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20240626 『若き日』セルフライナーノーツ⑧

Photo by Mikio Kitahara

ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思った。私たちの『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのテクストを俳優たち自身で選定し、シーンを立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなのでセルフライナーノーツとして、覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。


『若き日』セットリスト。

「9 釈放」は文字通り主人公が釈放されるシーンである。理不尽に逮捕されてから十三日間の勾留を経て釈放される。何がどうということではなくて、なんとなく逮捕されて、なんとなく釈放される。当局の側はどこまでも無礼であって、悪びれることもなくどこまでも意地悪である。

▼今この小説を読んでいて、権力がそのようにして恣意的にある方向の思想を弾圧しまくっているのを見るとさすがにぎょっとしてしまうが、基本的人権がないというのはこういう状態を指すのだと思うとぜんぜん他人事ではない。時の権力によっていい思想と悪い思想とが分けられて弾圧されたのでは人間なんか進歩しないだろ、と思ってしまうので何は無くとも基本的人権と自由だけは守らねばと思ったりする。

▼このシーンと、先の「6 逮捕」のシーンでも使っていた技法というかアイディア(というほどでもないが)で、「誰かが強く足を踏み鳴らす→近くの俳優が倒れる」というパターンはもともと海外の俳優たちが稽古場で遊びでやっていたのを見たことがあって、いつか何かで使えないかなと思っていたものだった。シーンはいつだって遊びから生まれる。舞台上で俳優が強く足を踏むことができたのも所作台があったおかげなので、これもまたクラウドファンディングの支援者の方々には感謝の気持ちでいっぱいである。

▼このシーンの冒頭では「8 俺はなんでもない」のシーンで後景に退がっていた松永が再び舞台上に戻ってくる。戸山公園では勢いよく舞台目掛けて飛び込んできていたのだが、犀の角での公演の時には静かに舞台上へ戻ってきて、静かに横たわっていた。あまりに静かに横たわるので後ろの五人としては看守の姿勢に入るためのきっかけが取りづらくて仕方なかったが、人の演技プランはまず尊重するのが私たちの流儀なので静かにタイミングを合わせていた。

▼看守に相当する俳優たちはこのシーンの間中、同じ姿勢を取り続けているのだけれどこれはこれでなかなかに負荷のかかるものだった。素人のような感想でたいへん恐縮なのだけれども腰を落とし、上げた腕をそのままの姿勢で保持し続けるというただそれだけのことが、見るは易し行うは難しだということがよくわかったので、これからも日々トレーニングを続けなければと思う。

▼そういえばこのシーンの間中、釈放される側の松永は頭に袋を被せられていた(気が付いたら小道具の辻本さんに発注をかけていた)。人間が頭から袋を被るとそれだけで暴力を感じさせ、結構グロテスクで嫌な感じがする効果が生まれていたように思う。「なんでこいつは上半身裸なのだろう」ということに加えて「なんでこいつは袋を被っているんだろう」という疑問符が頭には浮かんでいたものの、聞いたとて松永はその回答を濁しつつ話は断固として聞かずに上半身を脱ぎ袋を被り続けるので、私たちとしては黙ってその後ろ姿を見守るよりほかなかった。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
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【公演詳細】

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