意識的にせよ無意識的にせよ)虐げている側はどう振舞うのが正解なのだろうかということを考え続けている。今の時代に生きる私たちはこの社会のなかで男性だというだけで、すでに誰かの足を踏んづけている。だからという訳ではないけれど、ずっとプロレスのことを考え続けていた。ただ肉体を誇示するだけでは誰も救えない。体を張り、負荷を受け止めることでしか果たせない私たちなりの責任があるのではないか。体を張ることは私たちにとっての祈りなのではないかとつらつら思いつつ、シーンはつながっていくのだった。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
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