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20240620『若き日』セルフライナーノーツ③

ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思った。私たちの『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのテクストを俳優たち自身で選定し、シーンを立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなのでセルフライナーノーツとして、覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。


『若き日の詩人たちの肖像』セットリスト。

「3 filter」は、実は今回の公演には参加していない俳優の丸山雄也が、昨年6月に行われた第一期のクリエーションのときにピックアップしてきていたシーンだった。主人公の少年が海を見つめながらはじめての詩の砕片を拾ってくるという場面で、これもやはり堀田善衞さんにとっての”海”のイメージを強く想起させる場面だった(堀田氏は富山県の高岡市出身)。

▼小説を読んでみると分かる通り、物語のはじめと、実は終わりもやはり海、なのだった。私たちは島国に暮らしているということを、なんとなく意識せずにはいられない。だからという訳ではないけれども今回の上演を通じて海や波というものの周期性について考え、それを何かしらの私たちの身ぶりやからだにに落とし込んだようなシーンをつくれないかなということをいろいろと考えていたのだった。

▼「舞台で海を表現するなら、小豆じゃないのか…?」という、ド安直な部分が私たちにはしっかりとあった。舞台監督の齋藤さんがつくってくれた、廻船問屋の扱う積荷をイメージした木箱は、二重底になっていて一番下には小豆を納め、その箱を持つ熊野さんが箱を傾けると波の音が出るようになっていた。そうしてその箱は三線とバイオリンという、劇中で使用する楽器を収納し雨から守る機能も追加されていて、結構な優れものなのだった。

▼「廻船問屋をイメージした木箱を」と言い出したのは松永健資で、彼は木工細工の船を手に持ってこのシーンに参加していた。「どうしても手に船の模型を持ちたい」といって聞かず、いくら助成金をとっているとは言っても公演予算との兼ね合いもあって演出上の交渉が難航していたところ、彼は結局自腹で船を注文して舞台上で掲げていたので、大したものだと思った。

▼このシーンを選んできた丸山雄也という俳優は、諸事情あって今回の公演には参加できなかったのだった。それでも彼が選んできたテクストはこの作品における詩人と詩の関係の原初とでもいうべき大切な部分を担った。自らが置かれた個別の状況と、もう少し長い時間軸で存在する自然を目の前にして詩と出会うという、結構ロマンティックなシーンを、よくぞピックアップしてくれていたと思う。

▼波や潮の満ち引きをイメージしながらシーンは展開していくのだけれど、その立ち上げには鈴木大倫の発想が一役買った。彼が「…っていうのはどう?」と身ぶり手振りを交えつつ、ときに稽古場の床にマスキングテープで動線を示す線を引いたりしながら試行錯誤を繰り返し、いくつかのバリエーションを稽古場で試してみた上で本番で選択したフォーメーションに落ち着いた。舞台上の俳優たちはときに少年であり、ときに満ちては引いていく波になった。そうして人とも自然ともつかぬ淡いを彷徨しているというのが、今回の私たちの俳優のありようでもあった。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
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