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20240724『若き日』セルフライナーノーツ⑮

Photo by Mikio Kitahara

ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思った。私たちの『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのテクストを俳優たち自身で選定し、シーンを立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなのでセルフライナーノーツとして、覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。


『若き日』セットリスト

「16 汐留君の演説」はこの小説を一読した時にどのようにしても何かしらの形にしてみたいと思って私が選んだ。この小説のテーマのひとつでもある「夢の浮橋」について直接に話している場面である。

▼「手紙」と「演説」はともに演劇に向いている、というセオリーみたいなものがあって、この汐留君の演説も一人の人間が多数の誰かに向かって話している言葉なので思わず聞かされてしまうドライブ感がある文章だった。あとはそれをどういう文脈で発語するか、ということなのだけれども当初はすこしちがう形を考えていた。

▼あらかじめ「こんな感じでこのシーンはつくろうと思っている」ということは共有していて、あるとき稽古場で試しにやってみようとなったときに鈴木大倫が「実際のところ、このシーンはそういうことではないのではないか」と持ち出して、いっとき虚を衝かれたような格好になってみんなが一時停止してしまった。

▼身体に高い強度の負荷をかけながらこの言葉を言ってみたい、という方針はそのままで、その負荷の方向性を検討し直すということになった。誰かしらが「なにかちがう」という違和感を抱えたまま無理に創作を進めるとだいたいよくないことが起こるので、元のプランに多少の未練があっても真摯に考え直すのが一番早いのだった。

▼藤原定家のいう「夢の浮橋」という言葉がこのシーン、ひいては作品全体を通じてのテーマの一つになっていて、その浮橋をなんとか見てみたいと思ったから、自分たちが浮橋になろうと思った。詩人というものの心持として、自分の生きている社会の現実をそのまま受け取るのではなくてそんなものは知ったことではないとあえて捨象し、遠心的に離れることでほんものの華やぎが生まれるという汐留君の説を、フィジカルに追いかけてみようと思った。

▼自分たち自身が浮橋となる、というオプションは間違いなく組み体操をお家芸とされているひげ大夫さんとの出会いがあったから選ぶことができたものだった。そうして自分自身が浮橋の橋げたとなって踏まれてみると、「そうやっていい気になって浮世離れしたことを言うことと引き換えに、お前は誰かのことを踏んづけているのだ」というインテリに対する大衆の憎しみみたいなものを背中で痛みを通じて感じることができた。私自身もまた、芸術だ演劇だといってみるとき、誰かの足を踏んづけている。そうして踏んづけられることの痛みを知るためにこのシーンを選んだのかもしれない。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
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