20240506 殺された鉄棒
『若き日の詩人たちの肖像』で有名な一説というのはいろいろあるにせよ、主人公の男が藤原定家の『明月記』を引きながら「日本の最悪の時」にあって文筆家がどう過ごしていたかを確かめるようにして、いよいよ本格的な戦争を迎えるこれからの日本のことを考えているのは小説を読んだ人にとっては結構印象的な描写なのかなと思う。
▼東京に上京してきてすぐに二・二六事件と鉢合わせるという、数奇といえば数奇な運命を辿った堀田善衞さんだけれども、思えば自分が生きてきただけでも学生の時に東日本大震災があって原発の事故があって、それからコロナウイルスによるロックダウンがあってウクライナがあってパレスチナのことがあってと世界はそれなりに動いてはきている。
▼それでも日本にいる限りこれまでに直接戦争に巻き込まれてきていないというのがほんとうにありがたいことで、昨今の「戦争ができる一等国へ」みたいな改憲の話もあったりするものの、戦争なんか絶対にない方がいいに決まっている。『若き日の詩人たちの肖像』を読んでいると特にしみじみとそう思う。
▼社会で暮らす上での自由を奪われた、という意味での異常事態ということでいうと、これまでの人生の中で一番の異常事態というのがおそらくは2020年4、5月にかけての東京都のロックダウンだったかなと思う。外出することも人と会うことも許されない状況下に置かれて、あらためて普段自分が享受していた自由というものについてしみじみと思いを馳せる時間になっていた。
▼あのロックダウンの期間中、私たちには懸垂をする自由もなかった。「懸垂をする自由…?」と思われた方もいるかもしれないが、あのとき私の近所の戸山公園では東京都からの命令で人々の外出を抑える目的で、ほんとうに鉄棒すら黄色の禍々しいテープでぐるぐる巻きにされ、懸垂をしようにもできない状態にされてしまっていたのだった。
▼あの時テープでぐるぐる巻きにされた鉄棒を目の当たりにした時には「なんて惨いことをしやがるんだ……!こんなことするなんてそれでもテメェは人間か!!?」と、公園なのに自由に懸垂をすらさせてもらえないことに対して許せない気持ちでいっぱいだったが、いま冷静になって考えてみるに、あれをやったのは戸山公園の職員の方で、それは私が今戸山公演野外演劇祭のことでお世話になっている人たちと同一人物か、あるいはごく近い人たちである可能性がきわめて高いのだった。
▼因果は巡り、私は今その公園課職員の方々の応援のもと、野外劇の上演を実施しようとしている。昨日の敵は今日の友、というとあまりにも単純すぎるけれども、「あのとき鉄棒をテープでぐるぐる巻きにしやがったのはあなた(がた)ですか?」なんてことは、もう口が裂けても聞けないのだった。
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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02czx9t72zj31.html
【公演詳細】
https://hiraoyogihonten.com/2024/02/24/hiraoyogi8th_info/
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