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20240624 『若き日』セルフライナーノーツ⑥

Photo by Mikio Kitahara

ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思った。私たちの『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのテクストを俳優たち自身で選定し、シーンを立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなのでセルフライナーノーツとして、覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。


「7 殺された学友」は投獄された主人公が同じように当局に連行され、そうして無残に殺されてしまった学友のことを思い出すシーンだった。実は投獄されてからの物語の運びというのが、こういうとなんだけれどもおもしろくて、留置場の中には何人も特筆すべき登場人物というのが出てくる。今回は上演時間の都合で上演には出てこなかったけれども、立ち上げてみたい人々が多かった(犀の角で1シーンを追加しようという話もあったりした)。

▼公演終了後、今回出演してくれた熊野さんとの振り返りの中で「詩がわからなかったから、詩を読むということについて一つの回答を与えてみたかった」という話をした。

この「7 殺された学友」でも「中原中也の詩を、節をつけて朗唱した」というくだりがあって、それも正直どういう風にやったらいいのかあまりピンときていたわけではなかった。

▼とは言いつつもよくよく考えてみれば今はSpotifyやなんかで何気なく聴いているJ-POPの音楽の一曲一曲もアーティストによって詞がつけられているわけで、それだって詩といえば詩なのだけれども、なんでだかあまりそれを詩としては認識していない。普段聴いているそれらはどちらかといえば音楽の中の歌詞なのであって、詩ではない、と思っていた。

▼昔の若者たちはもちろん音楽のストリーミングサービスなんてない中で、詩だけが詩集や同人誌のなかに先行して現れて、言葉だけとまず出会う、ということがあったのだろうな、ということを不器用ながらに想像してみたりした。何度も何度もそらんじる中で、知らず知らず節がついていく。それは別に誰かに聞かせるためのものではなくて、自分が心地よく詩を響かせるための節だったのだろうと思う。

▼中也の詩に自分で節をつけてみようかな、と思って呻吟してみたもののまるでうまくいかずに「このままだと方針が立たずにこのシーン丸ごとなくなる…」という焦燥感に駆られていた折、たまたま幸いにも気軽に音楽をつくれる素敵な大学の同期の友人というのが(学生時代の友人が少なかったなりに)いたことを思い出した。彼にメロディをつくってもらえばいいのだと思い立ち、社会人として忙しく働いている彼を休日に叩き起こして中原中也の詩を送りつけてピアノへと向かってもらった(毎度無茶なお願いばかりしている)。

▼「ん、できた…」と、寝起きの彼がそのまま一時間と経たずに完成させたのが、本番で俳優たちが絶唱していたあのメロディだった。今となってはだから、あの歌を歌うことで中原中也の詩を一篇諳んじることができるようになった。決して明るくはない、死の影を濃く纏った詩(うた)だけれどもなんだか離れがたくて稽古期間中も、本番が終わってからも何度も何度も口ずさんでいる。舞台上ではこの歌の裏で松永から熊野へと主人公である若者の乗り換わりが起こっていたのも、こだわりの一つだった。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
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