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20240623 『若き日』セルフライナーノーツ⑤

Photo by Mikio Kitahara

ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思った。私たちの『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのテクストを俳優たち自身で選定し、シーンを立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなのでセルフライナーノーツとして、覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。

『若き日』セットリスト。

「6 逮捕」はレコーディングスタジオというか、リハーサルをした場所がちょっと特別な場所だった。いつもの稽古場とはちがう場所でこのシーンを立ち上げていった。ミュージシャンがスタジオにこだわって時にアメリカやイギリスでレコーディングをするように、演劇でも稽古をする場所が変わると微妙にシーンの質感もちょっとちがう感じになる気がした。

▼そのものずばりで主人公の青年が逮捕されるシーンで、思想犯ということで理不尽な容疑でしょっ引かれる、そんなシーンなので、そこはかとなく暴力の残滓みたいなものを感じさせるようなシーンになったら、と思っていた。イメージとして、刑事を演じる小川哲也には北野武監督の『その男、凶暴につき』を観てもらったりもしていた。

▼今回の上演だと、シーンごとに主人公の台詞を語る俳優が入れ替わっていく。と同時に周りの俳優たちも一つの役に固定されることなく様々な役柄の台詞を喋ることになる。冒頭のシーンで主人公の少年の言葉を語っていた小川が、このシーンでは主人公をしょっ引く刑事の言葉を語ることになる。

▼それぞれの人間がどの立場になるかなんて、それくらい偶然によって決まるもの、というか、世が世ならある人は逮捕されたり抑圧されたりする側に回ることもあれば、世が世なら同様に誰かを弾圧する側に回ることもあるのだと、リハーサルや本番の最中にはそんなことを考えていた。

▼人間はともすれば自分はいつだって、どんな世界に生きていても正しい側に立つのだと信じてやまないものだと思う。いつだって自分は、自分だけは正しい側に立っていられるものだと思いたい。けれども実際にはそんなことはなくて、生まれた時代や属性が異なればあっという間にその時の立場なんていうものは入れ替わってしまう。私たちが今与えられている社会の中の役割もまた、たまたま今身につけているペルソナの一つにすぎない。

▼このシーンでは俳優の松永が、原作の記述に沿って上半身裸になって演じていた。会場が公園であるということから「上半身裸になって大丈夫なのだろうか」「許可は必要なのだろうか」と、出演者が戦々恐々としていたのが印象的だった。公園の人たちにも確認してもらって最終的にはなんら問題なく上半身は裸になれたのだが、場当たりの最中にパトロール中の警官の方が見回りに来て、「上半身裸の男が大声を上げていたので事件かと思った」と言われて危うく上演が止まりそうになったのも、今となっては一つの思い出ではある。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
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